エルスさん 「旅」 ガラの悪い奴ばかりだ。この町に入ってから、スリかさもなくば暴漢か、そんな奴にばかり出くわす。金はくれてやってもいいが、この形見だけは渡してなるものか。
胸元のポケットを触り、形見であるブローチが入っていることを確かめる。首から下げられるように皮紐を通してあったが、町に入ってすぐにポケットに仕舞った。
向かいからまた数人、ゴロツキが群れて歩いてきた。視線が殺気立っている。ここまでに伸した、どいつかの仲間なのかもしれない。随分仲間思いなこった、と考えている間に、全員が地面に這いつくばっていた。
「わぁ……!!!」
気配を感じなかったのに、背後で子どもの声が上がり、思わず勢いよく振り返る。
「お前……!!まだついてきてやがったのか……!!」
「だってまだお兄さんのこと何も教えてもらってないじゃないか!!なんで逃げるんだよー!」
年端もいかないその子どもは、ずっと後を付けてきたようだった。気配に聡いと自負しているが、こいつの気配に全く気づけない。巻いたかと思えば、こんな調子のやりとりがさっきから繰り返されている。
「ったく、仕方ねえな。お前、名前は?」
「えー俺から名乗るのー??まぁいいや。
エルスって言うんだ。お兄さんは??」
「……奇遇だな。……俺もエルスだ……。」
坊主との旅の始まりはこんなふうに呆気なく始まった。この時はまだ、あんなに長い長い旅になるとは、思いもしていなかった。
ふーっと息をついて、紙の束を閉じる。走り書きしたメモを眺めていると、お兄さん、もとい、おっさんとの記憶がいくつも思い起こされる。
身寄りのなかった俺は、おっさんにいつまでも着いていった。いつしかおっさんは追い返すのを諦めたので、ちゃっかり一緒に旅ができた。
そうするうち同じ名前だと案外不便で、いつしかおっさんと呼ぶようになってからは、気安さに拍車がかかったた。
楽しかったなぁ。いつか、俺自身ももっと歳を取る。その前に、この記憶を少しでも残しておきたいものだ。いつか、すべてを綴ろう。ぼんやりと考えて、紙の束を、他の束の中に放り投げた。