サンプル ③「やっほー♥♥ちゃん♡今日も元気に生意気してる〜?」
屋上でのんびりしていると、ガチャ!と勢い良くドアが開き、センパイが楽しいですオーラを出しながらアタシに話しかける。
「・・・センパイだけには生意気なんて言われたくなーい!」
「相変わらずそうじゃん♪そんな態度二度と取れないように躾てやろうか?」
「やだね」
「ほんと生意気でちゅね♡躾がいがあって燃えんななァ」
そう不穏なことを言い始めたセンパイに向かってべーっと舌を出して威嚇してみたけど、効果なしのようでセンパイはドカッとアタシの隣に腰かけた。
「教室居なくていいんです?」
「それは♥♥ちゃんも同じでショ。昼寝してェなって窓から屋上見てたら、可愛い後輩が居たから来た♡」
「あっそ。じゃあ、アタシは教室戻るから昼寝楽しんで下さいな。♥♥センパイ?」
ほんとはまだサボるつもりだったけど今日はセンパイと居たい気分じゃないからお暇して他の場所探そ。そう思って立ち上がったのにグイッと腕を引っ張られ、バランスを崩してセンパイに押し倒される形になる。びっくりして起き上がろうとするも、両腕を掴まれてしまったし、そのまま上から体重をかけられてしまって身動きが取れない。当の本人は上からアタシの顔を覗き込んで「びっくり顔もーらい♡」と愉快そうに笑っている。
「なーに帰ろうとしてるワケ。俺がなんのために来たと思ってんの。先輩が添い寝してやるから一緒にサボろうぜ」
「なんでそれで釣れると思ってるんですか。そもそもアタシの腕離すつもりないでしょ」
「えっへへ、だいせーかい!♥♥ちゃんはちょうどいい抱き枕だからさ。俺の安眠のためにもここにいろよん♪」
先輩命令だかんなーと言って、掴んでいた腕をパッと離し、アタシを抱えてセンパイの膝の上に乗せられる。サッカーを嗜んでる年上の男性だから体格差も身長差も大きくてすごくムカつく。
「大人しくしてくれれば、♥♥ちゃんにひでーことはしないぜ?」
そう言ってうりうりと鼻を摘まれムカついたので、そのままセンパイの手を引っぱたく。やだ、アタシは帰る。離さないならいっそのこと暴れてやる。
「センパイの意地悪!アタシは帰るの!バーカバーカ!」
そう言って小さい子のような悪口を言いながら暴れていると、センパイはアタシを軽々といなす。力じゃ敵わないからどうすることも出来なくてムスッとしてしまった。そんな姿を見てか、センパイはアタシの前髪を上からかき分け、チュッとリップ音を響かせる。
「なっ...なっ!?」
慌てふためくアタシを他所にセンパイはおでこへのキスを止めない。嘘でしょこの人。どんどん顔に熱が集まっていく。
「んー?今日は何時にも増してわがままだからお仕置き♡まだ暴れるなら、続けて顔茹でダコにすんぞ」
「はい!?」
「おデコくらいでそんななら口にしたらどうななるんでちょうね?俺はどっちでもいいぜ」
「遠慮します!!!」
これ以上センパイからのキス攻撃は受けたくない。アタシの心臓が持たない!破裂する!確実に殺される!まだ死にたくはないので、言われた通り大人しくするといい子でちゅねと頭をポンポン撫でられた。完全に子供扱いでムカつく。センパイは大人しくなったアタシに満足したらしく、アタシの肩に顎を乗せてモゴモゴ喋り出す。
「♥♥ちゃん今日は部活?」
「休みですよ」
「んじゃ、俺と放課後デートしようぜ♪♥♥ちゃんが好きそーなお店オープンしてた」
ほれ、スマホを取り出して見せてきたのは、駅の近くに新しく開店したカフェのアカウントだった。アタシの好きないちごを使ったメニューが多く、どれもこれも美味しそう。
「♥♥ちゃんの好みドンピシャっしょ?」
「好みドンピシャだし、めちゃくちゃ行きたいですけど...。センパイこそ部活はいいんです?」
「俺も今日はフリー。最近サッカーばっかで全然構えてなかったから今日はめいいっぱい可愛がってあげまちゅ♡」
♥♥ちゃんヘラり中みたいだし?と楽しげな声色の中に孕んだ気遣いがじんわりと伝わる。普段は自分の勝手で行動するクセにアタシが病んでたり、凹んでたりするといつもの調子を装って気にかけてくれる優しさがどうしようもなく憎くて嫌いで大好きだ。
「センパイのそういうところ嫌いです」
「大好きの間違いデショ。美味しい物いっぱい食べよーな♪」
「ん」
午後の授業の始業ベルがなり出す。放課後になるまであと数時間はご機嫌な様子のセンパイの腕の中に軟禁だろう。午後はまだ始まったばかりだ。