境界線の前と後 別に絡まれている訳でもないのに、俺がクラスメートや上級生たちと話していると、よく割って入ってくる同級生がいた。そんな時は決まって、その場にいる人たちとの会話がつまらないと思っている時だったので、都合がいいと黙って腕を引かれてやっていた。その沈黙を頼られているとでも勘違いしたのか、それともただのヒーロー気取りだったのか、彼は度々やってきていつの間にか、一緒にいるようになった。
今から七年前の、小学生の頃の話だ。
「あの頃は可愛かったなぁ」
「ア? 何見てんだよ」
「ん〜?」
大きく成長した廉に向かって、眺めていた小学校の卒業アルバムの表紙を見せる。廉は眉根を寄せて、首を捻った。
「らしくもなく感傷にでも浸ってんのか? 有罪だな」
「感傷というか、懐かしいなってね。あの頃お前、俺が他の人と話してると寄ってきてさ、なぁに? って聞いたら腕掴んで引っ張り出してきたよな〜」
そうして俺を輪の中から引き摺り出した挙句、再度用を尋ねれば「何でもねー」と答えるのだから困ったものだ。廉は、ふんと鼻を鳴らして隣に座ってきたと思ったら、じっとこちらを見つめてくる。
「ん? 何?」
廉が一度視線を落として、珍しく「いや」と口ごもった。言いにくいことを伝えようとしていると察して、あえて黙っておく。
「だってテメー、嫌そうな顔してただろ」
は。
言いにくそうにするから何かと思えば。正直、記憶にある小学校生活は粗方、可も不可もない。多少つまらない話に付き合うのも、愛想笑いも、たいして苦ではなかったから。俺的には、別に掘り起こしたくない記憶なんて微塵もない。
「俺的には、別に嫌ではなかったけど」
「してただろーが! 嫌っつか、つまんねーって顔。だから、無理矢理付き合わされてんだと思ってたんだよ。実際は、そんなしおらしいセーカクしてなかったけどな。どうせ、上手く取り入るためにテキトーに話合わせて笑っとこうとか思ってたんだろ」
廉は、そう早口で捲し立てるように言い切って、ぷいっと視線を顔ごと逸らしてしまった。
それは、そうかもしれないと思う。あまり記憶にも残らないぐらい、起伏のない毎日だった。ただ、廉のことを除いては。俺自身よりも俺のことを覚えている廉が可笑しくて、少し笑った。
「何、お前、そんなこと思って俺のこと引っ張り出してたの?」
「ずっとつまんなそうな顔してやがるから、目についたんだよ。高学年とかになってからは、あんまそんなこと、なくなったけどよ」
ああ、多分それは。頭の中で出た答えは口に出さないで、アルバムを廉へ手渡す。差し出されたものは基本的に素直に受け取る習性のある廉が、それを手に持ったのを見て立ち上がった。
「ほら、それより早く片付けなよ。お前も家を出るって言うから、こうやってわざわざ手伝いに来てやってる訳で、俺的にはその本人が時間を浪費してるのは完全に有罪だと思うけど?」
「手伝いに来たんじゃなくて、ただ遊びに来てるだけだろーが」
それには答えずに笑ってみせれば、廉は「テメーは昔っから可愛げねーよな」と吐き捨ててアルバムを引越しの段ボールへと入れた。
俺たちが連むようになったのは今から七年前、小学校高学年に上がる頃だった。
終わり
「廉は今でも可愛いとこあるって思うけどね」
「は? つか、手伝いに来たっつーなら、働けよな。有罪」
「それが手伝ってもらってる奴の台詞〜?」