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    ちまちま書いてたPervisionの体調不良小説

    The Pain of Rain 側頭部を杭で打ち込まれる痛みがする。
    瞼の裏の右上、否、後頭部のずっと奥、1010キロ離れた場所から、雨音が繁く鳴っている。

    雨が降っているようだ。
    ああ、するとこれは気象頭痛か…珍しく酷く痛む。

    鉛のように重い頭を起こして、乾いた口から溜息を吐いてからまた息を吸うと、予想内に空気が湿っていて、なんだか呆れた。それが少し馬鹿馬鹿しく思えて、乾いた笑い声が漏れ出した。

    背中が妙に冷たい気がした。怖気などの暗喩ではなくて、ただ本当に冷たくて、手で肩に触れてみると肩も冷たくなっていた。通常より少し荒い呼吸、冷静さを保とうとする心拍数、どうしてか興奮状態にあるようだ。

    …夢を見ていた。過去の回想を巡るような。

    …愛しき師が、私の創り出した不完全なプロトタイプを愛おしそうに眺めていた。私はそれを見ていた。女性として創生されたプロトタイプと、いかにも雄々しい恩師の手が重なり、恍惚を育んでいる。私の、少し遠くで。
    私は、彼らに目を見張るほど興味は無かったが、それでも目尻にだけは入れたくて、近づいていった。だけど、私が近づけば近づくほど、彼らの状況はあまり良いものとは呼べなくなってしまった。師の手が震え、異常なほど肩が揺すれる。師の目前で横たわったプロトタイプからは、鉄紅とは呼べるか分からない色の液が流れていて、3秒ほど観察するだけで彼女の身体がすっかり冷えているのが分かった。キーンと耳鳴りが聞こえる。だけど数十秒で終わらない。しばらくして、この叫びが私の師の声なのが分かった。
    脳が呆気に取られて、空虚な脳に「Failed」の文字が押された。不完全なプロトタイプが不完全だったことが証明されてしまった、と。しかし師の前で肩を落とすのは気が引けて、私は師のことなど放って残りの仕事に手を付けた。
    …でも何かが引っ掛かって、とても、引っ掛かって、ついに嗚咽を漏らしそうになった。奇妙な咳を幾度繰り返して、いつからか酸素を取り込むのに必死になって、呼吸が小刻みになって、そして意識が付くようになった時には、大きな生命保存装置に█体目の彼女プロトタイプを保存させていた。そこでやっと、自分がグルタミン酸の過剰症反応…つまりは、尋常ではないほど不安に襲われていた。

    …夢から醒めた今、強制的に過去の疑似体験をさせられてなお、その奇妙な不安感の上に立たされているのが、心臓が狼狽えるほどに、不快で、疼痛で、腹立たしく思えた。
    何が悲しくて、未だに「感情」というものを手放せずにいるのだろう?もし捨てることが出来たのなら、自分はもっと賢い選択が出来たように思える。同時に、師を裏切ることもきっと容易だっただろう。
    頭ごなしに「正しいことをしろ」と、「もっと堅実に生きろ」と、そして「狡猾さに献身せよ」と言う声が、後頭部のずっと奥から再生される。憐れんでくだらないと言えば、以下咆哮のように煩わしい怒声を鳴らされる。それが不快に過ぎず、雨天の日、こうして頭痛になるのだ。
    この頭痛も、感情も神経も無くなれば、最初から知ることも無かったし、興味すら持たなかっただろう。そして、馬鹿馬鹿しいあの彼女プロトタイプの█体目を作り出すなどの罪を犯さなかっただろう。

    時に、魔女。愛おしい魔女。
    「パパ……え、顔真っ青だよ?具合でも悪いの?」
    鈴のような声を鳴らしてこっちに来る。白雪姫でもなんでも無い、寧ろ、ウィザードである私に、無垢なリンゴを差し出すかのように。…彼女はその無垢な林檎に毒が塗られていることを知らずに。
    『いい…気にするな。己のことは己が一番理解しているのだから。…』
    「…変な悪い夢でも見たのね。その顔は。」
    彼女はさらにスっと息を吸って、
    「…このアタシは騙せないわパパ。最初のアタシと違って、アタシはパパといる時間のほうがちょっとだけ長いの。分かるわ。」
    彼女の言葉が、紐のような脳の痛覚神経をプツンと一本、裁つ。あからさまに悪夢に情緒を操られている。自分でも痛いくらい感じて、大きく溜息を吐いた。
    痛みと羞恥が作用して、起こしていた身体を横に倒して蹲らせた。
    『…お前の言葉に甘えるのは癪だな。』
    痛い。痛くて、吐き気さえ呼び起こさせる。いよいよ頭を動かすのさえ絞首と同義だ。
    『アセリオが処置室の棚に入っている。スタンドはこっちにあるのを使うから、チューブと針を一緒に…』
    「はいはい、鎮痛剤ね、分かってるわ。取ってくる。」

    ドク、ドク、と心臓の音と同時に痛みの波が立つ。弱った自尊心と共に、心臓にメスを入れたくなる。心臓にメスを入れて、もっと機械的な自己…いや、それを可能にするのは正確にいえば脳や中枢神経……頭の拍動を催促するかのように、誰かの足音が聞こえる。痛い、でも、どこか甘ったるい、ああ、インスラ皮質から視床下部、前帯状、全て除去して、あの人の奴隷になれたら……。


    「…あら、お目覚め?…ちょっとマシになった?」
    どう考えても気絶していた。人形のような顔をした小娘がうつ伏せになっている私の顔を覗き込む。
    『痛みが引いたからね。ありがとう…。』
    「ねえ、パパ。」
    「パパはドクターでもあるのに無理をして体調を崩すのが好きなの?」
    『いや…』
    何かを言いたがっている人形娘を見て、言い訳が口から出てこなかった。生きる人形は眉をひそめて、ふっと息を吐くと、頬を私の手に寄せて、呟く。
    「ねぇ、“あの人”はね?貴方が無理をしていなくても、完璧でなくても貴方のことを受け入れてくれるわ。」
    一瞬、自分の目が重たくなって、まばたきをしたのを彼女は見過ごさず、
    「そう言って欲しかったんでしょ。」
    決して求めていた訳じゃない。自分が自分を追い詰めて、精神状態を上手くコントロールできていなかったのも、分かっていたことだった。だから、正確に言えば、今彼女が言ったことと似通ったこと、なんでもいいから言って欲しかった。…と言えば後付けになるが。
    『…エンブレラ。』
    彼女の本来の名前を呼ぶ。…彼女の、最初の名前だ。彼女はすぐ不機嫌な顔をする。
    「その名前で呼ばないでって言ったでしょ!」

    『     。』

    「良いわ。特別にね。」
    「…私はいつでも、貴方の特別な個体でいるわ。」

    酷く弱ったことを口漏らしたようだった。しかし、それが何だったかは、申し訳ないが覚えていない。…いや、覚えてたとしても、恥ずかしくて言えやしない。

    それは、あの人にも言わない、この生意気な娘だけに言えることだったことは、確かだ。
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