真夜中の訪客 ドアをノックする音が聞こえる。
「いいぜ、入ってこいよ」
真夜中にネロの部屋を訪れたのはシノだった。
「…」
「どうした、小腹でも空いたのか」
部屋に入っても何も話そうとしないシノに問いかけると、首を横に振った。
「…怪我、治って良かった」
シノはゆっくりネロに近づくと、背中に手を回した。
「怖かった。こんな怪我…二度としないでくれ」
彼らしくない、震えた声が聞こえた。顔は見えないが、今にも泣きそうな表情をしているのだろう。
「お前の自分を卑下する癖はヒースに似ている。どうせ、自分には価値がないとか思っているんだろ」
「お前はお前が思っているよりも、愛されている。ヒースやファウストだって、ネロのことが好きだ。……勿論、オレも」
「だから、もっと自分を大事にしろ。大切な人が傷つく姿なんて、見たくない」
『大切な人』。シノの言葉に、くすぐったい気持ちになる。
けれど、素直に受け止められない。
「…俺は、俺の作った料理を美味そうに食べてくれたら、それで十分なんだ」
「俺自身に価値があるような言い方をするのはやめてくれ。…勘違いしそうになる」
人には到底言えないような悪いことを散々してきた。大切だったはずの人を裏切ったくせに、過去を捨てきれない。醜い過去を背負いながら、魔法舎の新しい仲間と信頼を築こうとしている。そんな自分のことを許すわけにはいかなかった。
「ネロがそう思うなら、今はそれでいい」
「…」
「…オレは、絶対にネロを否定したりしない。たとえネロが自分のことを嫌いでも、オレが『大好き』『ありがとう』って、たくさん伝えたい。いつか、未来のお前が、今のお前を馬鹿らしいと思うくらいには」
「だからネロも、『ネロ』として接してほしい。オレは、『ネロ』が好きなんだ」
シノの真っ直ぐな言葉に胸が暖かくなる。自分を好きになれなくても、自分を認めてくれる人がいるだけで、少しだけ心が軽くなった気がする。
「…ありがとう、シノ」
「ふふん、どういたしまして」
俺も彼自身に、たくさん温かい言葉を掛けよう。
そう決めた、夜だった。