まいんさん「スライムの宝物」 ある沼地の向こうに、広い広いダンジョンがあった。そこには、初心者から手練まで、数多の冒険者が集まり、ダンジョン内にも関わらず、街ができるほどだった。
そんなダンジョンには、入ったら二度と帰ってこられないと言われている、底なし沼の一帯がある。水芭蕉が群生していて、年中咲き誇って見事だが、鑑賞する者は誰一人としていない。
そんな沼地の隅に、どこから運ばれたのか、大きな鏡が置いてあった。沼地には似つかわしくない華美な装飾のそれは、あるスライムが毎日覗き込んでは擬態した姿を試行錯誤していた。
「腕はもっとすっきりと細く、でもやわらかそうな肉感は残して…」
誰にともなくそのスライム、まいんがつぶやく。すると水色の流体から、瞬く間に白くすらりとした腕が1本ずつ生えてきた。
「胸は豊かに、でも品良く上を向いて…」
そんな調子で少しずつ若い女の裸体が出来上がっていき、やがて髪が生え、服や装飾品から靴までを身にまとった。
「声は…あ、あー、あーあー。こんな感じかな??」
それまで低く響いていた声までもが、不自然でない程度に高くなった。そこに居たのは、最早1匹のスライムではなく、踊り子のような短いスカートを履いた、大きなツインテールの若い女だった。
「うん!かわいい!でもさ、ちょっと溶けてる方がもっとかわいいよね!」
そう言うと、その女の輪郭が所々とろりと溶ける。
「よし!この子の確認はOK!!次!」
そう言ったかと思うと、バシャっとスライムに戻って鏡に向かい流れた。今度はまた低い声で確認が始まる。
「オスの人間はもう飽きてきたんだよな…。さっさと確認しよ。えーっと、筋骨隆々はやりすぎ、似なくなる。身長はこの位で、猫背だから背骨を…。」
その時、遠くでリーンゴーンと鐘の音が響いた。この音は日が沈む合図であることを、とうにまいんは知っている。
「あ、もう餌の時間だ。忘れると人間はすぐ死ぬからな…。」
言いながらまいんは、中肉中背の猫背の男に擬態した。大量の餌を運ぶには、スライムより人間の方が楽だからだ。
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沼地の奥まった場所、岩場のかげには、隠されたようにまた沼地があった。そこには転々と小島のような陸地があり、2、3人寝転んでも余裕がありそうなものから、1人で立ってるのがやっとなものまで、大小様々だった。その陸地に、人間が1人ずついた。陸地は周囲に広がる底なし沼のせいで、まるで牢獄のようだった。
しくしくと泣いている若い女や、しきりに周りをキョロキョロと不安そうに見ているやせこけた女。力ない声でうめきながら横たわる男は、どうやら手足の腱が歪に絶たれているようだった。
周囲に咲き誇る水芭蕉のせいか、その光景はより異質なものに感じられた。間もなく、彼ら人間にとっては恐怖の時間が始まる。ほら、足音が聞こえてきた。