「え?はとが?」
アジトに帰宅して早々部下から伝えられたのは、
はとが起きて待っているという報告だった。
時刻はてっぺんをとうに過ぎている。普段のはとならばとっくに夢の中だ。
足早に自室に戻ると、大きな二人がけのソファの上にはとがクッションを抱きしめ、アーム部分にもたれ掛かるように座っていた。否、ほぼ寝転んでいた。
見れば寝ているようにしか見えなかったが、ドアが開いた音でわずかに意識が覚醒したのか、閉じそうになるまぶたを懸命に持ち上げて、顔だけこちらに向けた。
「はと」
「ん……と…」
はとと視線を合わせるように膝をつくと、短い腕をこちらに伸ばしてきたので、
届くように体を寄せると、ぎゅうと抱きついてきた。
「つばめ…つばめが……」
なるほど、つばめになにか言われたらしい。
詳細はわからないがその一言で大体のことは理解が出来た。
本人は懸命になにかを伝えようとしてくれているが、朦朧とした意識のままでは何を言っているかよくわからない。
「わかったから、もう眠ろう」
抱き上げると、体は眠気ですっかり温まっている。子供体温というやつだ。
「ここでねる…」
「わかった」
ここ、というのはおそらく俺の部屋で寝る。ということだろう。
違ったとしてもこれだけ意識が朦朧としているのだからおそらく明日には覚えていない。
そんなことを考えながらベッドに寝かすと、はとは再び何かを思い出したかのようにこちらに向き、口を開いた。
「おかえり」
「…ただいま」
そう返すと、はとは何かをやりとげたように満足そうに微笑んで夢の中へ旅立った。
***
後日、つばめになにを言ったのかと訪ねてみると俺が帰ってくる時間まで起きていられないのではないかと言ったら出来ると反論してきたので、それを実行したのではないかということだった。
こちらとしては俺が帰宅するまで起きていろと言うつもりは毛頭ないのだが、
『おかえり』
本人がそうしたいというのなら、好きにさせようと思う。