神の愛し子 天に近い山を超えたその先、ひっそりと存在している小さな村――その名を、天行村という。天に通じる道を行くとして、その名がついたとされている、険しい山で囲まれた盆地にひっそりと存在している村だ。けれど、地図には載らず、また訪れる人もいない。だが、ここには確かに人々が暮らし、古くから続く小さな神社が村の最奥に位置する神山の中腹に鎮座していた。
その神社の境内に、ひとりの少女がいる。年の頃は三つ。足元が多少おぼつかないながらも、笑顔だけは無垢な天使のようだった。今日はお参りに来た祖母の目を盗み、ひとりで社裏の林までやってきてしまったのだ。
――静かな昼下がり。ふくふくとした小さな手が、足元に咲いたタンポポを摘もうとした、その時だった。
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