夏と実験。「さて。では、あとは君次第だよ」
異端児、アグネスタキオンはそう呟いた。
そして、ぼうっと消える黒い影を目で徐に追い、続けて言葉にした。
「…私は見学させてもらうよ、カフェ」
タキオンだけの影が少し伸びてそこに残る。
———
…いや、君のオトモダチ、実にひんやりとするんだねェ。
まさか目に見えるなんて…
第六感の覚醒か?
…要因が気になるところだが。
待てよ…もしかして今朝飲んだサプリメントは私の試作品だったのか?
…
はぁ、恨むよカフェ。
君の面白い取引きのせいで徹夜だし、私の世話役のモルモットくんも役に立たないし…
———
「…はやて、本当…なんだよね」
ぎこちなく、親友であるはずの彼女に話しかける。
「その、ごめんなさい…ええと、小町、さん」
幼馴染で親友である彼女が、まさか記憶喪失になっているなんて。
ふぅ…とため息が出てしまった。
別に、目の前の彼女に対してでも、彼女をこういった状態にした薬を作り出した彼女の担当バのタキオンに対してでもない。
ただ、純粋にこの状況に対して。
親友である彼女、はやては元々突拍子のないことをする性格だから。
幼馴染として、昔から何度も経験して、そして何度も受け入れてきた。
でも何があっても最後は、はやてがやったことは全て、それで良かったんだと、そう私を思わせる。
私を導いてくれる。
こういうところが、私を救ってくれたのだ。
彼女が行うこと全て、最終的には良い方向に転がる。
彼女がトレーナーになったこと。
彼女がタキオンとトゥインクルシリーズを目指していること。
そのためにタキオンの実験に付き合うようになったのも、彼女が望んでしていることだ。
私は、彼女に救われた側。
彼女の彼女自身に対する決断を否定することは決してしないと、そう決めている。
だからこの状況も、今まで同様受け入れる。
一緒に解決する方法を考えよう。
…今までのように、親友と。
「はやて、大丈夫。少しずつ思い出していこう」
———
やあやあ。
調子はどうかな?
…ん?
ああ、君、君に言ってるんだよ。
どうしたんだい?
ふぅン…、そうか、まだ何が起きているか把握出来ていないんだね。
大丈夫、少しばかり君の時間をもらう予定だからね。
少しずつ理解するといい。
私も君の観察を時間をかけて行いたいからね。
……。
———
「…!小町さん、ありがとうございます…!」
やっぱり、彼女のこの捨てられた子犬のような顔にはいつも弱い。
放っておいても自分一人で勝手に解決してしまうような気がしてしまうけど、はやてはいつも…
「あの、小町さん。…先に謝罪をさせてください」
「…!」
ぐい、と近付く彼女の整った、顔。
見知っているのに。
パーソナルスペースはいつも近い方で、空気を読まず近付いてくる彼女なんて、今に始まったわけじゃないのに。
真剣な面持ちで、迫られたら…
…だめだ…。
言葉が出なくなってしまう。
「…っ…」
「…、今の私は、小町さんの知っている『日野はやて』ではありません」
「…あ、」
哀愁のある笑み。
いつものはやてなら、そんな顔しない。
そうか…。今の彼女は…。
「そう、私は…ここにいる私はあなたしか頼りにできないのです」
「…っ」
私の両手を、きゅっと握る、彼女。
知っている…温度の高めな彼女の手のひら。
これはまずい…。
「…ごめんなさい、小町さん。怒ってますか?」
…顔を背けてしまっていた。
「そ、そういうわけじゃないけど」
二人きりだと、よく分からないことを考えてしまうので、この後始まる夏祭りに行くことにした。
「…小町さん、小町さん…」
遠く聞こえる囃子と、一歩後ろからはバツの悪そうなはやての声が聞こえる。
こういうとき、いつもは私が彼女の後ろを歩くのに、なんだか少し不思議な気分だ。
「小町さん、本当にごめんなさい。私が不甲斐ないばかりに、呆れていらっしゃるんですよね…」
本来のはやてなら謝ることはしてくれるけど、何がどう悪かったのかを理解しないままだから、同じようなことをしては喧嘩する…のに。
自分で反省している。いや、そもそも私の機微に気付ける。
…賢さが上がっている、というのはどうやら事実のようだ。
「…ううん、ごめん。私も調子狂っちゃって…。はやてのせいじゃないから…」
「…、そうなら…いいのですが…」
また捨てられた子犬みたいな顔で…。
ああ、だめだ、しっかりしないと。
一度、今の状況を整理してみよう。
まず、ここにいるのは私の幼馴染で親友。
単純で素直なアホの子(…なんて言ったら申し訳ないけど)
ただ、担当バ想いのトレーナーであり、タキオンを担当している。
今回、自分の賢さを改善したいと担当のタキオンに申し入れ、タキオンがその願いを叶える薬を作ってしまった。
実験は大成功し、はやては賢さと落ち着きを手に入れた。
…今までの記憶を引き換えに。
「小町さん、あの」
「は、はやて、あのねっ、…名前!…さん付けと敬語はやめてみて…?」
「わかりました、じゃなくて、うんっ」
そして、彼女は後ろにいたかと思えば軽やかなステップで私の前に躍り出る。
彼女らしい距離感で、
「えっとね、…小町」
名前を呼ばれる。
「顔、赤いよ?…調子悪い?無理したらだめだよ!」
「違…大丈夫、だから」
ああ…。もう、このはやてはずるい…。
「呼び方、違うかな…?」
「小さい頃から、こまちゃん、て呼ばれる事が多かったから、その」
「…なるほど。じゃあ、こまちゃんがいいね。…うん、たしかにしっくりくるかも」
笑顔と、彼女。
ようやく私もいつもの彼女に近付いてほっとした。
「あ、はやて。屋台が出てるね」
「お、本当だ。なにか買う?」
今日は突っ走って行かないはやて。
さっきみたいに一歩後ろでもなくて、ちゃんと肩を並べてくれる。
…私の目を見てくれる。
「…こまちゃん?」
「あ、…ごめん。はやてが落ち着きあるのが…なんだか不思議な気持ちになるなって…」
「あはは、私、そんなに落ち着きなかったんだ」
「うん。普段はタキオンに買い出し頼まれて校舎の何階からでもパルクールして出てくし、よくタキオンの実験だとかで走り回ってたりするし。よく光ってるし」
「えぇ…?そんなことやってたんだ…我ながら怖い…」
「でも今日は私の隣にいてくれて、私のことをちゃんと見てくれてるな…って、はやて?」
また瞳を覗き込まれる。
でも、今度は顔を逸らさないように。
真っ直ぐ見つめ返す。
「もしかしてタキオンに嫉妬してる?」
この問いはきっと検討違いだ。
はやてにははやての人生があると、ちゃんと割り切ることにした。
「…ううん。タキオンの話をしちゃったけど、元からあなたはそうだから。それに、私の担当だって可愛くて強い、優しい子だよ?」
「!…ご、ごめん、変なこと聞いちゃって。でも…よし、決めた!私、こまちゃんのこと、もっと大切にするよ」
「はやて…?!」
「友達以上に」
「な、」
「友達じゃなくてそれ以上かな」
「えっ…」
「だって親友だもんね」
「…うん、そうだね。でもなんで急にそんなこと言ってくれたの?」
「うーん、それは…。貴方を見ていると、心があたたかくなるような、不思議な感覚がしたから、記憶がなくなっても、大切な人は分かるんだなって」
「そっか」
「なのに、寂しい思いさせてた今までの私、ひどいよなって」
「でもそれがはやてだからなぁ。落ち着きなくて、でも私を引っ張ってくれて、私の太陽なんだよ、はやては」
「ははっ、なんだか自分に嫉妬しちゃうな…」
困ったように笑うはやてから、なんとなく目が離せなくなった。
「?こまちゃん、どうかした?」
「ねえ、はやて、もし私が嫉妬してるって言ったら今のあなたならなんて言って…」
…打ち上げ花火の音に、私の言葉はかき消されてしまった。
「わ…花火だね、こまちゃん」
「びっくりした…でも夏祭りらしくなってきたね、…屋台、どうしようか」
「予算もあるし、とりあえず回ってみてから決めよう?」
「わあ…賢い」
「こまちゃん…今の私はおそらく人並みの賢さかと」
———
どうしたんだい?
なに、外が賑やかだって?
ふぅン…君だって負けないくらい賑やかだよ。
ククッ、悪かったよ。夏祭りだろう?
仕方ないなぁ、少し連れ出してやるから、あんまり機嫌を損ねないでおくれよ。
…君はかわいいやつだねぇ。
———
射的、型抜き、金魚すくい。
焼きそば、チョコバナナ、りんご飴…。
はやては射的などの遊戯系は今回はパスするとのことだった。
「うーん、私やると屋台の人を困らせることになるだろうなって」
とのこと。
確かに射的では撃っては賞品を全て倒し、金魚すくいでは一つのポイで華麗に金魚を取りつくす、屋台破りの疾風、とか言われていたっけ。
本人に悪気がないのが余計怖いところ。
食べものは私が食べきれないので、はやてとシェアすることにした。
「はぁー!色々回れたね!こまちゃん」
「…」
「こまちゃん?」
「…あ、ごめん、そうだね」
「…歩き疲れたね、そこのベンチで休もう」
「ありがとう…」
「飲み物、買ってきます…!」
「うん…」
久しぶりにはしゃいでしまったせいなのか。
どっと疲れてしまった。
何のために祭りに繰り出したのか…。
普通に楽しんでしまうなんて。
「おや、カフェのトレーナーくん」
声のする方を見るとそこにはタキオンがいた。
「どうかな?か…彼女、いや、私のトレーナーくんの調子は?」
「タキオン…ごめん、なかなかうまくいかなくて…」
「いや、仕方ないさ。最初からうまくいくなんて、そんな事はないに等しいからねェ」
「…」
「おやおや、君の方が体調が優れないようだが…大丈夫かい?」
「大丈夫。タキオンも夏祭りに…カフェと?」
「ん…カフェにはフラれてしまってね、私一人でこの賑やかな催しを見学しているところさ」
「こまちゃん戻ったよ!ってタキオンさん…?!」
「おや、モルモットくん。彼女に水を買いに行っていたのか」
「そうです。…一体、どうされたんですか?」
「実は君たちに言い忘れたことがあってね」
「…言い忘れた、こと?」
「ああ、この賢さ上がるくんだが…デメリットである記憶喪失、つまりこの状況だが、今までの記憶のあった場所の代わりにこの人格があるイメージでね。PCなどのUSB挿入口を想像してほしいんだが。今までの記憶があるUSBメモリ。それを引き抜いてこの人格のメモリを挿入しているようなものでね。」
「…要するに?」
「この人格、そしてこの人格の中で作られた記憶は元のメモリ…記憶を戻すことによって、失われてしまうということさ」
「…!」
「なるほど…」
「モルモットくんは元通りになったら何も覚えていないということだねェ…傍迷惑な人だ。いや、それを作り出してしまった私も悪いのかな?カフェのトレーナーくん、この際、いつも言えないことをモルモットくんに言ってやってもいいんじゃないかな?この場限りではあるが、きちんと反省もできるし」
「そんなこと…できるわけ…」
「こまちゃん、いいんだよ…なんでも言って?」
「ま、記憶がいつ戻るかも分からないわけだが。そこは留意してくれたまえ。私も引き続き記憶を戻すための手段を別の切り口から探してみる。…では」
ここにいるはやては、今なら本音を聞けるってこと?
しかも、聞いても元に戻ったらそれを覚えてない…。
でも、さっき言ってくれた「こまちゃんをもっと大切にする」ってことも、忘れちゃうんだよね。
「こまちゃん…、とりあえずお家に帰る?」
「…そ、そうだね」
———
案外、うまくやってるみたいだねェ。
まるで女優のようになりきってるじゃないか。
———
…まさか、お姫様抱っこされて帰ることになるとは思わなかった。
「こまちゃん、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫そう」
「それにしても、タキオンの言ってたこと、こまちゃん本当にごめんね」
「どうして?」
「色々約束しても、私は忘れてしまうということ。あ、でも逆にすぐに叶えられることは叶えてあげる!私には遠慮しないで言ってみて?」
「…特に、ないよ」
「そ、そうだよね、私にあげられるものも、出来ることも…きっと…」
「うん、記憶を戻すことに専念しよう」
「…っ、いいの?」
「…なにが?」
「お祭りのときに、言ってた言葉。聞こえてたよ」
「え…?」
「こまちゃんがタキオンに嫉妬してるって言ったら、私が何を言うか。…聞きたくない?」
「あ、それ…は…」
「こまちゃん、私は」
「いいの!聞きたくない!」
「…こまちゃん」
「っ、ごめん、はやて…でも、怖いの」
「どうして…」
「友達でいてよ、はやて…じゃなきゃ、私、何のために…」
「…諦めてきたんでしょ?」
「っ、…」
「貴方の話を聞く限り、…あくまで推測だけど。本来の私は精神的にあまり大人じゃない。考え方も一方的。よく言えば一途というか、でしょ?」
「…」
「ねえ、今だけでいいよ。…私には素直になって。私ならきっと貴方のことを受け入れられるよ」
「…なんのこと、だか」
「小町」
「!」
「私のこと、好きなんでしょう?」
「…はやて、なんで…」
「貴方を見てればわかるよ。あとは直感だったんだけどね。…私はね、貴方のことが好きだよ。友達としてじゃない。貴方なら分かるでしょう…?」
「どう、して…」
「泣かないで、小町…私のこと、嫌い?」
「そんなことない…そんなの、ずるい…」
「謝ってばかりで、ごめんね、小町。本当の私はきっと考え方が幼くて、貴方の事を好きでも、でも無意識に貴方と友達以上にはならないようにしていたのかも。つまるところ、同性同士の恋愛はありえない、とか。
確かに記憶はない。でも私は直感的だから、貴方を見た瞬間、好きだって思ったよ。…幼い時もそうだったかも」
「そうだったら…嬉しいな」
「こまちゃんはさ、いつから私のこと好きになってくれたの?」
「はやてが…外に連れ出してくれた時かな。出会って、名前も知らないのに、私の手を引いてくれて…」
「へえ…お互いに一目惚れだったのかも」
「どうだろうね…でも私はずっとはやての事…」
「…うん」
「…、ごめん、目眩が…。楽しかったから少し無理しちゃったかも」
「え?た、大変、今日はもう寝ちゃう?」
「ごめんね、はやて…嫌じゃなければ泊まってくれる?」
「っ、え、いいの?」
「…今のはやてはなんでも聞いてくれるんでしょ…?」
「う、うん…!」
———
それから、シャワーを浴びて。
…彼女と同じ匂いになって。
二人で同じ布団に入って、眠るまで、話をした。
まさに、夢のような、ひととき。
「はやて、懐かしいね。…小さい時はこうしてよくお泊まりしたんだよ」
「…そうなんだ…なんだか幸せそう」
「うん、幸せだったな…何も知らないあの時に…戻りたいな…」
「小町さん…」
「なんて、ね…」
「…私は…悔しい…私だったら…私なら貴方に…応えられるのに」
「はやて…ううん、いいの。私ははやてのそばに居られれば…」
「…」
「そばに…いさせてね…はやて」
「……」
…。
応えられない。
その言葉には、応えられなかった。
私は…彼女の想う人ではないから。
…小町さんの本音を聞くことができれば、諦められると思った。
太陽に焦がれる、黒いアゲハ蝶。
私は彼女に寄り添うことしか出来ない、月光の影。
影は貴方を守ることは出来ても、太陽になる事は出来ない。
…最初からそんなこと、出来なかったんだ。
貴方の太陽になることも。
貴方を諦めることも…。
太陽は貴方だけ照らすことはない。
全てを照らしている。
それでも一途に追い求める、貴方が痛ましくて、見ていられない。
どうか、振り返って。
貴方の一番そばに、影があるように、私はいる。
自分自身に優しくしてあげて。
私が守るから。
私を、見つけてくれた。
否定せず、受け入れてくれた。
そんな、貴方だから…
「…こんなに、想っているのに……。私たちは、似た者同士…ですね。…小町さん」
……。
———
おや、電話か。
…どうしたのかな?カフェ?
なに?…もういいのかい?まだ1日目だが…。
もう少しこのモルモットくんを観察していたいんだけどねェ…。
…ああ、ああ。
分かったよ、どうにか抜け出して、そこへ行けばいいんだろう?
そんなに逸らないでくれたまえ。
想い人の寝顔でも堪能していればいいのに…。
……カフェ?
…はぁ、悪かったよ。
だから言ったのに。…まあ、あとで君の心境の変化を詳しく聴かせておくれよ。
…等価交換だろう?
———
「…、…。」
夢を見ていた。
私は蝶になって、ただ、飛び続ける、夢。
太陽に向かって飛んでいるはずなのに。
近付けなくて、陽は傾いて…そのまま、私の身体は闇に融解してカタチを失ってしまうように…。
「っ、はやて?!」
一緒に眠っていたはずのはやてがいなくなっていた。
どこだろう?どこに行ったんだろう?
もしかして、私に悪いと思って、出て行ってしまった?
記憶もないのに?
急いで寝室から出る。
「あー!こまちゃん!」
そこにははやてがいた。
「ごめんね!なんか記憶飛んでてー。これがケッサクなんだけど、タキオンのモルモットになる夢見てたんだ!モルモットになったっていうのはヒュー表現抜きで……こまちゃん?」
「はやて…びっくりしたよ、どこに行ったのかと…あと、『比喩表現』でしょ」
エプロン姿のはやてをぎゅーっと抱きしめた。
「私もびっくり!いやぁ…しかもこまちゃんの家にいるなんてね!あ、朝ごはん作ったから一緒に食べよ!」
「はやてのご飯…!なんだか久しぶりな気がする」
「そうだね!…最近、お互いに忙しかったし、でもこまちゃん体調最近そこまで悪くしないから、ご飯作る機会なかったもんね」
「…あれ?はやて、記憶もしかして戻った?」
「ん?」
「昨夜、私と話してたこと…覚えてる?」
「え?私なんか言ってた?!」
「…ううん。…ずっと寝ちゃってたのかも」
「どゆこと?寝言が激しかったってこと?」
「ふふ、そうかも」
「はずかしぃなぁ〜」
———
「やあ、カフェ」
「…、」
「顔を上げておくれよ。さ、早速、君のレポートを聴かせてくれないかい?」
「…、…。…」
「君の恋した人の想い人になった気持ちはどうだった?…一時的なものでも好きな人に想われる、というのは快感だったのかな?」
「…不快…です」
「ほう?…所謂、蛙化現象というやつなのかな?そこのところ、詳しく聴かせてくれないか?」
「…そうではなく、タキオンさんが」
「ええっ?!…なんでだい?君に協力してやったじゃないか…ひどいよぉ、カフェ〜」
「…その点においては、感謝している…と言いました…。今は……放って、おいてください…お願い、ですから…」
「!…カフェ。全く…だから言ったじゃないか『君自身を否定することになる』と。そこで君は『それをもって彼女を諦めたい』と言った。……なあ、泣くなよ、君が決めたことなんだろう?」
「…無理でした、やっぱり…あの人を…私は諦められない……」
「…実験は失敗、ということかな?」
「…」
「むしろ、彼女に対する執着心が高まってしまった、とか?」
「…っ」
「予想はついていたが…」
「…」
「君は追い続けることが得意だろう?…なに、諦める必要はないさ。…追って、追って、追い続けて。…対象が息を切らしたら…トドメを刺すのが君だろう?」
「……」
「君らしいアプローチで行けばいい。…そうだろう?漆黒の幻影くん」
……おしまい。