「眩しい…」
「会長!大丈夫ですか?」
「会長〜…ぉ…、前誰だ…?」
どうやらよくわからない世界に来たみたいだ。
この部屋にいる人の腕を見れば、腕章を全員つけている。
平等、という事だろうか。
視覚情報で他に得られそうなものは全員、生徒会長が好きらしい。
たかが眩しい光に近かっただけなのに心配で傍に来ているくらいだ。
「君たちは生徒会の人かな?」
「そうだけど…」
「そう…僕は音取春雅。生徒会長してるよぉ」
名前を告げた途端ソワソワしていた人達は一瞬にして止まった。
「同じ名前なんて有り得ない、どうなってやがる…、」
「かいちょーと同じ名前って事は入れ替わっちゃった…!?」
「そんな、アニメや漫画の世界では無いのですから…あぁ、でも顔が凄く似ているから勘違いしてしまいそう…」
どうやら同姓同名、顔も同じ。
ただ少し性格が違うみたいだ。
ポケットに入っていたスマホが振動する。
取り出した画面に映し出されたのは見覚えのある名前だ。
「へぇ…随分舐められてるみたいだね、俺」
「いや、会長優しすぎるし…でも今は雰囲気も全然違うよ」
赤髪の2人が目を見合せて落ち着きなく体を動かしている。
なんとも滑稽なものだ。
「君、名前は?」
「私は花恋ですわ!は、春紬寧くんの許嫁です…!」
「オイ!そんな話知らねーよ!!」
「勝手に会長取らないでくださいカレン先輩!!!」
「あははっ、面白い冗談言うんだね。今日君の家に行ってもいいかな、流石に親には誤魔化しは効かないだろうし会いたくないんだよねぇ」
ついでに二度と許嫁なんて言わせないように指導してやろう。
「いや、待て。女の子の家に泊まりに行くのは不誠実だろう、俺の家にしないか?」
「オレも泊まっていい?泊まっていい?」
「おう、いいぜ。母さんに言っとけな〜」
「え〜、君たちに興味ないんだけどぉ」
「別に私は平気ですわ!」
「いーや、ダメだ。力づくでも連れてくよ」
なにかに気づいたか、この2人なら押せば行けそうかな…
俺に指図だなんていい度胸だ。
「もう少しだけ残ってる書類があるからちょっとだけまっててくれ」
「オレもカレン先輩に教えてもらうことあるから」
その前に、彼らに会いに行く必要があるな。
「ちょっと行くところあるから後でまたねぇ」
「逃げんなよ〜」
「逃げないよ、どうせ今だけだし楽しませてもらうよ」
適当に返信をする前に直前の会話を覗く。
あんな弱い人達に何を怯えているんだか。
この世界の俺は弱すぎないか?
ちょっとさすがに引く。
「こんにちわぁ、君たちが送り主かな?」
「あ?誰だテメェ」
「あれぇ?会長じゃないじゃん」
「わぁ、この世界の君たちはよく吠えるねぇ」
素行が良くないなぁ。
はぁ、でもここは俺が通ってる学校じゃない。
よその生徒まで躾けるつもりはないし俺が少し違っただけでここまで横暴な態度が取れる変わった姿を見れただけでも御の字か。
面白いなぁ、やっぱり彼らは。
「今日は君たちに構ってあげるほど暇じゃないからさ。どうせ弱みでも握って俺を抱いてるんでしょ?」
「はっ、どーだかな。あーー、萎えた。」
「え〜!今日試したいことあったのに〜〜〜」
「明日でもいいだろ…」
「明日だったら好き放題していいよ、どうせ俺じゃなくなってるだろうし?」
別に自分では無いんだから好きにされたって構わない。
この世界の自分が気に食わないからこれくらいしたっていいだろう。
「じゃ〜ね、遊び道具ですら躾られないお二人さん」
2人がいた教室から離れ、フラフラと校舎内を回っていると探し回っていたであろう、大きい方の赤髪から声をかけられた。
「お、おい…おま、どこまで…」
「ん〜?ちょっとそこまで。」
「俺ん家行くぞ、はぁ…ツヅが待ってる」
そういえば、名前知らないな。
別にいいか…弱者に興味は無い。
靴を履き、校舎を出るとこの子の知ってる俺じゃないのに抱きついてきた。
同じ顔なだけなのにここまで懐くのか…
「会長とお泊まり!!」
「良かったな、ツヅ」
「そんなに俺のこと好きなんだね」
「大好きだよ!!最初見た時すげー弱そうだったのに実際仕事してるところ見たら3人くらいいるように見えるし…」
この2人は学年が違うのにこんなに仲がいいと思ったら親戚らしい。
後ろから二人の会話を聞いていて思ったが、どうも馬鹿正直で天然なところがあるのは血筋の問題だろうか?
こちらの世界ではまだ数時間しか過ごしていないのに何だか疲労困憊という感じだ。
この2人に分からせる必要があるのは分かっているがあまり乗り気がしない。
というか、二人の体温が高すぎてくっつかれるとすごく熱い。
「ちょっと…2人近い…」
「そうか?」
「そうだよ、君達あつすぎ…窓開けたいからどいてねぇ」
窓を開ける。
少し年季の入ったいい窓だ、彼は掃除がマメなのだろうか。
ちゃんと手入れが行き届いていて良い。
開けた窓から入り込む心地いい風が俺の髪を攫う。
前髪を抑えながら少し窓を閉じようとした瞬間、夜に似つかわしくない強い光に目を閉じる。
「う…眩し、…」
「あ…音取くん」
目を開けると俺より背の高い巨貴くんが目の前にいた。
視界が遮られる。
「大丈夫?とりあえず戻ってこれてよかったね」
「まぁ、面白いもの見れたし悪くなかったよぉ」
「珍しいね、あまりそういうこと言わないから」
いつも通りの巨貴くんを見たら日常が戻ってきたんだなぁと感じる。
不思議な体験をしたが、より一層彼が欲しくなるだけだった。