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    poppokyo

    @poppokyo

    ネタをポイポイします。

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    POIPOI 17

    poppokyo

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    けじぇふらっとさん(@kjefrat)が書いてくださった私の妄想(https://poipiku.com/11313044/12071594.html)をさらに広げました。人を選ぶやつなので何でもオッケーな方以外読まないほうがいいぜ…主にobt視点です。
    漏れや書き損じ、穴があったらすみません。
    えっちな続きはけじぇさんが書いてくれると信じて……なんてね。たぶん手が空いた方が書く。

    ドルパログラビア!?つー! うちはオビトは特殊な家庭で育った少年だった。いや、『家庭』というより『家系』と言った方が正しい。
     オビトの家系はいわゆる、芸能一族だった。その始祖は戦乱の世が治まったばかりの時代まで遡る。
     文化が栄え、華開いた平和な時代。低俗、下賤、無意味だと称されていたものに価値が見出され、評価をされて尊き立場までのし上がった文芸の数々──その一つに名を連ねる、とある伝統芸能を主軸とした『うちは家』が、オビトの直系であった。
     けれどオビト自身は、そのうちは家の一員であるという意識が全くなかった。それもそのはず。物心つく前に亡くなってしまったオビトの両親は自分達の一族から歓迎されない結ばれ方をしたようで、親族との関係は絶縁状態に近かった。そして遺されたオビトも当然、両親と同じ扱いを親族から受けていた。
     オビトは自身の家事情について、親の口から直接教えてもらうことができなかった。天涯孤独となったオビトは邪険に扱う親戚達にたらい回しにされた末、その親権は一族に嫌われている血縁者の男の元へと渡った。一族からすれば、異端者は異端者に、という考えだったのかもしれない。

    「じじいは寝ねぇの?」

     幼いオビトは泣き虫で、一人で寝るのが怖かった。そんなオビトを引き取った男は常に渋面をしているような壮年の男性だったが、当時のオビトにとっては頼れる者がその男しかいなかった為、たとえその男が怖くても慣れるしかなかった。

    「まだ眠れん。お前は寝てろ」

     家庭環境によって口が悪くなったオビトに負けず劣らず、その男も幼子に対していい態度を取るような者ではなかった。

    「オレにはやるべき仕事がある」

     その男は歳を重ねているはずなのに、どこか美しかった。加齢すら魅力にする男を、幼いオビトは単純に綺麗だと思った。頭では理解していなかったが、オビトは本能的に自分と似た空気をその男に感じていた。

    「…まだ寝たくねー」
    「寝ろ」
    「やだ!なぁじじい!オレさ、あれが観たい!キラキラしたやつ!」
    「…またか……まあいい。勝手にしろ」

     そうして男から投げ捨てられたタブレット端末を両手に持ち、オビトはソファに寝転んだ。カタカタと響くキーボード音をBGMに、"それ"を観ながら眠るのがオビトの日常だった。
     光る画面に映し出される。煌びやかな世界で活躍するその血縁者の映像を、オビトは家の中で何度も見ていた。
     だからだろうか。きっかけは子どもらしい、純然たる好奇心に乗せられた一言から始まった。

    「じじい!オレもアイドルになりたい!」

     映像の流れる電子板を眺めながらオビトは思った。自分もこんな輝くような舞台に立ってみたい──と。
     目をキラキラさせたオビトが最初に憧れたのは、そこに映る血縁者の男──養い親であるマダラ──ではなく、その隣に立つ柱間という男性アイドルだった。

    「じじいにできるならオレにもできる!最高の相棒を見つけて、じじいよりすごいアイドルにオレはなるんだ!」

     柱間とマダラ。その二人はかつて、ユニットで活動していたアイドルだった。柱間の結婚を機に解散してしまった男性デュオアイドルだったが、当時の人気は凄まじく、社会現象を巻き起こすほどの人気だったらしい。

    「お前にはムリだ」

     革張りのソファに身を沈ませたマダラが言った。オビトはムッと口を尖らせて、噛みつくように言い返した。

    「いいや!できる!」

     見ろ!とオビトは、ソファの上でくるりと身を翻す。しかしふわふわとした足元に気取られて、オビトはころんと転がった。

    「くっ…」
    「笑うな!今のは……ちょっと眠かっただけだ!」
    「そうか。なら続きは夢の中でするんだな」

     自身で事務所を構えるマダラは、初めはオビトの意見に否定的だった。柱間脱退後、辛い思いをしたのは他でもない。自分だった。
     アイドルなんてロクなもんじゃない──そう悲観しておきながら、アイドル業界から離れられない己を、マダラは心のどこかで嘲笑していた。

    「お前の欲望なんぞ、来週のお遊戯会で十分満ち足りるだろ」
    「たりない!オレは絶対アイドルになりたい!オレもこんなキラキラした服を着て、キラキラしたステージに立つ〜!」
    「この舞台に上がるのにどんな苦労があったと思う?泣き虫なお前にできるわけがない」
    「う〜っ!泣き虫っていうな!歌って踊れるアイドルなんて簡単だ!」

     意固地なオビトと自分を重ねていたのもある。その容姿はいわずもがな。オビトの輝かんばかりの瞳は、嫌でもマダラにかつての自分を想起させた。

    「アイドルを軽んじるな。何も知らん砂利ガキが」

     気づけば、マダラはオビトにそう返していた。そうなると、売り言葉に買い言葉。オビトは子どもらしく「やる!」と言って聞かなくなった。

    「アイドルになりたい!やるぅ〜〜〜!!」
    「五月蝿い」
    「やるったらやる!!」
    「黙れ……どうせ続かない」
    「ってみなきゃ、っ…わかんねーだろぉ…!!」

     そしてとうとう泣き出したオビトに、「はぁ……泣くな。オーディションの応募用紙だけ書いてやるから静かにしろ」と折れたのは悪手だったか。
     その答えは今でも、マダラの中で見つかっていない。


     ◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡


     血縁者であるマダラに引き取られ、子供ながらに芸能の世界へと飛び込んでから、良くも悪くもオビトの生きる道は限定されてしまった。

     人ごみに溢れる都会の街中を、一つ飛び出た頭がすり抜けるように進んでいく。今日もオビトはフードを深く被り、下半分になった視界を映して騒がしい街を練り歩いていた。

    「あ゙ー…」

     そんな中、ぎゅるぎゅると腹の虫が鳴いた。鼻がヒクつく。大好きなファストフードの匂いに誘われる。石畳を踏み付けていた足はつい、フラフラと店頭へと赴いてしまった。

    「…ハワイアンバーガー…ポテト、コーラセットで」

     メニュー表を指で差す。今が食事制限中であることをわかっていながら、オビトは欲望のまま、期間限定のハンバーガーを注文してしまった。

    「ハイ!お待たせしました!」

     店員の笑顔と共に、五分もせずに渡される。その魅惑的な注文の品々をトレイに持ち、オビトは一人、窓辺のカウンター席へと移動した。
     あぐ、と大きな口を開けて頬張る。フードの隙間から覗く。裂けた下唇に流れ落ちたグレイビーソースを、手袋をしていない方の左手が拭い取った。

    「ねぇ見た?あのCM!?」
    「見た!マジえろい!!」

     後ろから聞こえた女達のとある言葉を、オビトの耳はぴくりと拾い上げた。今の職業柄、どうしてもその言葉に反応してしまう。フードを指に引っかけ、そろりと視線を動かせば、ちょうど向かいのビルの大型ビジョンに話題のCMが映し出されているところだった。
     太陽によって赤く反射した目の奥に、銀の色が焼き付く。

    「キャー!はたけカカシ!」
    「一生推せるゥー!」

     そんな女の黄色い声がオビトの鼓膜を震わせた。煌めくような髪色を持つそのソロアイドルの存在を、オビトはずっと前から知っていた。
     見る見かねて、サッとフードを下ろす。そのCMは前にも見たことがあった。オビトはぐっと唇を噛み締めて、見えなくなった顔を大きく歪ませた。

     (……カカシ、お前はこの世界でうまくやっているようだな…)

     窓の外の大型ビジョンに流れるCMを最後まで見ることなく、オビトは残りのハンバーガーを紙袋に突っ込み、ポテトとコーラを残したままトレイを持って立ち上がった。
     苦い気持ちを飲み下しながら当時を思い出す。
     オビトの人生は順風満帆…というわけでは決してなく──ある意味で、不幸の連続だった。"それ"に巻き込まれるまで、オビトは己の人生を恨むことはなかった。
     多忙ではあったが、引き取り先の養い親であるマダラとの生活は悪くなかったし、家族愛に恵まれなくとも、皆から好かれるアイドルになりたいという夢を持って懸命に生きてきた。そうやって光へと邁進するオビトの姿はやがて人を惹きつけ、周囲に仲間を増やしていった。
     ダンス指導員のミナト。そのミナトが開いたレッスン教室で出会ったカカシとリン。この三人はオビトにとって、かけがえのない仲間であった。

     そう、彼らは仲間だった。

     十七歳のあの日。
     うちはオビトの運命は、大きく変わってしまった。
     その事件は、デュエット『神威』としてのライブツアー初日。今までにない全力を尽くした、最高のライブを終えた日の夜のことだった。


     ◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡


    「今日のライブ、マジで気持ち良かったっ!」

     ステージ近くの控室にて、「過去一かも!」と首にかけたオレンジ色のタオルで汗を拭う。顔を紅潮させたオビトは、ライトグリーン色のタオルを片手に水分補給をするカカシに向かって笑顔を輝かせた。

    「カカシ!お前もイイ感じだったぜ!もしかしたらこのライブの後、オレらスゲー人気出ちゃうかも!?」

     肩を組まれたカカシはケホッと咳き込み、液の垂れた口元を拭った。そして小さく「そうだな…」と肯定する。その返事に、オビトは「えっ!?」と黒い両目をまん丸くさせて驚いた。

    「…何その反応?」
    「あ…イヤ…いつものお前なら、『そんな簡単に行くわけないでしょ?バカオビト。すぐ浮かれたこと言わないで』とか……言いそうなのに、って…」
    「…………ふはっ」
    「!?」

     突然笑いをこぼしたカカシに、オビトは動揺した。相当気分が高揚しているのか、普段クールなカカシは舞台裏でも笑うことは滅多にない。それなのに、目の前のカカシはオビトがこれまで見たことのない穏やかな顔をして笑っていた。

    「ど、どーしたんだよ…?カカシ…」

     驚かないはずがない。カカシはひとしきり笑うと、熱の籠もった目でオビトをじっと見つめた。

    「あぁ……確かに。いつもだったらそう言ってたかもしれない。けどな、今日のお前は本当に最高だった…」

     それはかつてない、カカシからの賞賛だった。

    「お前とアイドルやれて、心底良かった……こんなにイイもんなんだな……ライブって……」

     そうして潤まった目を伏せる。カカシの口は独り言のように動いていた。目の前ではくはくと、声を発することのできないオビトがいる。カカシが緩く首を傾げてそれに笑うと、正面にいたオビトは首まで真っ赤になった。

    「なっ…!?おまっ…!?マジ…!?どうしたッ!?へ、変なもんでも食ったか!?」
    「ンなわけないでしょ。オビトじゃあるまいし」
    「はあ!?いや!それにしたってオカシイぞ!?さてはテメーカカシのニセモノだな!?」
    「ハァ……そんな照れないでよ。こっちまで恥ずかしい」
    「お、オメーが突然変なこと言うから!」
    「変なことって……別に、これからはもっと素直になろうと思っただけだし…」
    「ワケわかんねー!あと照れてねーし!!」

     すぐに嘘だとわかるオビトの様子に、カカシの笑みは深まるばかりで。そのままススス…と端正な顔が近付いた。

    「わからないなら一から丁寧に言おうか?今まで口にしなかった分、オレが思ってたこと全部説明してもいーよ?」
    「やめろバカカシ!調子狂う!今日のお前なんかキモいぞ!!」

     戯れるカカシからオビトが逃げる。それもまた珍しい光景だった。

    「ちょっといいかい?」

     コンコンと鳴るノック音に振り向いた二人は、扉の向こうから現れた金髪の男に表情を輝かせた。

    「ミナト先生!」
    「お疲れ様です!」
    「ん!二人とも、今日はよくがんばったね!リンと二階席で見てたよ」
    「ええっ!!リンも来てたのか!」
    「ああ…『もう関係者じゃない自分が控室に行くのは二人のファンに悪いし、二人は明日もあるから少しでも休んで欲しい』って遠慮してたけど…『今回のライブツアーが終わって時間ができたら挨拶に行きたい』って話してたよ」
    「そっか……」 
    「せっかくなら最前列で見て欲しかったな。リンも父さんも、事前に教えてくれたらS席のチケット贈ったのに…」
    「な!」

     無邪気に笑うオビトとカカシを前に、ミナトは複雑な表情をしていた。当時アイドルを卒業したいと言ったリンの相談に乗ったのは他でもない、ミナトだった。
     その時のリンは医者になりたいと夢を語った。自分のことだけではない。幼いながら、リンは二人の将来をしっかりと見据えていた。もちろん三人で活動するアイドルの仕事はリンにとって大切で、ずっと続けていきたいものだった。しかし、心の底では薄々感じ取っていた。
     一緒にいるからこそわかる。中途半端な自分とは違い、カカシとオビトは本物だった。
     ジュニア時代ならいざ知らず、成長すれば世間の目は変わる。男女混合のアイドルグループなんて社会的軋轢の的だった。いっそ歌唱をメインとしたアーティストとして路線変更すればなんとかなるのかもしれない。けれど、誰よりも熱心なオビトの夢はトップアイドルだった。
     正直に話せば心優しい二人はきっと、自分の為にこの業界で生き残る道を選んでくれる。それがわかっていたからこそ、リンは二人に真実を告げなかった。
     そうして医者への道に専念したリンを、ミナトはやるせない気持ちで見送っていた。否、ミナトはそれしかできなかった。リンの言っていることは正しい。アイドルという仕事の厳しさをわかっているのは、恋愛結婚してアイドルを卒業したミナトも痛感していることだった。

    「二人とも、あれだけ盛り上がった後だ。明日の打ち合わせは簡単に終わらせて、あとの時間はホテルで休んだ方がいいね」
    「「はい!」」

     二人には伝えないことが幸せであり、それがリンの願いだった。
     大人として。先生として。ミナトが彼らにできることは、まだ子どもである彼らを精一杯サポートし、見守り続けることだけだった。


     ミナトとの打ち合わせが終わり、日付が変わる頃。
     一人部屋で寝転ぶオビトの携帯に一つの着信が入った。
     スマホ画面を見たオビトの眉が寄せられる。これがもし非通知だったのなら、オビトは構わず無視していただろう。しかし、そこに表示された三文字はオビトがよく知っているものだった。

    『うちは』

     手の中の携帯端末は振動し続ける。オビトは一人、それに出るか迷っていた。
     それは定期的にくる本家からの連絡だった。大抵は『うちはの名を穢すな』といった内容であるのだが、最近の彼らはオビトのアイドル活動を静観しているように思えた。
     マダラからは『本家の着信は全て無視しろ』と言われている。しかし、芸能界の一端に身を置こうとしているオビトとしては、同じ業界で幅を利かせる彼らの着信を無視することはできなかった。
     マダラのアイドル活動については過去のことだが、今アイドルをしているのはオビト自身だ。普段弱いところ一つ見せることのないマダラの家や事務所に、時折嫌がらせのような破壊行為があることを、オビトはひっそりと気に病んでいた。
     きっと自分がアイドル活動することで、不満を持つ本家の人間がいるのだろう。できることなら穏便に事を済ませたい。それにもしかしたら、今の自分の活動を認めてくれるような心変わりがあるかもしれない──そう思いつつ、オビトは通話ボタンをタップした。

    「直接話したいことがある。今からホテル裏に一人で来い」

     一方的に切れた通話は一分も繋がっていなかった。逡巡の思考を巡らせた末、オビトはマダラにメッセージを送り、フード付きのパーカーを羽織ってその部屋を出て行った。
     正面ロビーより幾分か暗い裏口を抜けると、目の前の道路には黒いセダンが駐めてあった。

    「乗れ」

     後部座席から顔を出した初老の男が一言そう言った。冷たい目つきにオビトの額から汗が流れた。見たことのある、本家の人間だった。
     嫌な予感がした。けれど、背後にいるホテル客の気配に押され、オビトはそのまま車に乗り込んでしまった。人目に付いて騒がれたくないのはオビトとて、同じだった。

    「どこに向かってる?」

     座席シートに尻を着けた直後、オビトを乗せた車は発進した。運転席にいる男は無言のまま。代わりにオビトの隣にいる男が答えた。

    「行き先はない」
    「明日もライブなんだ。早く帰してくれ」
    「それはお前の返答次第だ。こちらの要求に従ってくれれば、すぐホテルに戻してやる」
    「……お前達は、オレに一体何を求めてる?」

     その問いに、男は顔を歪ませた。

    「何もするな…と言っても、お前とマダラは聞かないだろう。あれだけ忠告したんだ。これ以上、格式高い『うちは』のイメージを堕としてもらっては困る」
    「格式高いって…アイドル活動の何が悪いんだよ!バカにしやがって!そんなに伝統芸能が偉いのか!?」
    「そうだ。お前達のお遊びとは違い、こちらには積み重ねてきた歴史がある。世俗的な芸能に逆戻りするなど、本来あってはならないことだ」
    「遊びじゃねーし!そんなん知らねーよ!こっちだって本気でやってんだ!」

     男の物言いにオビトは苛立ち、声を荒らげた。

    「勝手にやらせろ!お前達が関わりたくねーなら無視すりゃいーだろ!」
    「そうしたいのは山々だが、世間はそれを許さない。低俗なアイドルをやっているお前達は我らの恩恵を受け、家芸に全てを捧げてきた我らは乏される……『うちは』に生まれた以上、お前達のアイドル活動は我らにとって異端であり、迷惑極まりない行為だ。なぜわからない?」
    「わかんねーよ!だいたいそんなの、いつの時代の話だ!生まれは選べねーし、オレもマダラも好きなことをしているだけだ!」

     ほっといてくれ!と叫んだオビトに、男は「そうはいかんのだ」と怒気を強めた。

    「芸能界とは、好きなことをしているだけで認められる世界じゃない……のし上がる者がいるようなら、引きずり落とす。地に堕とすなど容易い。お前ももう、このライブをラストステージにしろ。これ以上世間に顔を出す真似は許されない。それがこちら側の要求だ」
    「なっ…!?」

     その時、オビトは自分の血管がプツンと切れる音を聞いた。

    「降ろせ。お前らとは話になんねェ…じじいが無視する理由もよくわかった…」

     静かに怒るオビトを、隣に座る男は溜め息を吐いて見下ろした。

    「やはりこうなるか……最初から上手くいくとは思っていなかったが…」
    「いいから降ろせよ。ホテルには自分で帰る」
    「お前はマダラによく似ている」
    「はぁ?」

     その返事を最後に、オビトの視界はぐらりと暗くなった。同時に頭が酷く痛み出す。鉄の匂いが鼻を掠めた。

    「行き先はないと言ったな…あれは嘘だ」

     男の手元にはいつの間にか、赤い液体の付いたガラスの灰皿があった。
     意識が消えゆく。闇に飲まれる。その世界が閉じる刹那、オビトの脳裏に浮かび上がったのは、ライブ後の控室で見たカカシの笑顔だった。


     ◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡


     味の消えたハンバーガーを食べ終えたオビトがグシャグシャに握り潰した包装紙をゴミ箱に捨てた時、ブブッ、と腕に巻いていたスマートウォッチが振動した。

    『時間だ。早く戻れ』

     マダラからの文面に目を落とし、舌打ちをする。たしかに腹立たしい命令口調のメッセージではあったが、オビトがイラついたのはマダラにではなく"自分に"だった。
     アイドルという夢を絶ってもこの業界を捨てきれず、意地汚く縋りついている。そんな自分が惨めで、大嫌いだった。
     隠された自身の顔に触れる。オビトの指の腹は左側にはない凹凸を感じ取っていた。傷だらけの醜い顔だ。せめてカカシのように、いや、そうでなくとも。今のオビトの顔は世間に晒せるようなものではなかった。


     ◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡


     十七歳の時──地獄のような夜が明け、オビトが意識を取り戻した時。ベッドに横たわるオビトの近くには、マダラの姿があった。

    「愚か者め。だから奴らには関わるなと言ったろう」
    「……?…っ!ライっ、ブ…!」

     身を起こそうとしたオビトの顔面に激痛が走る。声にならない叫びの中で、オビトはマダラの部屋にあるデジタル時計の日付を目にして──絶望した。

    「監禁された小屋からお前を救い、病院を退院した後……お前は三日間眠っていた」

     水の入ったグラスを手渡される。ショックのあまり掴むこともできないオビトを見たマダラは早々に渡すことを諦め、サイドテーブルにそれを置いた。

    「……殺しが横行する世に生まれていたら、復讐も簡単だったんだがな…」

     ポツリと呟かれたマダラの言葉を、起きたばかりのオビトは理解できなかった。恐る恐る、包帯が巻かれた顔に触れる。熱を持った痛みを感じた。

    「っ……!」
    「打たれた薬はしばらく抜けん。外部損傷は右顔面と右腕部。それと神経に傷がついた右足は、後遺症が残るらしい……表向きは事故として処理された」

     そう淡々と宣告する。光の無い目を向けるマダラが語る現実を、オビトは受け入れられなかった。

    「じ、じい……オレの、ライブは……」

     しわがれた声は自分のものではないようで、痛みに顔を歪めたオビトはグラスへと手を伸ばし、打ち消すように水を飲んだ。液体が流れる喉は焼け付くようで、オビトは何度も咳き込んだ。

    「もうわかっているだろう」
    「……………」
    「顔の傷だけじゃない。お前が奴らに何をされたのか……」
    「っ………」
    「オビト。お前のアイドル生命は完全に絶たれた」

     夢を語る隙もなく、オビトの現実は非情だった。オビトは自身の身に起きたすべてを覚えていた。心の内をどろどろとした闇が覆い尽くす。

    「う…っ…うわああああああ!!」

     慟哭し、自身を抱くように自傷を始めたオビトを抑え、マダラは養い子の腕に処方された注射針を突き刺して眠らせた。


     ───その悲劇から三年。
     肉体的な傷は回復しつつあっても、オビトの心的外傷はなかなか治らなかった。右顔の傷を──鏡を見る度にオビトはその地獄を思い出し、その右手首に小さな自傷を繰り返していた。

    「おい砂利…貴様、一体いつまで引きこもるつもりだ」

     そんな養い子を見るに見かねたマダラが発破をかけたのは、自然の成り行きだった。

    「三年前にキャンセルしたライブツアーの負債はまだ残っている。ウチの事務所に中卒のニートを養う余裕はないぞ。働け」

     慈悲もない。すべてを失ったオビトに残されていたのはマダラが立て替えた借金だけだった。

    「働く……?学もねェ、ァ……アイドルにもなれねェ、このオレが……働ける場所なんて……っ」

     そう返す、二十歳となったオビトの自信は地の底に落ちていた。マダラはうんざりとした目を向ける。親の言いつけを守らなかったバカなオビトに同情することなど、マダラの心にはなかった。が、オビトが身内のいざこざに巻き込まれたのは自分にも一因がある…とは思っていた。

    「……泣き寝入りなんて、お前は悔しくないのか?」

     それはあくまで養い親としての責任と、ほんの少しの罪悪感。そんなマダラの言葉に、オビトはピクリと反応した。

    「刑事事件を起こすにしても業界上位にいる奴らに揉み消される可能性は高く、こちらにとってはデメリットが多い。だから沈黙を貫いていたが…オビト。お前は本当に、奴らにやられっぱなしでいいのか?」
    「……………」

     布団に包まるオビトの返答を、マダラはしばらく待っていた。ズビッ、と鼻を啜る音が部屋に響く。マダラは溜め息を吐いて、ポツリと一つ声を落とした。

    「三年前のお前のライブ初日……悪くなかったぞ」
    「…!」
    「その顔の傷……もうアイドルには戻れなくとも、オレはお前の実力を買っている」
    「オレの……実力……?」
    「オビト。お前は見る者を…一つの空間を司るような力を持っている。それはお前にしか持ち得ない価値だ」
    「……じじい……」
    「……ひとまずはオレの事務所で拾ってやる。その後の身の振り方は、お前が自分で考えるんだな」

     離れるマダラの足音を耳に、オビトは強く拳を握った。大嫌いな自分を捨てた瞬間だった。


     ◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡


     AKATSUKIプロダクション。
     そこはマダラが裏ルートで奪取した、少数精鋭のアイドル事務所である。元々は別の会社だったそこを騙すような形で買い取り、アイドルを生み出す会社へと塗り替えた。元いたそこの社員は全員、今ではマダラの社員──否、奴隷である。
     そしてそれは、そこに所属する二十七歳のオビトにも同じことが言えた。

    「おい砂利。今月の売上はどうなってる?」

     聞き慣れた男の声が右から左へと流れる。革張りの椅子にふんぞり返るマダラの手元から、バサリと書類が広がり落ちた。

    「先月の売上高をゆうに下回ってるぞ。これでは決算の目標設定額に間に合わん。来月からは紙の仕事はやめて、映像に専念しろ」
    「それは……」
    「囀るな。貴様のくだらん拘りに付き合うのはもうウンザリだ。それといい加減、その対人恐怖症を何とかしろ。トラウマだかシマウマだか知らんが、このままでは仕事が増えん。男が一度やると決めたなら頂点を目指せ」

     尊大な態度をとるマダラに、オビトは一言も返せなかった。自身の足元に散らばる、数字ばかり記載されたそれを冷めた目で見下ろす。
     グラビアアイドル"トビ"として顔を隠し、紙面やネット画像で活躍する分には、自分の中で納得ができていた。しかし、映像ともなると話は違う。心の底で諦めていなかったアイドルへの情念が、胸の内から沸々と浮き上がってしまう。

    (このオレが……後悔なんて……)

     それは対人についても同じことが言えた。過去のトラウマが響いているのも事実だが、他人が絡むことで身バレの危険度が格段に上がることを意味していた。

    「そっち方面で活動するなら、そろそろ本格的に向き合え………とはいえ、もう遅すぎるくらいだがな」
    「……わかってる」
    「ならもう何も言わん。後の仕事は自分で取ってこい」

     さっさと行け、と社長室を追い出される。毎度のことではあったが、ここに来る度にオビトは精神の摩耗を感じていた。

    「ハァ……」

     コキ、と首を鳴らしてストレスを逃がす。それからオビトは次の撮影現場に向けて、ステップの鈍い足を動かした。


     ◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡◯♡


     昔。幼いオビトがアイドルデビューするにあたり、マダラが手を貸したのは本当に最初の方だけだった。

     ──どうせ世間の荒波に揉まれ、潰されるだろう。

     所詮は子どものお遊びだ、と思ったマダラは本腰を入れることなく、オビトを自身の事務所に登録させなかった。
     代わりにオビトが入った事務所は、業界最大手の木ノ葉エンターテイメントだった。ちなみにダンス指導員のミナトはそこの社員で、木ノ葉エンターテインメントはカカシの所属先でもある。

     昔は同じ木ノ葉エンターテインメント所属だったが、今のカカシとオビトの所属先は違う。AKATSUKIプロダクションに移ったオビトは、当然のように、その日カカシが同じスタジオで撮影していたことを知らなかった。

    (今日の撮影場所はBスタか。スタッフの機材運びを手伝って少し遅れたが……問題はなさそうだ。ちょうど前の撮影が終わったばかりのようだな…)

     スタスタと速めていた足を遅らせる。何気ない様子で周囲を観察していたオビトは、小さく安堵の息を吐いた。
     顔を隠すのにはもう慣れたが、人の出入りが目まぐるしいスタジオを歩いていると、たまにスタッフと間違われてしまう。無視すればいいものを、オビトにはそれができない。どんな仕事でも押しつけられたら断れないのがオビトである。

    「トビさん入りまーす」

     撮影現場に響き渡るスタッフの声。オビトはバスローブを脱ぎ、真っ黒なシルクシーツに身を沈ませた。
     照明か当てられる。昼間についハンバーガーを口にしてしまったが、大型ビジョンに映し出された食欲を無くす顔を見たおかげで、晒す肉体に支障は出ていない。向けられたカメラに集中すれば、そこはもう自分が支配する空間となった。
     絶え間なく続いていたシャッター音が鳴り止む。プロデューサーが近付いてきたことに、オビトは心の中で(ヤベ、なんかマズったか?)と一人静かに背筋を緊張させた。

    「トビさん。突然で本当に申し訳ないんですが、背後に別の俳優さんがいるショットも撮っていいですか」
    「あ゙ぁ……?」

     想定外の提案をされ、疑問を呈するオビトは首を傾げた。同時にコキ、と鳴る音がしてプロデューサーの額から汗が滴る。意識している時は問題ないのだが、普段から傍若無人なマダラの対応をしているオビトは、長年の苦労の甲斐もあり、他人を威圧する悪癖を身に着けてしまっていた。

    (まぁ、エキストラくらいなら……そんな触れ合うこともないだろう)

     低姿勢で謝りながら提案するプロデューサーに、若干男性恐怖症の気があるオビトは(マダラに言われた通り、少しでも克服しないとな…)と内省しつつ頷いた。
     しかしやはり顔は見られたくない。うつ伏せになったオビトは(こんな撮影は早く終わらせてしまおう…)と、最短でヌけるエロいポージングを脳内に思い浮かべた。

    「じゃあ……トビ?さん、よろしくお願いします」

     ベッドの端に相手役のエキストラが座った弾みでオビトの重心が動く。どこか聞き覚えがあるような声に、オビトはハッと顔を上げそうになった。それをぐっと押さえ、感覚を研ぎ澄ませる。

    「カ…スケアさーん、もう少しトビさんに寄って下さい」
    「あ、はい」

     ギシッとベッドが軋んだ。オビトの両脇にその"エキストラ"の手が置かれる。
     今──自分の体の上に、男が覆い被さっている。
     途端、オビトの思考は停止した。

    (ゔっ…わ……これ、思ったより、キッツ……)

     全身の皮膚が泡立つ。オビトは周囲から見えない目をぎゅうっと瞑った。

    (っ……あ゙ー…無理無理無理…!)

     もう撮影どころではなかった。オビトはプロ根性をかなぐり捨て、この場から逃げようと身を起こした──その瞬間。

     ───ごりっ。

    「あ」

     ちょうどオビトの尻部分に、その硬いナニかが押し当たった。

    「は!?…な゙んっ!?」
    「ええと、ごめん…って…あ…」
    「あ゙ぁ!?テメ…!!」

     振り返る。オビトの目は、思いのほか間近に居たその男の目とバッチリ合ってしまった。
     波打つ茶色い髪から覗く、アッシュグレーの瞳。その目元には紫色のペイントシールがあしらわれている。しかし、何よりもオビトの目を引いたのは、その男の口元に添えられた──ほくろだった。

    「!!」
    「!お前はやはり……!」
    「カッ……!!」
    「か?」
    「…ッ!……か、帰る!!」
    「うわっ!!」

     上に覆い被さっていた男をドンッ!と思い切り突き飛ばし、オビトはシーツで全身を隠して現場を走り去った。その場に居たスタッフは全員ぽかんと口を開けて固まる。ベッドから落とされたカカシは、その拍子に留め具の取れたウィッグを掴んで取り外した。それからすぐに立ち上がり、逃げるオビトの背を目で追った。

    「ちょっとオ…っ!!待ってよ!!」
    「あ、あのー…カカシさん、トビさんは何故…?お二人の間で何かあったんですか…?」

     近付いてきたスタッフからガウンを受け取り、カカシは羽織る。それから「あ、うんまぁちょっとね……」と返しを濁した。

    「そんなことより追いかけないと!」
    「そ、そうですね!今スタッフ総出で…」
    「いや…オレ一人で十分です!あいつは必ず、オレが連れ戻しますから!」

     そして駆け出したカカシの背中を見送る。
     その日のスタジオBは一時、騒然となった。




    トゥビーコンテニュー…とりあえずここまで。
    続きはエッ…な展開になるといいなぁ!

    トビ&スケアモードでお互いしばらく気付かないアレコレも考えたけど、結局我慢できずバラしちゃいました。そっちのパターンも面白そうだなぁ…ifはいくつあってもいいのだ。
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    Replies from the creator

    poppokyo

    MAIKINGけじぇふらっとさん(@kjefrat)が書いてくださった私の妄想(https://poipiku.com/11313044/12071594.html)をさらに広げました。人を選ぶやつなので何でもオッケーな方以外読まないほうがいいぜ…主にobt視点です。
    漏れや書き損じ、穴があったらすみません。
    えっちな続きはけじぇさんが書いてくれると信じて……なんてね。たぶん手が空いた方が書く。
    ドルパログラビア!?つー! うちはオビトは特殊な家庭で育った少年だった。いや、『家庭』というより『家系』と言った方が正しい。
     オビトの家系はいわゆる、芸能一族だった。その始祖は戦乱の世が治まったばかりの時代まで遡る。
     文化が栄え、華開いた平和な時代。低俗、下賤、無意味だと称されていたものに価値が見出され、評価をされて尊き立場までのし上がった文芸の数々──その一つに名を連ねる、とある伝統芸能を主軸とした『うちは家』が、オビトの直系であった。
     けれどオビト自身は、そのうちは家の一員であるという意識が全くなかった。それもそのはず。物心つく前に亡くなってしまったオビトの両親は自分達の一族から歓迎されない結ばれ方をしたようで、親族との関係は絶縁状態に近かった。そして遺されたオビトも当然、両親と同じ扱いを親族から受けていた。
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