きっかけなんてない R2(途中) 朝起きて最初に目に止まったのは眠っているというのに癖になって取れることのない、深いシワを作っている眉間だった。
ジジイのように早起きなこのバカが、今の時間は分からないが、俺が目を覚ましても寝ている姿を見れるのは久しかった。
休みなぞ関係なく、バカは規則的な時間に起きては体を動かしたりする。カーテンから漏れ出る日射しの具合からして今日は珍しい寝坊の現場を抑えたことが窺えた。休日だから問題ない。学生の頃から徹夜ばかりして、社会人になっても遅くに帰ってくることは少なくない、そんな奴の足りない睡眠に「いつか体を壊すに違いない」と俺は常々考えている。
目の下の隈だってきっと取れることはない。堪らない気持ちで、撫でたくなってそこへ手が伸びる。
しかし穏やかな呼吸に上下する身体は触れればなくなってしまうようにも思えて。すんでのところでやめた。
いつまでも寝ているタマでないのは十分承知だが、長くこの時間が続けばいいと思う。
──こんな日があったっていいよな。
下ろした手は行き場をなくしたが、代わりに隣と接している腕をもっと擦り付けてその体温を感じた。
身動ぎ一つは許してほしい。
あれからもう一眠りして起きた俺の隣にもう文次郎はおらず、ベッド横の時計は正午に差し掛かっていた。流石に寝過ぎだ。
寝室を出ても見当たらない、そろそろ帰って来るはずの同居人に某SNSで連絡を取る。
[すまん今起きた]
[昼飯いるか?]
どうせランニングとかサイクリングとか、そんなところなので敢えて何をしてるかは聞かない。
シンクや水切りラックを見る限り、使われた様子はなかったのであちらも飯はまだだろう。いつもなら出来上がっている頃合いなだけに、今から作るとなると時間も時間になってしまって俺が作ったのでいいのかと気が引ける。
一緒に食うのか、うちでいいのか。返答次第でやる事を決めようと出方を待った。
顔を洗い終えて携帯を開くと通知欄には文次郎の名前があった。返信が来ていたらしい。
[鍛錬が足りん]
[お前の飯が食いたい]
更新された二つのメッセージを見て、上の言葉にムカッとした。お前だって寝過ごしてたくせに、と思わず口からこぼれたが指は動かさないでおいてやった。俺は心が広いので。
[了解]
一言だけ残して、それじゃあさっさと作ってやるか!と腕をまくっていると携帯が震えた。
[そろそろ着く。買って来てほしいものとかなかったか?]
通知の文字を追うとなんといえばいいのか、笑えてしまった。ここで何か頼めばお前は買いに行くというのか。
[いや昼の分はある]
[でも買い足したいものはあるから後で二人で行こうぜ]
昨晩確認済みのそれを報告して、今度こそ携帯をテーブルに置く。返事は帰って来たその口から聞けばいい 。腹を空かせた奴のために、まずは空の炊飯器の釜を取り出した。