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    ひまつぶしエンジェル

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    POIPOI 7

    2025/3月 大聖堂イベ 500pt小説依頼枠
    Uちゃん(3507pt)
    「Uちゃんのヤンデレホラー」

    Uちゃん「愛の配分」 それは、Uの配信を聞いていた時だった。Uの声の後ろに、特徴はないが聞き覚えのある音がしたのだ。Uも話し続けているから、本人も気にしていないのだろう。近所の地図と、これまでUが少しずつこぼした情報を照らし合わせて、あの辺だと当たりをつける。こんなに近くにいたなんてと、喜びが湧き上がった。他に気づいている奴はいないか慌ててコメントを確認するが、音に触れる物はない。
     
    「ねぇちょっと、ちゃんと聞いてますか…?」

     コメントが止まっていたからか、誰ともなしにUが問いかけてきた。それが自分に言われたように感じて、思わず「ごめんごめん。」と言いながら、同じようにコメントする。

    「まったくもう。私の配信中にぼーっとしないでください!それでね…」

     とにかく今は、彼女の配信に集中しよう。

     ――――

     配信が終わってから昼食をかき込んで、すぐに家を出た。はやる気持ちが抑えられず、Uが住んでいるであろう地域に向かって自転車を走らせる。
     少しして到着すると、急に冷静になった。特定して、会って、俺はどうする気だったのか。実際に行動に移してみて、様々な問題点に思い至る。
     これはやってはいけないことだ、と急に頭の中で警報が鳴ったようだった。帰ろう。彼女の存在に近づけただけ、生活圏に足を踏み入れられただけで、他のやつらより近づけた、と言い聞かせる。
     振り返ろうとしたその時だった。

    「なんで帰ろうとしてるの…?」

     聞き間違えるはずのない声が聞こえたその瞬間、背中に何かが押し当てられて衝撃が走った。「スタンガンってこんな感じなんだ。」というやけに気の抜けた感想が浮かんだが、それもすぐに暗転した。

    ――――

     目が覚めたら、そこは見知らぬ部屋だった。よく目にする言葉だが、まさか自分に起きるとは思ってもいなかった。
     起き上がると、じゃらりと音がした。それは足首の鉄輪とベッドに溶接された鎖が鳴った音だった。
     部屋には自分が寝そべっているベッドと、机と椅子が一揃え置いてあるだけ。立ち上がってみると、玄関に続いているであろう扉までは、ギリギリ歩くことができた。扉には鍵が掛かっているのかビクともしない。普通の部屋なら窓がありそうなものだが、それも無い。本来窓がありそうな場所をコンコンとノックしてみると、やたら硬い音がする。コンクリで潰したのかもしれない。
     そこでふと床に目を落とすと、隅にゴミ袋のような物が山積みになっていた。持ち運びのできる、簡易トイレだった。
     ここでしろってことかよ、と一瞬悪態をつきそうになったが、ペットボトルとか言われるよりはマシだ。
     ここは一体どこなのか。どれくらい気を失っていたのか。俺がいなくなったことに気づく人はいるのか。
     色んなことが頭をよぎったが、とにかく、Uが関わっていることだけは確かだ。
     普通ならパニックになるはずなのに、それだけで、この状況をどこか良しとしている自分がいる。
     その時、ピロンとスマホの通知音が聞こえた。音のする方を振り向くと、机の上にスマホが置いてある。よく見るとそれは自分のものだった。
     勢いよくスマホを手にして覗き込むと、そのままホーム画面が表示された。掛けて合ったはずのロックが消えている。見慣れたはずのホーム画面も、IRIAM以外は跡形もなかった。

    「な、なんでこんな…」

     混乱する自分とは裏腹に、扉の向こうから場違いに明るい声が聞こえた。

    「あ、おはゆー!」

     Uの声だった。
     
     思わず、勢いよく扉を振り返るが、そこには閉じたままの扉があるだけだ。目玉が転がり落ちるかと言うほど、扉を凝視した。
     確かに向こうから、Uの声が聞こえてくる。扉を透かして見える訳がないのに、目が離せなくて、気づいたら、扉に耳を強く押し当てていた。間違いない確かにUの声だ。様子からして、向こうにある部屋で配信を始めたようだ。
     机の上に置いてきたままのスマホを、慌てて取ってきて、また扉に飛び付いた。IRIAMを開くと、Uの配信開始の通知が表示されたので、考える前にそのまま入室する。
     
    「あ!おはゆー。」

     いつものUだ。扉の向こうから聞こえてくる声と同じく、動揺は全く感じられない。こんなことをしでかしているはずなのに、と拍子抜けする。
     あまりにいつも通りで、俺の全く知らない誰かが、Uの配信をスマホで見ているだけなのではないかという疑念が頭をもたげる。
     いや、でも、気を失う前に聞こえた声は、確かにUのものだった。考えを行ったり来たりする度に、鼓動はどんどん早くなって、背中を嫌な汗が伝う。
     Uの声が、遠くで響いているようだった。どれくらいそうして考え込んでいたのだろう。

    「ねぇ、またぼーっとしてるんですか…??」

     扉に張り付けた耳のすぐそばで、Uの声が聞こえた。
     色んな気持ちがごちゃごちゃと混ざりあって、涙が頬を伝っているのに気づいたのは、それが手の甲にぽとりぽとりと落ちた時だった。
     驚きのあまり声を上げなかったのが、刺激してはいけないと思う自分のためなのか、配信中のUのためなのかは分からなかった。

    「あらあら…!泣いちゃって、かわいい人ですね。」

     監視カメラでも付いているのか、俺が泣いていると気づいている。
     Uがおどけたように言うから、反射的に愛おしい気持ちが湧いたが、同時に、配信中に俺に話しかけてもいいのかとハッとする。こんな時でも、思わずUを心配してしまう自分が嫌になった。

    「…配信ならもうとっくに閉じましたよ?…本当に聞いてなかったんですね…。」

     一気に声の温度が下がる。

    「ねぇ…私の事、1番だって言ってくれましたよね??どうしてその1番が配信してるのにぼーっとしてるんですか???それに、他の子の配信も見てましたよね???私が配信してなかったら、私の事考えられないんですか???」

     ボルテージが上がっていく調子と、矢継ぎ早に言われる言葉に、胸がぎゅっと締め付けられた。

    「…だからね、あなたのフォロー欄は1人ずつ丁寧に、ブロックしておきましたよ。これで、少しは私に集中できますね。嬉しいでしょう???」

     Uは優しく優しく、そうした行為がまるで善意みたいに言った。そう思う一方で、1リスナーにしかすぎない俺にそこまでするなんて、と歪んだ喜びに満たされる。
     拉致、監禁されてなお、こんな風に考えてしまうなんて、世間一般的に考えたら俺もおかしいんだろう。
     生唾を飲み込む。もしかしたら、俺はUのただ1人の大切な人間なのかもしれない。恐る恐る、気持ちを口にした。

    「ちょっとびっくりしただけだよ。U、俺も愛してるよ。お前だけだ。」

     扉の向こうの気配が、ピタッと固まったようだった。

    「嘘。そんなの信じません。あなたもここから、いいえ、私から逃げたいから、そんなこと言うんですよね??そんなの駄目。私の愛がちゃんと分かるまで、あなたはそこに居てください。」

     聞き逃すことができない言葉に、今度は俺が固まってしまった。

    「あなた、も…???」

    「私は分かってほしいだけなのに。皆皆、愛してるのに、どうして分かってくれないの…。」

     俺は、怒りで我を忘れそうだった。
     私だけを愛してというその口で、俺以外のやつらのことを考えて話すUが、途端に別の生き物かのような気がした。

    「分かってないのはお前だ、U。ここから出せ。今すぐ分からせてやる。」

    「あーそうゆうこと言っちゃうんですね。……絶っ対に出しません。」

     扉を手で撫でさする、サリサリとした音がする。Uは扉に頬を付けているようで、ふふふと嬉しそうな声が聞こえた。

    「あなたはここでこうしてずーっと生きていくんですよ。安心してください、大切にしますから。そのうち、お手洗いだってちゃーんとトイレを使わせてあげます。だから、ね?毎日毎日毎日毎日毎日毎日、私だけのことを考えて生きてください。」

     我慢ならなかった。この女…!!と心の中で悪態をつき、絶対に脱出して、俺がどれだけお前を愛しているか分からせてやる。ついでに他の奴らは全員追い出して、俺ほどのやつがいたら殺してやる。
     この瞬間まで、こんな訳の分からない自分の思いは無視していた。先に一線を越えたのはお前だ。気づくと、ふーふーっと荒い息を出して扉を睨みつけていた。

     とても悲しそうなUの声が聞こえる。
     
    「お願い、そんなに怒らないで。喧嘩はイヤ。ね?」

    「U、お前は俺の事を何にも分かってない。」

    「ふふふ。あなたも私の事、なーんにも分かってないですよ。だから、これからしっかり教えてあげますね。」

     そうやって俺たちはどこまでも噛み合わないまま、Uが扉の前で立ち上がったようだった。

    「食事は1日3回、ちゃんとお渡しします。扉の下に小さな開け口がついてるでしょ?でも、ほんの少しでも逃げようとしたら、めっ、ですからね。」

     そう言うと、Uは玄関に向かって歩き出した。俺にはただ、みっともなく這いつくばって、その細い足首が遠ざかるのを開け口から覗き見ることしかできなかった。
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    ひまつぶしエンジェル

    DONE2025/3月 大聖堂イベ オリジナル小説依頼枠
    まちちゃん(500pt)
    「悲しい大人っぽいラブストーリー」

    大人ってことは将来を見据えてるってことだと思うので、そうゆう感じで書きました!ラブかなぁ??
    まちちゃん「夢見」 「ねえそれまだあるってー。買わなくていいってば。」
     「お前ストックって考え方はない訳??あった方が安心だろー。」
     
     スーパーの調味料売り場で、ぶーっと不満気な顔をする私を無視して、彼は笑いながらマヨネーズをカゴの中に入れた。
     
      「私の家のストック増やしてどうすんのよ、もー。」

     カゴの中のマヨネーズを持って、棚に戻す。

     ――――
     
     パチリと目を開いた。
    自分の部屋の天井が見えて、あぁさっきのは夢だったんだ、と理解する。
     夢の中でまで、軽くとは言え喧嘩するなんて。でももう彼に合わせてマヨネーズをストックすることもないし、彼のいたずらっぽい笑顔を見られることもない。
     別れて半年、酒を飲む度に泣くから、最初は慰めてくれていた友人たちも、またはじまった、と呆れるようになっていた。元に戻れるよ、が、諦めも大事かもね、と言われ始めたのはいつからだろう。季節の移ろいと共に変わった慰めの言葉に、二度と恋人へ戻ることはないのだと思い知らされる。
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