【再掲】有難いことに三井さんからオレへの愛情はいつだって全力で、その勢いはとどまるところを知らない。
交際前は明確な言葉にこそされなかったがオレにだけ向けられる他とは違った笑顔から「あ、この人オレのこと超好きじゃん」と確信させるほどの愛情を感じていた。
交際が始まればその愛情は増すばかりで、三井さんの行動や表情、言葉の一つ一つがその証拠だった。
例えば息をするように繰り返し伝えられる「好き」も、オレを見つけただけで嬉しそうに細められる瞳も、遠慮がちに触れて繋がれる掌から伝わる体温も、全身でオレを愛してくれているのだと深い愛情を感じさせてくれた。
周囲から散々甘やかされてそれはそれはお姫様の如く扱われてきただろうに、その三井さんが何よりも大切にしているバスケ並みにオレを大切にしてくれるのがちょっとした優越感だ…なんてことはここだけの話だ。
そんな三井さんはつい先日、珍しく平日に部活が休みとなったのでどうせなら放課後にそのまま出かけようというオレとの約束がよっぽど嬉しかったのか、ホームルームが終わると待ち合わせの校門前まで駆け足で現れた。
そのせいで首元のマフラーがほどけているとも知らず、オレを見つけるなりとびきりの笑顔を見せてくれた。
「マフラーほどけてんじゃん。風邪ひいたらどうすんの」
なんて言ってオレがマフラーに腕を伸ばす間も放課後デートを期待したように瞳を輝かせて見つめるものだから、オレはガラにもなくマフラーの両端を掴むと自分の方に引き寄せて周囲からは見えないようにキスをした。
とは言っても本当に軽く、ほんの一瞬触れるだけ。
それでも三井さんを驚かせるには十分だったらしく、暫く何が起きたのか理解出来ずに自分の唇に指を重ねて何度も瞬きを繰り返す姿に今更ながら
「あ、この人って可愛いんだった」と、オレとしてはかなりの衝撃を受けた。
というちょっとしたおふざけをきっかけに、三井さんはオレと会う際には必ずマフラーをわざと緩く巻き、手直しとキスを求めるようになってしまった。
「マフラーそれで合ってる落ちそうじゃん」
と、オレが指摘すると少々拗ねたように「んー」と返事をするだけで、自分で直そうという気は一切無し。
花道達の話によれば部活終わりに皆でオレのバイト先であるコンビニへ寄る際は決まって店が見え始めたあたりからそれまでしっかり巻いていたマフラーをこそこそと自らほどきにかかるそうだ。なにそれ、ほんと可愛い。
元々オレが人前でそんなことをするタイプではないと誰よりも知っているだろうに、それでもめげずに努力をしているのが可愛いなんて言ったら怒って殴られそうだ。
あの一回は気まぐれのようなもので、二度目は無い。
そう決めている以上オレは三井さんの企みなんて知りません、分かりません、気付いていませんを貫き、マフラーを巻き直してあげるだけの日々が二週間も続いた。
そうなるといよいよ三井さんの方も本気を出したようで、今日のマフラーは大胆にも肩にかけているだけときた。
「なぁ、今日ってやけに寒くねぇオレ風邪ひくかも」
その上そんな白々しいことまで言い出すのでオレはつい笑ってしまいそうになるのを耐え、いつもならばマフラーを巻き直すために伸ばす腕を三井さんの口元まで運び、寒さで乾燥した唇を指先で優しく叩いてみた。
たったそれだけでキスされると期待して、校門前なのにギュッと目を閉じている姿が可愛いったらありゃしない。
「ちゃんとマフラー巻いたらご褒美あげるよ。あとでね」
でもオレは意地が悪いので、そこまで言って腕を下ろすと企みがバレて恥ずかしいのか、それともからかわれて怒っているのか、はたまた両方か、耳まで真っ赤にしながらいそいそとマフラーを巻く姿を見つめながら目の前の可愛い人をたまらなく愛おしく思った。