Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    horizon1222

    @horizon1222

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 34

    horizon1222

    ☆quiet follow

    モブ女は見た!!新婚さんなあのヒーロー達!!
    という感じの(どんな感じ?)薄~いカプ未満の話です。一応キスディノ

    ディノにお迎えにきてほしくなって書いたよろよろとモノレールに乗り込み、座席に座ったところで私はようやく一息をついた。
    月末。金曜日。トドメに怒涛の繁忙期。しかしなんとか積み上がった仕事にケリをつけられた。明日の休みはもう何がなんでも絶対に昼まで寝るぞ、そんな意識で最後の力を振り絞りなんとか帰路についている。
    (あ~色々溜まってる……)
    スマホのディスプレイに表示されているメッセージアプリの通知を機械的に開いてチェックし、しかし私の指はメッセージの返信ボタンではなくSNSのアイコンをタップしていた。エリオス∞チャンネル、HELIOSに所属のヒーロー達が発信している投稿を追う。
    (しばらく見てなかったうちに、投稿増えてるな~)
    推しという程明確に誰かを応援しているわけでないし、それほど熱心に追っているわけではない。それでも強いて言うなら、ウエストセクター担当の研修チーム箱推し。イエローウエストは学生の頃しょっちゅう遊びに行っていた街だからという、浅い身内贔屓だ。ウエストセクターのメンター二人は私と同い年で、ヒーローとしてデビューした頃から見知っていたからなんとなく親近感があった。
    研修チームの何気ない日常、企業とのタイアップ、次のLOMの告知……ひとつずつじっくりと読み込む気力がないので、指でスクロールしながら表面をなぞっていく。流れ込んでくる情報の断片と、体に蓄積した疲労が私を眠りに誘った。

    「次は━━、次は……」
    車内に響き渡るアナウンスに、私は慌てて顔をあげた。しまった。すっかり居眠りしてしまった。
    キョロキョロと左右を見回し、車内の電光掲示板に流れていく次の到着駅が、自宅の最寄りの一つ前で、寝過ごしてはいないことにほっと胸を撫で下ろす。よかった。まだ終電まで時間はあるけど面倒は避けたい。
    車内の広告をぼんやりと眺めていると、到着した駅から乗り込んできた客が私の斜め前に立った。正確には、私の座っている座席の端から伸びている支柱の前を陣取る形だ。随分背の高い人だな、そう思ってなんの気なしにその人に目を向けて、私の息は一瞬止まった。
    「キッ……」
    ポケットからスマホを取り出しているのは、さっきまで眺めていたエリオス∞チャンネルに載っていたキース・マックス、正にその人だった。
    (本物だ……こんな近くで初めて見た)
    ニューミリオンで暮らしていれば、ヒーローに会うのはさほど珍しいことではない。よくパトロールで街中を歩いているのを遠目に見かけるし、イベントに行けば握手したり直接話すこともできる。けれど私は精々学生の頃にLOMを何度か見に行ったことがある程度で、こんなに接近したのは初めてだった。
    (脚なっが……股下エリオスタワーか?)
    スタイルの良さに見惚れてふざけたことを考えながら、しみじみとその姿を観察してしまう。
    (しかも……)
    明らかに、今の彼はオフだった。私服で、部屋着ではないけどどこか緩さのある服装だ。キース・マックスなるヒーローは、そもそもがシャキッと背筋を伸ばしているようなタイプではないのだけど、(そのダウナーでクールな言動が大人の落ち着きがあってかっこいい!という声を聞く)けれど、今のこれは本当にヒーローという仕事から解放された自然体という雰囲気だった。
    思わず眺めていると、こちらに気づいたのか彼は長い前髪の奥からちらりと視線を寄越した。慌てて焦点をずらす。いえ、私はあなたの後ろに掲示してある広告を見ているだけです。そんな風を装う。
    (いくら有名人だからって、ジロジロ見られたら気分良くないよね)
    その時、ちょうどアナウンスが響いた。次の駅━━私の自宅の最寄りにもうすぐ到着するという報せだ。名残惜しい気持ちになりながら席を立とうとすると、
    (えっ嘘)
    なんと、かのヒーローは同じタイミングで扉の方へ向かったのだ。まさかと動揺しているうちに、あれよあれよと駅に到着し、気づけば私は彼に続く形で改札へ向かう階段を登っていた。
    (この辺に住んでるとか?)
    今のアパートに住んで二年くらいになるが、まさか近所にヒーローが住んでいるとは露ほども知らなかった。
    (いや、住んでるとは限らないか?)
    単純に何か用事があるのかもしれない。しかしこの辺りは住宅街ばかりで、便利なお店や遊ぶようなところもないし、どちらかというと少し離れた街のベッドタウンという印象の地域だ。改札を抜けて、少し距離をとったまま前を行くキース・マックスのくせっ毛を眺めながらとりとめなく考える。
    一緒に降りた乗客が散り散りにそれぞれの目的地へ向かう、あるいは帰る中、私はぼんやりと彼の後ろ姿を見ながら歩いていた。その時だった。
    「キース!」
    (は?)
    街路樹の脇のベンチに腰掛けていた人物が、声をあげたと同時に立ち上がった。
    (ディ……ディノ・アルバーニ)
    街灯がぼんやりと淡い色の髪を照らし出す。駆け寄ってきた青年は、キース・マックスと同じチームのディノ・アルバーニだった。見間違えようもない、こちらもさっきエリオス∞チャンネルでみたばかりだ。
    「お疲れ様!遅かったな」
    「来なくてもいいって言っただろ~」
    キースの側へ来たディノは、こちらもラフな服装で、部屋着のように見えた。腕に小さな犬を抱えている。駅に迎えに来たついでに少し犬の散歩に出た、そんな雰囲気だった。
    「もうこんな時間だし出歩くなよ。この辺あんま人通りないし」
    「それならキースだって一人で出歩くの危ないだろ」
    「オレはいいの」
    キースが近づくと、ディノが腕に抱いていた犬がにわかに暴れだし、わっ、というディノの声と共に犬はキースへ飛びついた。キースのわかったって、という声にはしゃぐ犬の気配がする。
    (えっ……え?ええ~)
    聞いてない。どういうこと??何?
    ディノはキースを迎えに来た?そもそも研修チームに所属のヒーローはエリオスタワーで共同生活をしているはず。二人でこれからエリオスタワーに戻るんだろうか?いやでもディノの格好は明らかにこれから外出するような服装ではない。
    (もしかして)
    もはや視線を隠すこともせずガン見してしまう。二人は話しながら曲がり角を曲がり、あっという間に私の視界から消えてしまった。
    私は思わず歩みを止める。
    (もしかして、あの二人って一緒に住んでる?)
    同居、あるいはルームシェア。20代の若者なら珍しくもない。けれども。
    (仕事で一緒に住んでるのに、プライベートでも一緒に住んでるってことは)
    まさか、まさか二人は特別な関係なのだろうか。考えれば、彼らの距離は妙に近かった。学生時代からの同期と聞いているし、元々仲は良いのだろうが、それでも一緒に住むなんて。
    脳裏に、さっき目前で繰り広げられたキースの帰りを迎えるディノの弾んだ声とそれに応える優しげなやりとりが蘇る。
    (ああ、気になる~~っ!)
    しかしここまでは単なる偶然の範疇だが、この曲がり角を曲がって彼らを追いかけでもしたら、それは行き過ぎというものだ。
    パパラッチでもない、熱狂的なファンでもない、ただ単に、この場で居合わせた私がそこまでする理由はない。そう言い聞かせて、私は家へと歩みを進めた。
    しかし、次また駅でも会ったりしたらどんな顔をすればいいのか。恋人関係(?)の彼らの色々な姿を想像したところで私は我に返った。どんな顔って、一般市民の顔だ。彼らにとって私はそれ以上でもそれ以下でもない。



    「そんで、どんなもんよドッグトレーナーの仕事ってのは」
    キースは隣を歩くディノに話しかけた。彼の隣には小さい歩幅でせかせかと歩く犬がいる。妙にキースのことを気に入ってるらしい犬は、歩きながらチラチラとこちらへ視線を寄越してくるが、キースはあえてそれに気づかないふりをしている。
    「俺はまだ専門的なことはしてないから、普通のペットのお世話とそう変わらないかな。散歩したりご飯をあげたり」
    でも明日からビリーくんも合流するから、色々本格的なことを教えてもらう予定だぞ!
    何が嬉しいのか得意げにしてみせるディノに、犬が犬をしつけるのか?とキースは喉まで出かかった言葉をこらえた。
    「まあ、あんま無理すんなよ。ただでさえ急に決まった仕事なんだし」
    たまたまオフに一人で遠出したディノが、道に倒れているお年寄りとそれを囲んでいる犬達を見つけたのが事の発端だった。老人はドッグトレーナーで、そこにたまたま居合わせたパトロール中のビリーが病院へついていった話のついでに仕事を頼まれたということだった。
    「あのおじいさん、腰を打ったくらいでなんともなかったんだけど必死の形相で頼まれたから断れなかったし」
    息子さん一人には任せられないって言うから来たけど、その息子さんも親父には歳のこと考えて貰わないと困るって苦い顔してたんだよな、と話すディノの顔は少しだけ曇っていた。依頼主の家族関係に若干暗雲が見えるところに不安を感じているらしい。祖父母思いなディノらしい反応だった。
    「そういうところもできれば力になりたいんだけど……部外者が事情を知らないのに口を出すのも迷惑かなって」
    考え込むような顔をしたディノは、おもむろにキースの方を振り返った。
    「ごめんな。俺、チームにも色々迷惑かけてるよな。キースにも、こうやって色々フォローしてもらって……」
    いつも元気な眉尻が下がっている。なんとなく、シュンと垂れ下がった犬耳が見えたような気がしたのは、本物の犬を連れているからだろうか。
    「気にすんなって。どっちの話も今更だろ」
    そこまで気にかけてるなら、お前の気が済むまで付き合ってやれよ。そう言って、背中をポンと叩く。
    「オレが今日来てるのはまあ……ついでみたいなもんだし」
    キースが今日来たのは、とるものもとりあえずタワーを離れてしまったディノに色んなものを手渡しにきたのだ。今は概ねデータでやりとりできるが、慌てて出ていったこともあって忘れていったものも多かった。ディノがお世話になっている家はちょうどタワーとキースが借りている部屋の途中にあるので、今日はディノの忘れ物を届けついでに家に戻ることにしたのだった。
    しかしキースに言わせればそれはついでだ。ディノの顔が見たかった、というのが正確なところ。
    そんなキースの胸中はいざしらず、ディノはありがと、笑った。
    「へへ、なんかこういうのも新鮮でいいなって思っちゃった」
    「こういうのって?」
    一歩先を行くディノが振り返る。
    「キースが仕事から帰ってきて、俺がそれを迎えに行って、一緒に帰る、なんかこう、家族みたいな!」
    「今から別々の家に帰るわけだけどな」
    それはそうだけど!と笑うディノの後をキースは追いかけた。傍らの犬が短い足でディノと並走している。いつか、そんな時が来たら犬を飼うのもいいかもしれないな。そんな風に思えた、休日前のの夜だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖☺🙏🙏💯🐶💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    horizon1222

    DONEモブ女は見た!!新婚さんなあのヒーロー達!!
    という感じの(どんな感じ?)薄~いカプ未満の話です。一応キスディノ
    ディノにお迎えにきてほしくなって書いたよろよろとモノレールに乗り込み、座席に座ったところで私はようやく一息をついた。
    月末。金曜日。トドメに怒涛の繁忙期。しかしなんとか積み上がった仕事にケリをつけられた。明日の休みはもう何がなんでも絶対に昼まで寝るぞ、そんな意識で最後の力を振り絞りなんとか帰路についている。
    (あ~色々溜まってる……)
    スマホのディスプレイに表示されているメッセージアプリの通知を機械的に開いてチェックし、しかし私の指はメッセージの返信ボタンではなくSNSのアイコンをタップしていた。エリオス∞チャンネル、HELIOSに所属のヒーロー達が発信している投稿を追う。
    (しばらく見てなかったうちに、投稿増えてるな~)
    推しという程明確に誰かを応援しているわけでないし、それほど熱心に追っているわけではない。それでも強いて言うなら、ウエストセクター担当の研修チーム箱推し。イエローウエストは学生の頃しょっちゅう遊びに行っていた街だからという、浅い身内贔屓だ。ウエストセクターのメンター二人は私と同い年で、ヒーローとしてデビューした頃から見知っていたからなんとなく親近感があった。
    4426

    recommended works