Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    grpu_hh

    @grpu_hh

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🌺 🍣 🍍 🍜
    POIPOI 16

    grpu_hh

    ☆quiet follow

    守が死んだ日神様との契約を打ち切ったのだと告げられたのは、彼が死ぬ前日だった。
    普段通りに自身の愛する駄菓子屋で小さな常連たちと他愛ない会話をした後のこと、まるで言い忘れていた事を思い出したように彼はそう言ったのだ。

    「そういや俺、明日死ぬんだわ」

    いつもの冗談にしては重く、反するようにあっけらかんとした表情。彼が不死の身体だということとその体質を利用する立ち回りをしろとは、これまで何度も言われてきたし実際にその様にしていた。ずたずたにされた体が修復される様を眺めたこともあれば、途中で手を出して阻止したこともあった。そうしてその度に僕はこう思ったのだ。これは契約ではなく、生を冒涜する戒めだと。

    「聞いてるか?」
    「うん……ちょっと、信じられなくて」

    彼は、口先だけで一人の人生を180度変えるほど、極道組織の頂点に座するにふさわしい才能を持っている。そう容易く信じるわけがない。

    「本当はもっと前に契約切ってたんだがな、折角ならどこかのタイミングで上司らしくお前らを庇って死んでやろうかと思って、黙ってたんだ。でもこういう時に限って誰もトラブル起こさねーでやんの。町の外も同じ、何も起きなかった……」

    吹き抜ける風すら優しく、僕らを撫でていく。

    「で、気づいたら明日にになってたってわけ」

    腰に手を当て、いつもの様に眉間に皺を寄せ笑う。死ぬ前にこうも明るく振る舞う男を見るのは、これが初めてだ。

    「やっと死ねる、って思ってる?」
    「あー、まあ……そうだなあ」

    季節は秋に差し掛かる頃。山々の蜩の声と、ぐんぐんと暗くなっていく空。彼の表情も次第に判断し辛くなっていき、話しかけてもあやふやな返答ばかり。ああこの悪夢はきっそ、死ぬまで忘れられそうもないな。そう思ったのを、今でも覚えている。


    翌日、彼は僕らの前から姿を消した。町は一丸となり隈なく捜索したが、数か月経っても少しの痕跡も見つかる事はなかった。
    それから何年も経ち、人里離れた山奥に咲く一本の桜の木の下に落ちたシガレットラムネの空箱を偶然見つけた青玉は、いつかの彼を真似して空箱の底をトントンと叩き、出もしないラムネを咥え、そして木を見上げた。

    町の人に愛されていた君のことだ、この小さな町のどこにいても、君は容易く見つかってしまう。きっと君のことだ、神様に頼んで誰にも見つからない様にしてもらってたんでしょ。ねえ、やっと死ねるなんて言う人間がそこまでするかな。僕には君が、ううん、やめた。もう答え合わせは出来ないし。それにどうせ今晩も、夢の中にあの日の君が出てくるんだから。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works