大学生オビトの災難「最近、急にモテ期が来た…」
たまの飲み会。
久々に二人で、という誘い文句で居酒屋の席に座ったカカシは、向かいに座るオビトのそんな呟きを聞いて顔を上げた。
「よかったじゃない。オビト、昔から散々モテたいって言ってたよね」
「いや、それが全然よくねぇんだよ!」
ガンッ!とオビトはビールジョッキを卓上に置く。オビトはカカシと同じく、名門木ノ葉大学に通う学生である。
昔馴染みのオビトとカカシは、高校を卒業するまでは一緒にいることが多かったが、大学に入ると学部の違いで会う頻度は減っていた。それでも、全く会わないわけではない。成人してからは特に、こうやってお互いが飲みに誘い合うことは、ままあった。
「よくないって……どーいうこと?」
今日は週末で、明日はバイトのない休日。そして今の時刻は終電間際。すっかり夜も更け、オビトの酔いは極みに極まった頃合いだった。
「それがさぁ…聞いてくれよぉ…」
語尾の伸び切った酔いどれ声を皮切りに、オビトは溜めていた愚痴を一気に解き放つように、ベラベラとしゃべり始めた。
「ちょうど一ヶ月前の夏休み、シスイがイタチとオープンキャンパスに行きたいって、オレの家に泊まりに来たことがあったんだ」
「ん?イタチは高校の時オレの後輩だったから知ってるけど…シスイってお前の従兄弟だっけ?」
「いや、はとこ…だったかな?わりと歳が近い遠い親戚。ウチの家系図よくわかんねーから忘れちまった」
「ふーん…それで?お前んとこの狭いワンルームに、野郎三人で泊まったってこと?」
「狭くねーよ。元は2Kの部屋だぞ」
「ああそうだ、オレが見つけてやったんだった。あの家具の配置が壊滅的過ぎて狭く見える部屋な」
「喧嘩売ってんのか?…まぁ、ウチの家具の組み立て手伝ってくれたお前は知ってると思うけど…二人はまだしも、セミダブルベッドに男三人が寝れるスペースなんて無くてさ。一人は床行きが確定してたんだよ」
「で、結局泊らせたんだ?」
「結論を急ぐな。あの二人、アポ無しで突然来やがった上に、夜遅かったから追い返すのも微妙でさ。金もそんなに持ってねーって言ってたから、仕方なく泊まらせることにしたんだ」
「あ、思い出した。オビトが深夜にウチに泊まりに来た日か」
「そうそう。寝支度だけ整えた後、オレが『カカシんちに泊まるから』って出て行こうとしたら、引き留められてよ。シスイなんか『オビ兄がいなきゃ意味ないんだけど』なんて言い出して。イタチはイタチで『もしかしてカカシさんと付き合ってるんですか?』なんてバカげたこと聞いてくるし…」
「オレも眠かったからよく覚えてないけど、ウチに来るやいなやソッコーで寝てたね。お前」
「振り切るのマジで大変だったんだぞ?アイツら本気でキレ出して。オレは急にベッドの上に突き飛ばされてさぁ…イタチは体に乗りかかって来るわ、シスイは『オレ達、オビ兄とこうする為に来たんだよ?』っつって服脱がそうとして来るわで……だから」
「だから?」
「ブン殴って逃げて来たんだ」
「プッ…!!何オマエその足でオレんち来てたの!?」
「あぁそーだよ…今になってやっと言えるがな…」
「はー…笑える。で、二人はその後どうなったんだ?会ったの?」
「いいや、会ってない。家に帰ったらベッドの上に『また来ます』と『諦めないから』って書かれた紙が置かれてた」
「ガチのヤツじゃん」
「……今までアイツらとは、盆と正月に会うことはあったんだけどよ。ウチに泊まりに来ることは初めてで。あん時ゃただ、ハシャいでフザケてただけだと思ってたんだが…」
「そっか。よかったネ。未遂で終わって」
「シスイもイタチも昔はかわいかったのによぉ……どうして…」
しくしくと泣き出したオビトの肩を、カカシは慰めるようにポンポンと叩いた。拳で涙を拭いたオビトはぐすぐすと話を続ける。
「それだけじゃねぇんだ…サークルでも似たようなことがあって…」
「サークルって、新歓の時に無理やり参加させられたっていう『暁』サークル?」
「そう…他大学との交流が就活で役立つからって入会させられた後、やめるにやめられなくて続けてる『暁』サークル」
「たしか、ヤバイインカレがあるからって、去年ウチの大学で勧誘廃止になったんだよね…オビト、今じゃすっかりそこの幹部なんでしょ?」
「不本意だがそうなる…でもヤバイのは一部の新興宗教の信者だけで、他は………まぁ、ヤバイな」
「ダメじゃん」
「そうなんだよ…全員ヤバイ奴ばっかで……デイダラ先輩は『オイラ達合同作品のモデルにするから全裸になれ!』とか言って迫ってくるし」
「え。全裸になったの?」
「なるわけあるかっ!!拒否ったらサソリが『じゃあ下半身だけでいい。用があるのは尻だけだ』とか言ってきて…そんで逃げようとしたら爆竹投げられた上にワイヤーで縛られそうになって…まあそれでも逃げたけど!!」
「そっか。捕まんなくてよかったネ。てか、前から思ってたけど、デイダラは年下でしょ。何で先輩呼びしてるの?」
「向こうの学園祭で後輩女子高生キャラ演じたクセが残っちまって…って、それはどうでもいいんだよ」
「いやものすごく気になるな、そこ」
「あまり突っ込んでくれるな……んで、極めつけはサークル顧問のマダラだよっ!あのクソ教授!何が『ゼミの論文で不備が見つかった。授業が終わり次第、砂利は即刻オレの研究室に来るように…』だ!行ったら不備なんて無かったし!扉を開けるなり簡易ベッドに押し倒されて『大人しくしていたら単位をくれてやる。代わりにお前の処女をいただくぞ』とか言われて閉じ込められそうになるし!!それもなんとか逃げたけど!!」
「…よく逃げられたね」
「トラウマだわ…あの研究室二度と行かねェ……そのあと、同じゼミ生の鬼鮫に助けを求めに行ったらさ、『それは災難でしたね』って労ってくれたから、オレは『もう頼れるのはお前しかいない』って伝えて、提出書類のやり取りをお願いしてたんだ……そしたら今日、急に背後から抱き締められて、ビックリしてたら次はうなじを噛みつかれて『知ってますか。鮫の求愛行動は咬み付くことなんですよ…』ってよくわかんねー鮫知識披露されるし!!不覚にも一瞬、ときめいちまった自分が情けねえっ!!」
「あーだから今日はタートルネックなんだ」
カカシは俯いて頭を抱えるオビトの黒色タイトな襟首を引っ張り、ギザギザの歯型を確認した。
「うわー…痕、残っちゃってるな」
指の腹でよしよしとカカシに撫でられる。酔って赤みを帯びたうなじには、汗が滲んで湿り気があった。オビトは涙ながらに「何でアイツら全員、オレのケツを狙ってくるんだっ!?」と叫んだ。
「大体っ!!オレがモテたいのはっ!!リンだけだからっ!!」
そして、オビトはジョッキに入った残りのビールを飲み干した。
「どうしようカカシ…オレは、オレの貞操が心配だ…」
「かわいそうに。今夜はオレがとことん付き合ってあげるから、好きなだけ飲んで忘れな」
「うぅ…ありがとう、カカシィ…お前ってホント、昔から細かくて嫌味ったらしいヤツだけど…オレはいつも、お前の財布だけは頼りにしてるんだ…」
「何それ全然嬉しくない」
「今夜の飲み代は、頼んだぞ…」
そのセリフを最後に、オビトは机に突っ伏し、いびきをかき始めた。カカシは溜め息を吐いて、二人分の会計を済ませた。
「ま、かく言うオレもお前のケツを狙ってる男の一人なんだけどね!」
パタンと財布を閉じる。ニコリと笑ったカカシは、二人分の荷物を持ち、寝入るオビトの肩を担いだ。
「今夜のお礼は貞操でいいよ」
そうして、カカシは酔い潰れたオビトを抱えて、上機嫌に家へと帰っていった。