FY/VD「せんぱーい!」
『今巷で、というよりある界隈で某ゲームが流行っているらしい』との噂を聞きつけた副都心は、ご丁寧に小さな箱から中身を一本だけ取り出し、満面の笑みで有楽町の方をまっすぐ見つめている。
「先輩、ポッキーゲームしましょう」
実際にはその言葉が発せられることはなく、瞬く間に副都心の視界は、見慣れているその金髪で遮られる。
咄嗟の出来事に何が起こっているのかわからず動くことができないでいる副都心のことはお構い無しに、有楽町は少しだけ背伸びをして副都心の頬に口づけをした――
「……あ、えっと」副都心は一瞬目をぎゅっと瞑ってみる。そしておずおずと目を開けてみると、有楽町の後ろ姿が見えた。
「ま、待ってください」
「ポッキーゲームはやらないぞ」
思わず有楽町の腕を掴む副都心に、有楽町はしぶしぶというような顔で振り返る。
「いえ、ポッキーゲームも大事ですけど…それよりさっきのあれは……」
「別に、何でもないよ」
「何でもないってそんな……でも、あの……」
どうにかして引き止めたい副都心のことは気にも留めない様子で、
「仕事もどるから」と、有楽町はただ一言だけを残し、気怠そうに手をひらひらとさせながらその場を後にした。
(先輩……どうしてキスしたんですか? 僕からするとめちゃくちゃ怒るくせに……)