Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    なんなの

    @honmani_nannano

    日本語 トテモ むずかしネ

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🔷 🔶 📣 🌻
    POIPOI 40

    なんなの

    ☆quiet follow

    ろんさん(@rngsan)https://x.com/rngsan/status/1880931014887010769のカツアゲに敗北したものです

    洋三飯店ってなんなんですか?最近、うちの近所に中華料理店がオープンした。
    それもただの中華料理店じゃない。
    どう見ても胡散臭く、危険な店だ。
    なぜそう言い切れるのかというと、先ずは店の外観だ。
    店は二階建ての廃れたテナントビルの一階にあり、建物自体が古びて薄汚れている。
    コンクリートの壁はひび割れ、剥がれたペンキがところどころむき出しだ。
    二階にはかつて雀荘があったらしく、看板は錆びつき、窓は埃まみれでほとんど廃墟そのもの。
    閉店してから随分と年月が経っているはずなのに、次のテナントが入る気配はまるで無し。
    そんな見るからに条件が悪そうな建物にオープンしたのが湘龍軒だ。
    夜になると「湘龍軒」と書かれた看板のネオンが商店街から少し外れた人通りの少ない路地で輝いている。
    店の入り口には巨大な招き猫の置物がドンと鎮座し、ギョロッとした目玉で道行く人を睨みつけているようだ。
    上半分にガラスがはめ込まれたスライド式の入り口には新店なのになぜか煤けた暖簾がかかっていて、隙間から店内を覗いてもいつだって真っ暗だ。
    それでも目を凝らしてよく見てみると奥の厨房の方でぼんやりと男性らしき人のシルエットが動いているのが見えるだけ。
    店の表に並ぶリアルな食品サンプルは中華の代表とも言えるチャーハンから餃子、麻婆豆腐、果ては北京ダックまでやたらと種類が豊富だ。
    近くを通っただけで漂う中華料理に欠かせない油、そしてニンニクと醤油が絡む食欲をそそる香り──それだけで腹が減るのに、店はいつだって静まり返っていて、客らしき姿を一度も見たことがない。
    それだけなら繁盛していないだけだと流せたかも知れないが、問題はそこじゃない。
    客の姿はないのに、店の前を通る度にヤクザやチンピラといった雰囲気の連中が

    「水戸の野郎!!今日こそぶっ殺してやる!!」
    「呑気にこんな店なんて構えやがってなめてんのか!!」

    と、物騒なセリフを吠えながら店内へ突っ込んでいくのだ。
    けれど連中が店へ入って間もなく、静かだった店内からカーン!!ゴーン!!と金属を強く叩きつけるような音が響き、血気盛んに突入したはずの連中が頭から血を流したり、顔を何倍にも腫らして這うように退散する光景を何度も目撃してきた。
    だからこそ断言する。あの店、絶対にまともじゃない。
    そう分かっていながら、ほぼ毎日店の前を通るのはこの道が自宅から駅までの最短ルートで、通学に便利だからだ。
    ここを通れば十分も時短できるのに、わざわざ遠回りするなんて馬鹿らしい。
    そもそもこんな店、関わりさえしなければ何も危険は無いだろう。
    ……と、今朝までは思っていたのに。




    「なんなんだよこれは」

    いつも通り、大学からの帰り道に店の前を通ろうとしたオレは、今までと違う光景に足を止めた。
    怪しく光るネオン、気味の悪い招き猫、客の気配がないのに漂う食欲をそそる香りは昨日までと同じだ。
    だけど一つだけ、今朝にはなかった張り紙が店の入り口に貼られていた。
    内容は「アルバイト募集中」という一般的な求人文句の横に、一般的ではない一文が添えられている。
    「184㎝70㎏赤い膝サポを愛用する顎に傷のあるバスケ部員の現役大学生を超優遇」
    こんなもろに特定の誰かを指定するような求人を目にするのは初めてだ。
    しかも、その特定の誰かとやらに身に覚えしかないオレは、おかしな張り紙の前から動けずにいた。

    「イラッシャイ!!」

    突然、勢いよくと店の引き戸が内側から開くと同時に現れたチャイナ服姿の青年のカタコトな日本語が響いた。
    慌てて退こうとしたときには遅く、よろけたオレを支えるためか、もしくは逃がさないためなのか腕を掴まれてしまった。
    チャイナ服なんて着てるくせに頭はリーゼントで、丸いサングラスの奥でニコリと瞳を細める様子はどこか不気味な印象がある。
    身長はオレよりも低いのにしっかりと厚みがあり、サイズに余裕があるように見えるチャイナ服の下に男らしい体つきをしているのが分かった。

    「待ってたヨ~!!」
    「は?」

    待ってた?オレを?オレを待ってたということか?と理解がおいつかず固まるオレを無視して青年は腕を掴んだまま店内に連れ込んだ。
    手動のはずなのに引き戸が勝手に閉まり、チカチカと光るネオンが背後で遠のく。
    これはヤバイ。今すぐにでも逃げ出すべきだ。
    そう頭では分かっているのに、腕を引かれるまま厨房のよく見えるカウンター席に座らされてしまった。

    「ちょっと待っててネ」

    と言って厨房に入った青年は恐らくこの店の店主で、「水戸」と呼ばれる人物に間違いないだろう。
    不幸中の幸いなのか店内にはその水戸しか居らず、奴が背を向けてる隙に見渡した店内は想像していたよりも随分と綺麗で、ホラー映画のような拷問道具は一つも見当たらない。

    「はいセンズリ……おっと!!間違えたネ。センブリ茶をドーゾ」
    「……どうも」

    すぐにこちらを向いた水戸は厨房越しにカウンターへ湯気の立つ湯飲みを置き、戸惑いを隠せないオレにニコリと微笑んだ。
    その微笑みこそ怪しさを際立てていると本人に自覚があるのかは知らないが、とりあえず礼儀として頭を下げると早く飲めと言わんばかりに「ドーゾドーゾ」と上機嫌な声が降ってくる。
    怪しい店で、怪しい店主に差し出された怪しいお茶なんて、絶対に手をつけるべきじゃないだろう。
    それでも水戸の笑顔による圧に負け、湯飲みを手に取り恐る恐る一口飲んでみると──

    「にっげぇ……!!」

    あまりの苦さに思わずべぇと舌を突き出し、顔をしかめた。
    こんなお茶は初めてだ。 いや、そもそもこれは本当にお茶なのか?
    まさか毒入り?と慌てて顔を上げると正面に立つ水戸がサングラスの奥で瞳を細め、オレの心を読んだように「毒じゃないヨ」と言った。

    「センブリ茶、はじめて?」

    水戸がニコニコしたまま、のんびり聞いてくる。
    舌に残る苦みに顔をしかめたままコクコクと頷けば、水戸は上機嫌になって

    「センブリ茶、胃腸に良いヨ!!消化促進、食欲増進、疲労回復、血行促進……」

    などなど、延々とセンブリ茶の効能を捲くし立てる。
    はじめこそふんふんと聞いていたが話が長くなるにつれて理解が難しくなり、何を言っているのか分からなくなってきた。
    しまいには「古代中国の秘伝」だの「仙人の知恵」だの怪しさ全開の話に突入して、オレはたまらず「あの!!」と水戸の言葉を遮った。

    「お、お茶のことより……何でオレをこんなところに連れ込んだんだよ!!」
    「何でって…面接デショ?」

    意を決して口にした疑問に、水戸はきょとんと首を傾げながら答えた。

    「は!?いやいや、そんなつもり全くねぇから!!」

    すかさず両手を振って否定しても、水戸は「んー?」と喉を鳴らして話が通じそうにない。
    それどころか店の入り口にあったものと全く同じ張り紙を取り出し、テーブルに置いて

    「184㎝70㎏赤い膝サポを愛用する顎に傷のあるバスケ部員の現役大学生が、自分から店の前に現れておいて……それはナイよネ?」

    と、有無を言わさぬ圧をかけてきたのでオレは立ち上がり、違う違うと何度も首を横に振った。
    頭の隅ではどこか冷静にやっぱり自分のことだったのかと納得しながらも、これ以上巻き込まれてはいけないと防衛本能が警告を出している。
    そもそもの話、毎日店の前を通っているだけのオレが募集条項に無理矢理当てはめられるなんておかしい。
    今ここではっきり断っておかないと後々苦労するのはオレ自身だ。
    だから「絶対に嫌だ!!」と声を張り上げてまでみせたのに、水戸は微笑んで

    「まぁまぁ、物は試しネ!!」

    なんて勝手に話をまとめようとした挙句、「ジャーン!!」と橙色の制服……と言うよりはコスチュームを取り出した。
    チャイナ服を基調にしたフリル付きのデザインのそれは胸元が大胆にガパッと開いてる上に、体のラインを強調するためか細めの造りで、短すぎるスカートが煽情的だ。
    しかも上着の丈が異常に短く、腹部が丸出しになることは間違いなし。
    こんなものをウェイトレスの制服にする馬鹿がどこの世界に居るんだよ。
    いや、居るのか、ここに。

    「馬鹿かお前!!オレは男だぞ!!」
    「も~!!怒らないデ!!」
    「何だよその趣味の悪い制服は!!オレにそんな恰好で出前でも行けってか!?」
    「それは駄目。デリヘルになっちゃうじゃん」
    「は?え?おま、お前今普通に喋ったよな?なぁ、もしかしてそのカタコトっておい!!押すなよ!!」
    「着替え終わったら声かけてネ!!」

    似非中国人のキャラも忘れた水戸はすん、と真顔でオレの言葉に首を横へ振った。
    それを指摘すると都合が悪かったのか、いかがわしい制服を押し付けて厨房の更に奥の方にあったスタッフルームへオレを連行しようとした。
    もちろん抵抗を試みたがニコニコと微笑みながらも水戸の腕力は凄まじく、オレがその場に踏ん張ろうとも片手一つで呆気なく部屋の中に押し込みやがった。
    ご丁寧に向こう側から鍵までかけたらしく、「早くネ~!!」という急かす声にせめてもの抵抗でドアを蹴ってみたがきっとあの笑顔が崩れることはないだろう。

    「……くそ、どうしてオレがこんなことに」

    薄暗い部屋で一人、両手に持った制服を改めて確認するとやはりいかがわしさ満載で、触れると無駄に上等な布が使われていることが分かった。
    こんなところに金をかけるなんて馬鹿じゃねぇの?とは思いつつ、仕方が無く着替えてみると想像していたよりも体にピタっとフィットした。
    胸元は開きすぎ、スカートは短すぎ。
    上着に至っては腹が丸出して、いっそ全裸の方がまだ健全な気さえしてくる。

    「は!?」

    ふと、胸元にハート型のネームプレートが付いていることに気付いた。
    そこにでかでかと書かれた「みっちゃん」はまさしくオレのあだ名で、ここへ訪れてからまだ一度も名乗っていないオレのあだ名が既にバレている事実に背筋が凍った。
    この調子だとオレの本名や自宅の住所、通っている大学までバレている気がする。
    ただの中華屋の店主にバレているだけならまだしも、ここは普通からは遥かに遠い危険な中華屋だ。
    そんな店の店主のターゲットにされるようなことをした覚えはないのに、どうしてオレがこんなことに巻き込まれなきゃならないんだ。

    「も~!!みっちゃん!!遅いヨ!!」
    「勝手に開けんなよ!!って言うか何であだ名知ってんだよ!!」
    「とっても似合ってるネ!!お腹、セクシーだヨ!!」
    「話を聞けって!!」

    一向に呼びかけに反応しないオレに痺れを切らしたようで、水戸は勝手にドアを開くとまたもや強引にオレを移動させ、店の真ん中に立たせると前から、後ろから、横からと舐めまわすように見つめてグッと親指を立てた。
    客が居ないにしろ、中華屋のど真ん中でこんな馬鹿丸出しの恰好をした男に見せる反応じゃないだろ。
    都合の悪いことは全部無視で、オレが怒鳴っても効果無し。
    その上、あまりにも執拗に見つめるものだから居心地が悪くてたまらない。
    視線から逃げるように短いスカートの裾を両手で掴んで伸ばそうとしても伸縮性のない布はビクともせず、逆に両腕の二の腕で胸元を挟んで強調するようなポーズになったことで水戸を喜ばせてしまった。
    ……こいつ、どこまで変態なんだ?

    「さあさあみっちゃん!!サインプリーズ!!」
    「は?何だよサインって……いやもうつっこむのも疲れたわ」

    散々可愛いだのセクシーだの騒いでいた水戸は懐を探ると四つ折りの紙を取り出し、テーブルの上に広げてみせた。
    続けて渡されたボールペンを握りしめながら紙に視線を落とせば「誓約書」という三文字の下にはオレがこの湘龍軒のウェイトレスとして働くことや、店主の要望にはいついかなる時でも心を込めてご奉仕する、といった一方的な内容が並んでいた。
    しかも肉眼で全ての文字を確認するのは難しいほど小さな文字で、飛ばし飛ばし確認していると毎月22日には愛らしい猫ちゃんになります、なんて馬鹿げた項目を見つけて眩暈がした。

    「お前さぁ…ふざけるのも大概にしろよな。何だよ猫ちゃんって。誰がこんなもんにサインするかよ」

    いよいよ呆れると一気に疲労が押し寄せたので椅子に座り、誓約書を床へ払い落としてやった。
    水戸のペースに巻き込まれて着替えまでしてしまったが誰がこれ以上こいつの茶番に付き合うものか。
    今夜にでも店主が変態、クソボケ、店の前を通っただけでいかがわしいコスチュームを着せられます、といった事実に基づいた最低最悪の口コミを書き込んでやる。
    そうすることでいずれ多額の借金を背負ったまま閉店を余儀なくされる水戸の姿が思い浮かび、想像でしかないのにあまりの惨めな様子にふん、と鼻で笑うだけの余裕ができた。
    しかしそれはあくまでもオレの脳内の想像に過ぎず、現実の水戸は突然「?」と地を這うような低い声でオレを凄むと正面の椅子にどっかりと腰かけ、「あのさぁ」とこめかみに浮かべた青筋をピクピクさせながらこう続けた。

    「はっきり言ってさ、オレも暇じゃねぇの。分かる?この面接だって開店前の貴重な時間を割いてやってんの。それを子供みたいにぎゃあぎゃあ騒いでぶち壊してくれてなにが楽しいの?どういうつもり?オレが一度でもあんたに面接させてくださいなんて言った?言ってないよな?求人の張り紙につられてやって来たのはあんただろ?それに人の店でそんなスケベな恰好してなに考えてんの?胸元ガバガバすぎ。腹も丸出しですげぇえっちじゃん。膝サポも外さないでくれたんだ?ありがとう。5発はいける。それにさぁ、よく考えてみなよ。バスケばっかしてきた世間知らずのぼんぼんがこの先一度もバイトの経験すら無いまま大人になんの?それが社会で通用すると思う?今だって親の金で生活してるくせに仕事を選べる立場だと思う?思ってるなら今すぐ考えを改めて。反省して。あんたのためを思って言うけど、親の有難みを知るって意味でも一度バイトくらいはしておきなよ。うちなら悪いようにはしないし、好きな時にいくらだって御馳走してやるからさ。それにほら、右手でVサイン作ってくれる?ん?そうそう。チョキだね。じゃあ次に左手を高く上げて──ワキのとこ、右手の人差し指と中指で拡げてみて。そうそう!!上手上手。いやほんと、マジでありがと。本来は素直でいい子なのに何であんなに反発したの?オレオーナーだよ?分かってる?言わばご主人様だよ?そのオレにあんな反抗的な態度みせてそれでもうちの看板娘なの?分かってる?この店の未来はあんたにかかってんの。たかがバイト、されどバイトでしょ。オレだってこんな厳しいこと、言いたくって言ってるわけじゃないんだから。もちろんプライベートはきっちり分けるつもりだし、一生大切にしてやるよ。でも仕事は仕事だろ?そのへんもっとしっかり考えてくれよな。いいか?よく聞けよ。バイトってのはさ、人生の試練なんだよ。試練。あんたバスケ部だろ?試合で仲間と勝利を目指すだろ?それと同じことだよ。この店だってチームだ。オレがキャプテン、あんたがエース。わかる?今は確かにまだ繁盛してないけどエースのあんたが居ればうちは無敵だ。それからこれは恩着せがましくなるようで言いたくなかったんだけどあんたのその制服、いくらかかったと思う?デザインから素材まで全部プロに任せたんだからせめて制服分の働きくらいは誠意として見せてもらわねぇと。それとも弁償してくれる?仕送りだけが頼りのあんたに払える額じゃあないけど、親御さんに事情を説明して立て替えてもらうとか?だったらオレから実家に電話してあげるよ。お宅の大事な坊ちゃんが我が家に伝わる伝説のえちえち衣装……じゃねぇや。うちの家宝とも言える貴重な貴重な由緒ある制服をむちむちボディを見せつけんばかりに着てくれて大変眼福ですって。そんなの困るだろ?あんたのためにも親御さんには黙っといてやるからさ、いつまでもめそめそ泣いてないでちゃんとペン握って。ここにサインしてオレにごめんなさいしてくれたら今回のことは水に流してやるよ。あんただってこんな険悪な空気の中で働きたくないだろ?オレだってそうだよ。だからさ、いつまでも意地はってないで素直になりなよ。な?」

    流暢な日本語による理不尽な説教に耐え兼ね、ついにオレは大学生にもなってみっともないほど泣いてしまった。

    「ご、ごめんなさい……」

    強制された謝罪の声も震え、床から拾い上げて寄せられた誓約書へのサインもガタガタだ。
    それでも水戸は機嫌を良くし、オレがサインした誓約書を奪い取ると懐へ仕舞い、ふんふんと鼻歌交じりに隣まで来ると

    「末永くよろしくネ♡」

    なんて人が変わったように優しい声で言って、指先でオレのへそをくすぐるものだからオレは

    「あんっ」

    と甘い声を出してしまい、恥ずかしさから一切の思考を放棄した。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💴💴💴💴💴💯💯💯💯💯💯💯💯💯💯💴💴💴💴💴💴💴💞😭😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works