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    短い話を放り込んでおくところ。
    SSページメーカーでtwitterに投稿したものの文字版が多いです。
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    POIPOI 192

    お題「愛」「誕生日」「食べる」
    盗賊団に入る前の食事を思い出すネロが、みんなに誕生日お祝いをされるお話です。

    #魔法使いの約束
    theWizardsPromise
    #ブラネロ
    branello
    #ブラネロ版お絵描き文字書き一本勝負

    君はいい子 満足に食事をとることが出来たのは、ブラッドの盗賊団に加わってからのことだった。それまでの俺は三食なんてもってのほかで、俺をいいように使っていた人間の男たちから、薄い塩味のくず野菜のスープにありつけたら万々歳、そこにうすっぺらい肉が浮かんでいたら狂喜乱舞、といった感じだった。残り物だからと腐った肉を食わされた時もあったし、当然何もない日が続くこともあった。とにかく、力のなかった俺には、北の国での生活は過酷だった、というわけだ。
     ブラッドは部下に対して、愛を惜しまなかった。どんな寡黙な男たちだって彼の優しさに触れれば涙して、あなたに一生ついてゆくと言った。そして危険な仕事につき、みなボスのためならと喜んで石になっていった。
     ブラッドは北の国の魔法使いにしては珍しく、秩序だった行動をする男だった。力のある、あるいは力を秘めた魔法使いを集め、庶民を食い物にしている貴族や王族たちから宝物を奪い、それを金に変えて食事をし、魔法使いも、人間の信奉者も増やしたのだ。まるで魔法使いや、それに賛同する人々だけの国を作ろうというかのように、彼は行動しているように見えた。少なくとも、俺のうつろな目にはそう見えた。そしてそんなこと無理だって分かっていたのに、俺はそれを夢見てしまった。
     でもそんな夢も突然終わり、今や彼はある程度の自由が保障されているとはいえ囚われの身だ。盗賊団の頭だったのだから汚いこともたくさんやったが、スケープゴートにされるには彼は純粋すぎたように思う。
     それを受け入れた彼も彼だった。いくら北の国の魔法使いの呪いで牢屋に閉じ込められているとはいえ、長く猛威を振るった魔法使いの彼のことだ、あんなちゃちな牢獄から逃げられないわけがなったし、彼に呪いをかけた魔法使いもそう思っていたことだろう。なのにそれでも逃げなかったのは、この世の秩序のためだった。彼は弱い誰かの血を流すことを好まなかった。自分は傷ついてめちゃくちゃになっても、弱い者たちが傷つくのは見ていられないと、彼が時折見せる視線でよく分かった。
     大いなる厄災で傷を負ったのも、ああ見えて誰かを庇ったせいじゃないか、と俺は思っている。でも、結局その理由は聞いたことがない。再び共寝をする仲になっても、俺たちの間には距離があった。それは俺の言葉なんかではどうにもならず、だから幾度ベッドを共にしても、俺たちはただ寝るだけの仲だった。娼婦に寝物語を話すようなこともしなかった。ただ、俺たちはセックスをしているだけ、それだけだった。
     そんな俺のどうしようもなさを見抜いたのか、一度だけカナリアにいい人と距離を取りすぎるのも問題ですよと言われたことがある。カナリアはいい女だ。頼りないところもあるが男気のあるクックロビンを愛し、献身的に支えている。魔法使いを怖がらず、自ら申し出て魔法舎で働く女傑でもある。ネロさんはいい人なんですから、もっと自信を持っていいと思いますよ。私だってあの人に本音を言うのはいつだって怖いけれど、本当の言葉でぶつからなきゃ、それは愛って言えないから。
     愛、愛ねぇ、と俺は思う。確かに過去の俺は彼を愛していた。石になって食われたいと思っていた。それは今も変わらない。彼に食われたのなら、どれだけ嬉しいだろうと思う。でも、今のブラッドの気持ちは俺は知らないのだ。ブラッドは多くの手下たちの石を食べてきた男だった。それが初めて苦行のように見えたのは、彼が殊更可愛がっていた少年の魔法使いが死んだ時のことだった。俺よりいくらか年下だったその少年が盗みに入った先で、治癒魔法も効かないくらいの暴行を受けた時、ブラッドは優しく命を吸い、石を飲み込んだのだ。まるで、それが唯一してやれる弔いだと言わんばかりに。
     でも俺も、あんなふうに死ねたら、と思うことがある。多くの手下がそう思っていたように、ブラッドの理想のために死ねたら、どれだけいいだろうかと思うのだ。でも俺は一介の魔法使いじゃなく、もう賢者に従う魔法使いで、そして誰からも恐れられた死の盗賊団の頭の片腕じゃない。当然彼の相棒でもなく、彼を裏切り、一人のうのうと生きて来ていた卑怯な魔法使いだ。だと言うのに、そんな俺も今日何度目かの誕生日を迎える。もう正確な年は分からないが、カナリアに聞き出されて祭りみたいな夕食が始まったのだ。今年は宮廷から特別に料理人を呼んだのだという。それはクックロビンの手腕によるものだとも、カナリアは言っていた。
    「ネロさん! 早く早く!」
     カナリアが呼ぶ。俺はそれに続いて広間に向かう。そこには正装に身を包んだ仲間たちがいて、あぁ、そういえばこんなに美しくはなかったが、初めてブラッドに誕生日を祝われた時も、心があたたかくなってどうしようもなくなってしまったのだと思い出した。俺はブラッドの姿を探す。彼は広間の隅で酒を飲んでいて、俺を見つめるとにやりと笑った。俺はそれに何も言えず、ただ豪華な料理を見つめた。それは薄い塩味のくず野菜のスープでもなく、腐った肉でもなく、ブラッドが私服を肥やす金持ちの邸宅からかっさらって来た肉汁が垂れる料理でもなかった。上品な、アーサーなんかが食べそうな王族のための料理だ。それも宮廷料理人が作ったのだから当たり前なのだけれども。
    「おめでとう、ネロ!」
    「おめでとう! いつも美味しい料理をありがとう!」
     魔法使いたちが口々に俺に対して礼を言う。俺はそれに、過去を思い出してどうしようもない気分になった。おめでとうネロ、これでお前も一人前だな、先の働きは良かったぜ、なぁネロ、これから俺と祝杯と行こうぜ。
     ブラッドはまだ酒を飲んでいる。豪勢なつまみを口にして、ちびちびと葡萄酒を飲んでいる。ゴブレットはたっぷり酒で満たされて、強欲な彼を示しているように思えた。
     なぁ、ブラッド、あんたに初めて誕生日を尋ねられた時、俺は何を言われているのか分からなかった。魔法使いの誕生日を祝う人間なんていなかった。俺をこき使って、痛めつけた奴らは、俺をいいように使うだけで、ただの厳しい季節の国の労働力としてしか見なかったから。だからこんなふうに祝われるのも、お前のおかげなんだ。あんたから逃げて、また会って、なのに責めることもなく、俺を愛してくれたあんたのおかげなんだ。
     俺はそんなことを考え、ブラッドを避けて宴の中心に行く。そして皆に礼を言い、ムルが室内に放ち、シャイロックがたしなめる大きな花火に目をすがめる。
     ブラッド、お前はどんなふうに俺を見ている? 祝われる俺をどんなふうに見ている? 嘲っているのか? それとも純粋に祝ってくれているのか。
     ブラッド、ブラッド。
     俺はそんなことばかり考えながら葡萄酒を飲み、上品な肉料理を食べる。それはうまいソースがかかっていて、料理人にコツを聞きたいくらいだった。だっていつかそれを、ブラッドに食わせてやりたいと思ってしまうくらい、うまかったから。俺が今彼にしてやれるのは、それくらいしかなかったから。
     
     
     宴が終わって散らばる皿を片付けていると、ブラッドがやって来た。彼はまだゴブレットを片手に葡萄酒を飲み、顔をいくらか赤くして俺を見つめていた。
     主役が後片付けかよ、そうブラッドは言い、残り物をつまみ、また葡萄酒を飲んだ。彼は文句を口にしたが、はなかなかここに来た本音を見せなかった。祝いの席でも彼は俺に対して何も言わず、北の魔法使いがそれぞれ静かに食事をしつつ小競り合いをする様を見せていた。だから彼が近づいて来て、その手で触れられた時は驚いた。かさついた指が耳たぶをかすり、頬をなぞる。ブラッドは言葉にしないでも、俺を祝っているように思えた。俺の誕生日を初めて祝ったのは彼だった。だから俺は彼のからかいを素直に受け入れ、それでも軽口を叩いた。
    「そんなもの、食うなよ。俺が料理してやっから」
    「フライドチキンを?」
    「あんたはそればっかりだな……。仕込みに時間がかかるぜ」
    「いいさ、今日はじっくり見ていてやるから」
     ブラッドが笑う。葡萄酒を豪快に飲む。まるで一仕事を終えた、あの日々のように。
     派手なパーティーは終わった。俺は大勢に祝われた。でもそれよりも彼のわがままを嬉しく思ってしまうのは、恋人が一番近くにいるからだろう。ブラッド、ブラッド、ブラッド、お願いだから離れないでくれ、お願いだから、俺が賢者の魔法使いとしていい子にしている間だけは、俺の罪に目をつむってくれ。
     俺はそんなことを思い、厨房へと歩く。ブラッドは意地悪な笑い方をしながらついてくる。それはいつものことで、いつもと変わらないことで、俺はそれが嬉しくて仕方なかった。ブラッドの本意は分からない。ただ、彼が側にいる、それだけで今日の祝いと同じくらい、心がきゅうと締め付けられるようになってしまったのだった。
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    Replies from the creator

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    TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」
    盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
    かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
     普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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    TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」
    ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
    優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
     俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
     しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
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    44_mhyk

    SPOILERイベスト読了!ブラネロ妄想込み感想!最高でした。スカーフのエピソードからの今回の…クロエの大きな一歩、そしてクロエを見守り、そっと支えるラスティカの気配。優しくて繊細なヒースと、元気で前向きなルチルがクロエに寄り添うような、素敵なお話でした。

    そして何より、特筆したいのはリケの腕を振り解けないボスですよね…なんだかんだ言いつつ、ちっちゃいの、に甘いボスとても好きです。
    リケが、お勤めを最後まで果たさせるために、なのかもしれませんがブラと最後まで一緒にいたみたいなのがとてもニコニコしました。
    「帰ったらネロにもチョコをあげるんです!」と目をキラキラさせて言っているリケを眩しそうにみて、無造作に頭を撫でて「そうかよ」ってほんの少し柔らかい微笑みを浮かべるブラ。
    そんな表情をみて少し考えてから、きらきら真っ直ぐな目でリケが「ブラッドリーも一緒に渡しましょう!」て言うよね…どきっとしつつ、なんで俺様が、っていうブラに「きっとネロも喜びます。日頃たくさんおいしいものを作ってもらっているのだから、お祭りの夜くらい感謝を伝えてもいいでしょう?」って正論を突きつけるリケいませんか?
    ボス、リケの言葉に背中を押されて、深夜、ネロの部屋に 523