ささやかな幸せ「少し飲みすぎてしまったな。そろそろお開きにしようか」
「そうだな……先生、新作の試食手伝ってくれてありがとな。助かったよ」
「ふふ、どういたしまして。今回も美味しかったよ」
最近、ファウストとの晩酌が日課になっている。今日は新しいレシピを考えたため、酒を飲むついでに味見をしてもらった。彼と過ごす時間は、穏やかでとても心地が良い。お互い長い間1人で暮らしていたこともあって、気が合うのだろう。
ファウストが去ってから、とたんに静まり返った自室。ネロは食器を洗いながら思考を巡らせた。
フィガロを殺すからお前も協力しろ。ブラッドリーにそのようなことを言われた。もちろんネロは了承した。裏切った罪を償える最後の機会だと思ったから。……悔いを残すことなく、死ねると思ったから。
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