茜高校の頃に書き始めて、後半手前で埃を被っていた作品。僕の癖が詰めに詰められたお話。
蜻蛉に魅了された純粋な子供が、やがて社会に飲まれつまらない大人になる。淡々と上司の命令に従い、昇進の為には結婚してないとというルールの為に結婚する、妻が出来てからも男はどう変わるわけでもなく女は家で男を支えるべきという当たり前の女のモラル、男は稼いで当然のモラル。男女の価値は明確に示されている。
妻が死んでも涙も流さなかった男は定年後、自分の建てた家で一人趣味に選んだ盆栽を手にする。
自分に張り付いた、余計なモラルを切り落とし、自分の為のルールを作り上げる庭。男の心が安らぐのはいつぶりだろうか?
そしてふと舞い降りる転機は赤、野生の蜻蛉に触れあの日の悔みが薄れる。まるで許しに来たというように蜻蛉は触れ、離れていった。
そこで男はようやく虚無の吐き出し方をしる、雫となった後悔が落ちていく。男はようやく大人になったのだ、悲しみも弱さも悔しさもそんな事で泣くとは男らしくないと縛られた雁字搦めな自分から、自身の心と向き合った。
妻の名前は「茜」という、物静かな女性だった。彼女は優しく慎ましく決して責苦を口にしない女だった。物語は男の独白と後悔、懺悔で締められている。男は蜻蛉をまるで静かに側にいた妻に重ね一人悲劇に酔いしれているに過ぎない、許された気になった懺悔になんの意味があるのか、それを言う相手などもう居ない。惜しむらくは女が先に死んだ事である、もし生きていたら、墓前に立つのが女の方であれば女は男に謝ってほしいと言っただろうか?無論と趣味事に勤しみ、自身の庭を造る程の金を使い、まるで重荷を下ろすように懺悔して、あまりにも自己満足である。
女は、助けを呼ぶことも無く死んだ。
叩き落とされた赤、自由だった生き物は地面に伏す。女は捕らわれ生涯を終えた、女の羽を捥いだのは間違いなく大きな力を持つ男だった。
独りよがりの懺悔、許されたいだけの自己満足、それを許す世界のルール、人間の感情を求めない社会モラル、大好きですね。これ程明確にわかりやすい構図だと夫々の役割が書きやすいですし、そんな規則に従っただけの人間が自分は悪くないと言うように助かりたがる懺悔が愚かで虚しく大好きですね。
昭和臭い雰囲気で、全体的に重く簡易的に書かれてます。男の独白なので男の思い出に強い所が中心です。妻の葬儀の事なんか覚えてないだろ、絶対と思うような皮肉には自分に言われた悪口を中心に覚えていただけ。どうあってもエゴな男。
結局彼は最初から最後まで他人に興味のない奇妙な生き物です、彼の心を動かすのはひたすらな美しい赤。だから彼は無意識にあかねと結婚したのです。
締めが微妙なので書き直そうか悩んでます、あと個人的にとっても好きなので表紙誰かに頼もうかと思ってます。