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    うまちゃん

    馬のチラ裏置場

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    うまちゃん

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    6期軸、本編後のキタチャンと転生高校生水が駄弁ってるだけ

    生死一如「そういえば、親父さん連れてこないよな」
    水木はアイスコーヒーに刺さったストローを噛みながら疑問を口にした。
    対面では隻眼の少年が将棋盤に四白眼を向けている。紺のシャツと短パン(学童服というらしい)に寅じみたダンダラ縞のちゃんちゃんこという時代がかった出でだちはファミレスではかなり浮いているが、将棋とは妙にマッチしている。この席だけ時間がずっと昔に止まっているようだ。
    少年――鬼太郎を改めて眺めるとそんな、水木らしくない文学的な感想が出てくるのが不思議だ。いや、と水木は思案する。鬼太郎は妖怪少年で、その中でも長命な幽霊族なのだから、文学的な―現実的でない―と思われることも、ともすると事実になってしまうのかもしれない。
    盤に視線を移す。己の駒は見慣れた本将棋の構成だが、鬼太郎側は玉一つだ。ただ裸王ではなく獅子王である。たった一騎で軍と渡り合えてしまう、王より強い王の駒。まさに眼前のモノノケだ。
    詮のない考えに浸っているうち、ストローの先はみるも無惨に潰れてしまった。
    水木は対局相手が長考に入ってしまって手持無沙汰だった。
    「そうだな」
    少年はやっと玉を1マス動かした。
    「会いたいのか?」
    「いや、まあ、そうだな」
    「どっちだ」
    大きな眼の小さな瞳孔が水木を捉えた。感情の希薄な表情は古風な少年の不気味さを増している。関わりの薄い者であればこの妖怪少年の気に障ったと思うだろう。
    しかし、水木はそれが呆れ交じりのキョトン顔だと知っている。鬼太郎は案外見た目通りの中身なのだ。
    「噂でも『記憶』でも、いっつも目玉の親父さんが引っ付いてる印象だったから気になっただけだよ。鬼太郎が連れてこないと決めてんなら構わんさ。妖怪と人間は近づきすぎるべきじゃない」
    先の第二次妖怪大戦とバックベアード再襲来からおよそ2ヶ月、人間と妖怪の関係は未だごたついている。政府が妖怪狩りを半ば公認した『妖怪による不等な行為の防止等に関わる法律』、いわゆる妖対法の撤廃・改定議論は一進一退で本国会中に決着が付きそうもない。有志の人間と妖怪が融和を呼び掛ける一方で、人間に比較的無力な妖怪がリンチされる事件やその報復による傷害、殺人、祟りといった事件が定期的に世間を賑わせている。
    二つの世界がかつての、一線引きながらも斑に関わる均衡に落ち着くか、あるいは新たに平穏な関係を築けるか、先行きは見えない。
    水木は銀将を動かしてみた。
    対する玉はいつになく右往左往している。
    不馴れな変則でお互い攻めあぐねている。二人会うたびに3局も4局も指す本将棋とは違う緊張感が卓を満たしていた。
    「そう、だな」
    「マ、気にすることはない。俺は確かにお前の言う『水木さん』の生まれ変わりなんだろうが……結局他人の空似のようなもんだ。かつてのように扱う謂れはないさ。俺も『水木さん』そのものにはなれないし」
    「当たり前だ。水木は水木だ、無理に『あの人』を思い出そうとか真似しようとしなくていい。こうして僕に会うのだって、『魂の記憶』に引っ張られていると感じているなら」
    「それはないな。お前こそ、俺に養父の義理を感じて付き合ってるならやめておけよ。所詮は人間なんだ。何を企んでるか、何に利用されるか、わかったもんじゃない」
    「ん?」
    「うん?」
    互いに盤から顔を上げた。会話に違和感がある。
    鬼太郎が先に口を開いた。
    「何か勘違いしているみたいだが、水木にみんなをどうこうできるとは思っていない」
    「え、じゃあなんで連れてこないんだ?親父さんと仲違いした訳じゃないよな?」
    「ないな」
    「思春期特有の友だちに親を紹介するのが気恥ずかしい…」
    「父さんに恥じるところはない」
    「素直さが眩しいなァ」
    男子高校生の身分ではなんとなく母につっけんどんな態度になってしまう。別に嫌いとか心底煩わしい訳でもないのに。
    水木は行儀悪く机に肘をついてニヤニヤしてみた。意地悪な視線を少年は気持ち悪いと一蹴した。
    水木は歩を獅子の間合いに差し出した。
    「じゃあ良いじゃねぇか。3人将棋でもやろうぜ」
    「良くない。僕は水木を心配しているんだ。父さんが水木に何かしてしまうかもしれない」
    「何かって」
    何だ。
    誘った歩が獅子王に取られる。
    気温が一気に下がったような錯覚に人間は身震いした。
    「僕らは幽霊族だ。水木の人間としての生をいかようにも変えられる。地獄送りにも異界送りにも、それこそ無理やりかつての『水木さん』にしてしまうことも、久遠の生を彷徨わせることすら……父さんは僕より妖力も知識もある、僕には想像すらできないことだってできるだろう」
    鬼太郎の口調は極めて淡白だった。脅しや騙りではなく、当然のことを確認するだけのつまらなさ。
    その小さな手の内で、歩が弄ばれている。
    妖怪なのだ。
    水木の頬を汗が伝った。恐ろしさで今さら友愛が揺らぐことはあり得ないが、しかし、生きる理の違いを見せつけられる度に水木は新鮮に動揺してしまう。
    獅子王が元の位置に戻る。
    沈黙した水木に、鬼太郎はゆっくりと言葉を重ねた。
    「父さんは『あの人』が亡くなった時に、火葬に拘った。それも骨まで遺さず焼き尽くしてしまった。永遠に甦ることがないように、と。そのときの僕は父さんの意図がわからなかった。文句すら言った」
    「……」
    「父さんは、僕や、父さん自身を怖れていたんだろう。『水木さん』を復活させてしまうのを」
    最近僕は地獄に渡った友人を復活させた、と鬼太郎は告白した。老人のような憂いた表情だった。
    友人は別の友人の手にかけられてしまった。それは悪意ある妖怪の手引きによる、避けがたい不運であった。手を掛けた友人の咎を責めるのは簡単だ。しかし罪を負わすにはあまりに酷だと思える状況で、鬼太郎は罪悪感に苦しみ笑顔の陰ったその人がただ悲しかった。事態を防げなかった己の不甲斐なさにも苛まれた。
    鬼太郎はだから、亡くなった友人を地獄から引き上げた。
    意に添わぬ変化を否定し、理をねじ曲げ、終わった悲劇を帳消しにしようとした。
    「僕が提案したとき、父さんは良い顔をしなかった。ただ、止めることもなかった。勝手に拐かすのではなく閻魔大王の許可を得よとだけ言って、地獄に入ってからも静止はしなかった。地獄を否定するような行いだ、閻魔大王に窘められることを分かっていたんだろう」
    しかし、それは上手く行ってしまった。ひとえに鬼太郎の悪あがきによって。
    友人や仲間の多大な協力があったとはいえ、鬼太郎は叶えてしまったのだ、あり得ざる冥界下りを。
    神様にもできなかったことを、と水木は感心すら覚える。
    鬼太郎は歩を静かに手元に置いた。
    「僕は死を恐ろしいと思う。だが近頃は、死をキチンと理解していない、とも感じる」
    「そりゃ、誰だってそうじゃないのか?死んだことがないんだから」
    「でも、みんな簡単に死ぬだろう。人間や動植物は復活もしない。僕は自分で言うのもなんだが、すごくしぶとい。蒲鉾になってもなんとかなったし」
    「蒲鉾になるってなんだ」
    「死人だって地獄にいる内は会おうと思えばいつでも会えるんだ。いや、地獄にいなくても、輪廻の先や浄土にすら行けるかもしれない。過去に遡る術もあるらしい」
    「でも、お前たちはそれで普通なんだろ?別に他に合わせようとしなくてもいいんじゃねぇか?」
    「あのな、」
    前が開いたので飛車が飛び出して成った。鬼太郎はじとっと水木を見やる。
    「水木は現世と地獄と妖怪の世界とをごちゃ混ぜに繋いだ、ダイダラボッチや龍が日常的に闊歩する世界で生も死もなく永遠に過ごしたいか?」
    「鬼太郎くん、世の中には覆してはいけないルールがあるんだ。銀は玉にはならないし、死人は甦らないんだよ」
    「まったく」
    下駄を履いた足が学生服の膝を軽く蹴りつける。水木は大袈裟に痛がるふりをして、スマンスマンと笑った。
    「だがお前の親父さんはその辺弁えてんだろ?」
    ああ。鬼太郎は盤を覗き込んで難しい顔をする。
    「でも父さんは遺体を灰にした」
    「それが?」
    「『水木さん』は父さんにとって特別なんだ。父さんが人間から見た世界をよくよく知っているのは彼のお陰だという。彼が人にとっての死を父に身をもって教えた」
    一方で死の理を曲げてもいいと、そんな誘惑が沸くくらいには、目玉親父は『水木さん』を大切に思っていたのだ。そうでなければ復活不可能なほどに遺体を焼く必要はない。
    友の魂を弄びたくないが、やってしまいそうだったから、手放したのだ。
    「ああ、なるほど」
    水木は角行を裏返した。次で王手だ。
    「頭では分かっているが、実際目にしたらどうなるか分からんと」
    「父さんは地獄に行くときも決して『水木さん』には会いに行かなかった。僕は一度だけ会いに行ったけど、父さんにも『水木さん』にも止められた」
    「徹底してるな」
    「それだけ重大なんだろう。父さんにはまだ水木のことは伝えていない。もちろん、水木がどうしてもというなら場を用意するが、力のある妖怪と関わる危険性をよく考えてくれ」
    鬼太郎が歩を馬の盾に置く。いよいよ大詰めだ。一手一手の間隔が狭くなってきた。
    「心配ありがとう」
    だが、と水木は続けた。
    「たぶん問題ない」
    「なぜそう言い切れる?」
    「そりゃ、もう会ったから」
    鬼太郎の手から玉が転げ落ちた。まわりには馬の他にと金と龍もあるので置ける場所はなかったが。
    はくはくと少年の口が開閉する。金魚のようで可愛らしい。数秒して鬼太郎は卓に身を乗り出した。
    「いつ?どこでだ?なんで教えなかったんだ!」
    「いやァ知ってるもんだとばかり。だって2回目待ち合わせするとき、お前が来る直前に顔だして来たんだぜ、アイツ。それからちょくちょくメールしてる」
    「最近オババのPCをよく借りに行くと思ったら!」
    「なんだよホントに聞いてないのか。いつも一緒なのに」
    「別に、四六時中一緒なわけじゃない。なんだ、そうだったのか」
    ヘナヘナと合成皮のソファに鬼太郎が身を沈める。大声で迫ったり、こうして脱力してみたり、無表情な友人にしては感情的な姿は水木の心を擽った。面白い。
    「で、やるか?三人将棋」
    「いや、やめておく。水木との友人関係に父さんが関わってくるのはなんか……」
    「やっぱり思春期じゃねぇか」
    ちがうッと少年が吼えた。水木は小さな友人の髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜた。
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