「パ工卜ーンガチ勢の🏹とイアス」✦
どうも、H.D.Dルームに顔パスで入れちゃうアキラくんの彼氏系エージェント、浅羽悠真です。レムちゃん今日もお疲れ様!
「───ようこそ助手564号。マスターは依頼任務遂行中です」
「知ってる知ってる。急ぎの仕事が入ったんだってね」
アキラくんの予定はついさっきノックノックで確認済み。
ではなぜ来たか、と問われれば。
プロキシ業中の相棒は、殆どの場合H.D.Dルームでイアスとリンク中だからだ。
その最中の青年は、瞳孔がエーテル結晶のような燐光に縁取られる。
薄暗い部屋の中、彼方を視る瞳に銀の睫毛を淡い碧光に透かす横顔は、大層神秘的かつ綺麗なのだ。
若くともベテランプロキシの彼のこと、集中を削がない程度に大人しくしていれば、横に座って眺めていても怒られないし。
「あれ……イアス、留守番中かい?」
だが、モニターの前に居るのはアキラではなくイアスだった。
ボンプには高い位置にある椅子に、ちょこんと腰掛けている。
「お仕事中のカッコいいアキラくんを見学しに来たんだけど、当てが外れちゃったかな。ビデオ屋の仕入れ?それとも郊外?」
「ンナンナ(アキラね、一人でホロウに行っちゃったんだ)」
「それ…どういう事?」
自分でも声が硬質になってしまったのが解る。
細かい表情バリエーションは無い筈の、イアスの『顔』もまたどこか沈んでいるように見えた。
「ンナナ…ンナ、ンナンナ(僕は留守番じゃない、心配でアキラを見てるんだ。『声だけのヒト』が二人をホロウに入れるようにしてくれたけど、アキラはリンがそうする前に、危ないことは全部自分で試すつもりなんだ。だから……)」
「肯定、マスターの許可によりH.D.Dシステムに外部からの変更が加えられました。現在構成を解析中です」
「ええ〜何がなんやら、怒涛の展開だなぁ……リンちゃんは?」
解析とやらにリソースをぶち込んでいる様子のFairyは常より反応が薄く、ボンプも事情を聴くのに適した相手とは云えない。
「ンナンナ…(今はベッドで休んでもらってる、気持ちが悪くて頭が痛いみたい……)」
「そっかあ……じゃあ起こしちゃまずいね。僕が来たことも、今は教えなくていいからね」
「ンナナ(わかった)」
横に座って、小さな子供にそうするように、イアスを膝に抱っこする。
「じゃあアキラくんを見守りながら、僕と少しお話しようか。イアス」
「ンナ~(いいよ)」
僕が訪ねるのを止めなかったってことは。アキラくんは、事態を隠すつもりはないけど、積極的に相談するつもりも無かったって事だ。
プロキシとして生身でホロウに入る。それには当然諸々のリスクを伴うし、送り込んだボンプに完全にリンクし、遅延無しに通信を行えるパエトーンには本来必要のない行為である。
エーテル適性の極端に乏しい兄妹には、ほぼ不可能な選択でもあった。
「それでもアキラくんは、ずっと生身でナビゲーターを務めたがっていたよね。危ないことばっかなのにさ」
イアスはこくりと頭を揺らす。
「ねえ……イアスは、これで自分がお払い箱になるかもしれないって、怖くならない?今までのきみはパエトーンに必須の存在だったけど、アキラくんに頼ってもらえないなら、これからはこうしてお留守番してるくらいしか役割が無いよ。旧式で汎用型のボンプで、お供したところで戦闘のサポートもうまくこなせないし。
だから、そうだな、───ある日、うんと危険な依頼任務に、片道分だけの充電をされて案内に行かされちゃうかも」
にっこり笑って膝の上のイアスを覗き込む。
ああ、こんなの、アキラくんにバレたらものすごく冷たい目で見られて、当分口をきいてもらえなくなっても仕方ない。
イアスは、目にあたる液晶の表示を指の無い手で擦る仕草をした。
「ンナンナ、ンナナ(僕は、自分がどれだけアキラとリンに大事に思われてるか知ってるよ。二人がどれだけヒトでも機械でもない僕らを愛してくれているかも)」
ボンプは泣かない。その機能も表示パターンも無い。
「ンナ…ンナン……(もし僕があと一回もホロウに入れないほどコアを侵食された役立たずボンプだったとしても、二人は僕を廃棄したりしないだろう。悠真だって知ってるでしょ)」
「うん……よっく知ってるよ」
噛み締めるように言って天井を仰げば、イアスも耳をそよがせて僕を見上げた。
「ンナ…ンナンナ(僕もアキラとリンが大好きだよ。二人を守るためなら、僕は世界一勇敢なボンプにだってなれる)」
「奇遇だねぇ、僕もアキラくんとリンちゃんの為なら、だいぶ最強になれる気がしてるんだ。だって愛してるからね」
命短し、恋せよナイト。
人間とボンプは、互いこぶしと腕パーツの先をこつんと触れ合わせた。
(ver1.6所感的な短文)