「みつたらーみつたら?たら?わはは」
「もー、飲み過ぎだよー?ふふ」
新刃たちを連れて4部隊全て遠征に出払った本丸。残っているのは燭台切と長谷部と古参の数振りだけ。久しぶりに飲もうか、と誘ったのは燭台切から。
耳朶と唇を桃色に染め上機嫌に体を揺らす長谷部。飲み過ぎだと注意しながらもお猪口を置く間も与えず酒を注ぐ燭台切。
「あ、もうおつまみがないね」
「ははは、俺は知ってるぞ。そろそろ燭台切先生特製の塩辛がいい塩梅のはず」
「あは、知ってたの?持ってくるね」
「おー」
冷蔵庫から長谷部くん御所望の塩辛を取り出し、ついでにと幾つか肴を皿に盛りつけて部屋に戻るとお猪口を握ったままの長谷部が上機嫌な様子で仰向けで畳に転がっていた。
燭台切は後ろ手でそっと障子を閉めて音を立てず盆を端に置いた。覗き込んだ先の長谷部は障子越しの月明かりのなか滑らかな肌を艶かしく桃色に染め薄く開いた唇から熱く甘い呼気を放つ。燭台切は親指で閉じた瞼をするりと撫で丸い輪郭をなぞった。そしてその大きな手のひらで桃色の頬を柔く摘んだ。
「長谷部くん?酔っちゃった?」
いつもより低音で掠れている声に長谷部は気が付かない。
「んー、酔ってない」
ひんやりとした大きな手のひらに擦り寄せるように頬を預け酔ってないと口を尖らせる。
「…まだ酔って、な、」
ゆっくりと重い瞼を上げると映る景色が全て満月のような金木犀のような金色に包まれた。長谷部は琥珀の瞳の中に捕えられる。呼吸はどうやってしていたのだろうか。固まる長谷部の頬を包んだままするすると薄く開いた唇の輪郭を撫でる大きな手のひら。
「…僕にしときなよ」
徐々に視野を埋め尽くしていく金色。
長谷部は添えられているだけの手を払い除けることも声を出すこともできず藤色を滲ませた。震える唇を懸命に結ぶ。
(違う、似てるけれど、違う。俺が欲しいのは、)
ふ、と満月が弧を描く。添えられた手のひらがフニフニと頬を摘む。一息で肺から全ての空気が排出され踏ん張っていた足が弛む。長谷部はパチパチと藤色を瞬き金色の囚われから解放された事を確認した。
手のひらにできた爪の痕と激しく打つ鼓動を誤魔化すために未だ頬に手を添えてにっこりと笑う燭台切に大きな声で威嚇する。
「みつたら!ハセベくんは甘いものをゴショモーだ!」
「はいはい。」
よいしょと立ち上がり、笑いながらお茶かコーヒーかどっちがいいと尋ねる燭台切に茶!!と更に大きな声で威嚇するのであった。
次の日、記憶がしっかりと残っている長谷部は燭台切の元へ重い足取りで訪ねた。
「すまん、その、色々迷惑かけた」
「ふふ、みつたら呼びかわいいかったよ」
「いや、それもだが、」
「あはは、いいよ。でも僕の名前ちゃんと呼んで?」
「?燭台切。」
「違うよ、ほら」
「…光忠。」
遠征から戻った大倶利伽羅が目にした光景は、今までの余裕ある気持ちを覆すのに十分すぎるものだった。いつも通りの談話室。燭台切と長谷部が隣り合って書類と睨めっこしている。いや、隣り合って相談しているというより、もはやくっついていると言っても過言ではない。しかも、長谷部が燭台切のことを「燭台切」ではなく「光忠」と呼んでいる。
焦燥感に駆られた大倶利伽羅は、反射的に長谷部の腕を掴み、燭台切から引き離した。
「な、なんだ、大倶利伽羅!?」
予想外の出来事に、長谷部は驚きを隠せない。一方の大倶利伽羅は、動揺する長谷部に向かって、こう告げた。
「あんたが好きなのは俺だろう。間違うな。」
しかし、大倶利伽羅の言葉は、長谷者をさらにパニックに陥れるだけだった。
「ち、違う!そんな、違う、ない!なぁっ光忠っ……!」
「ふふ、そうだね。」
燭台切の答えに琥珀色の瞳が鈍い光を放つ。
「……そうか。」
そう呟きながら、大倶利伽羅は長谷部を燭台切から引き剥がし腕の中におさめる。
「違うっ俺が好きなのは光忠でもない。」
「……そうか。」
「そうだ!それに、光忠は俺のことなんて……」
「……そうか。」
大倶利伽羅は、長谷部の言葉に「そうか」としか返せない。燭台切といえば長谷部の否定も大倶利伽羅の追求にも笑うばかりで答えない。
果たして、この三角関係の行方はい