でーと日和でーと日和
放課後の教室
「これより桜君と杉下くんのデート大作戦をはじめます」
「頑張ります!」
「オッケー」
「気合いいれるでぇ」
「お前ら楽しんでんだろ!」
教室の端から桜の怒号が響く
「おやおや、恋人らしいデートってなにしたらいいって聞いたのは桜君じゃないか」
「ゔっ」
「ほら杉下君もそっぽ向かないで、2人の話なんだから」
「ちっ」
教室の中央に蘇枋、楡井、桐生、柘植
端っこの方に真っ赤な顔をした桜とげんなりしたな顔した杉下が居た
3週間前
「杉下が好きだ」
俺はクラスメイトで喧嘩の相棒である杉下に誰もいない屋上で告白した
何か好きになるきっかけがあったわけではない
融通がきかなくて梅宮信者で俺が崩れそうになると真っ先に殴りに来るムカつくやつ
好きになる所なんてないはずなのに教室で寝ている杉下のつむじをふと見た時に"あっ、俺こいつの事が好きなんだな"と恋愛感情に気付いた
気付いたらもう好きの感情が限界まで溢れてしまった
このままでは変な事を口走ってしまうかもしれない、その前に壊して捨ててしまおう
その為の告白だった
普段から喧嘩ばかりの相手だ…
いつもみたいに馬鹿にされるか、それとも軽蔑の眼差しを向けられるか…
桜は目を閉じて恋心が壊されるのを待った
「俺も」
「は?」
「俺も…すき…」
か細い声で顔を真っ赤にした杉下に返された時は心臓が飛び出るかと思った
「は?お前俺が好きなのか?」
「告白してきたのはお前だろうが」
「そうか…」
桜の望みは見事打ち砕かれ
桜と杉下はめでたく喧嘩の相棒兼"恋人"になった
普通ならここでハッピーエンドの話だが
1つ問題が発生した
色気より喧嘩な2人には"恋人"らしい事が分からなかったのだ
振られるとばかり考えてたから想いが受け止められた後の事など考えてなかった
恋愛経験皆無な2人に普通の恋人が何をするのかなどわかる訳もなく
「デッデートって何すんだ…」
「…俺が知る訳ねぇだろ」
とりあえず一緒に近所をぶらついたりしてみたがいまいち"恋人"っぽくならない
てゆーか何なんだよ恋人っぽいって!!
桜は自分の思考に悶え狂う
考えても考えても埒があかないので恥をしのんで楡井に相談する事にした
蘇枋は絶対茶化してくるだろうから楡井だけの時を狙って相談したのに秒で蘇枋にバレた
「へー、俺には相談してくれないんだ」
「うっ」
「寂しいなぁ」
「うっ」
「ねぇ、さ、く、ら、君?」
笑顔の蘇枋の圧が凄く、桜はやむをえず口を割った
気がついたら桐生と柘植も参加して冒頭に至る
どんどん広がっていく話に桜と杉下は羞恥で死にそうになっていた
「王道でいえばショッピングとかですかね?」
「トレーニングで一緒に汗流すんはどうや!」
「トレーニングはデートっぽくないけどスポッチャとかならいいんじゃない?」
「まぁまぁ、素朴にお互いの好きな所に行くとかででいいんじゃない?そんな気負わなくてもさ」
蘇枋の言葉に桜は口を尖らせてどもる
「…た」
「へ?」
「だからもう行ったんだよ!でもいつも通り過ぎてデッデートっぽくないっつーか」
「どこ行ったのぉ?」
「商店街」
「屋上」
「わー君らの活動範囲の狭さナメてたなぁ」
「すっ蘇枋さんそんなストレートに」
「デーっトつうか…見回りみたいになるんだよ、いつもの延長っつーか…」
教室の隅で今度は青くなる桜とむっすりして黙っている杉下が居た
「要するに桜ちゃんはせっかくのデートならもっと"恋人"っぽい事がしたいと」
「お…ま…こい…びっって」
「あ…だ…が」
桐生のその一言に2人は口をパクパクさせる
あはは、陸に上がった魚みたいだよ2人共
うーんと楡井が考え込む仕草をする
「どうしたのにれくん?」
「あの…それなら1つ提案があるのですが」
「何?」
楡井が蘇枋にだけ聞こえるように耳うちする
「ごにょごにょ」
「うん...うん...」
「どうでしょう?」
「とってもいいと思うよ!」
「本当ですか!」
「何何〜?」
「なんやなんや?」
楡井は桐生と柘植にも耳うちをした
「いいじゃんそれ〜」
「ええやん、わいも大賛成やわ!」
わいわい騒ぐ4人に桜は声をかける
「何なんだ?」
「あっ!桜くん」
「何だよ?」
ずいずいと蘇枋が近寄ってきた
「ちょっと作戦会議するから2人は出て行って」
「はぁ!?」
背中を押されて教室から追い出される
ぱんっとドアが閉まる
突然締め出された疎外感に胸がきゅっとする
「何なんだよ突然…」
杉下はため息をつくと置いてかれた子供みたいな顔をする桜の頭をくしゃくしゃにかき混ぜた
「てめ!何しやがる!」
「はっ、しけたツラしてんじゃねーよ」
「あぁ"!」
「どうせお前の事話してんだろ」
「わかってるよ…お前に言われなくてもそれ位…」
冷たくなった心が暖かくなっていく感じがする
杉下は再び桜の頭をくしゃっとするが今度はどことなく丁寧だった
大きな手が心地いい
いつもの桜に戻ったのを確認した杉下は手をひっこめた
頭から離れていく手に桜は無意識に杉下の袖口を掴んでいた
「何だ」
「あ…いや…」
桜は羞恥のあまり下を向く
上から杉下が動く気配がする
暖かくなった心は暖かいを通り越してマグマの様に熱くなっていた
杉下の指が桜の頬を撫でる
「あ…」
ゆっくりと桜は顔を上げる…
「はーい!イチャイチャしてる所ごめんねー!」
「わーー!」
スパーンといきおいよく蘇枋達が扉を開く
桜はわたわたとパニックになり杉下は固まっていた
「デートの日程だけど、いつがいい?」
4人がにんまりと笑みを浮かべている
「何なんだいったい!?」
「!?」
桜と杉下はハテナマークを頭に巡らせた
AM10:10
「遅いなあいつ」
デート当日だが杉下が来ない
待ち合わせは10時の予定だが駅の時計を見るともう10分も過ぎている
連絡しても返ってこないしなんかあったか?
その時遠くからヒィッと声が聞こえた
よく見ると通行人からビビられてる鬼の形相の杉下だった
「おせぇよ、バーカ」
「寝坊した」
「ったく、連絡したら出ろよ心配するだろ」
「んっ」
桜は袖口で汗だくの杉下の額を拭った
走ってて桜の連絡に気付かなかったのだろう
「つったく行くぞ」
電車に揺られながら隣町に向かう
日曜日の電車は閑散としていた
「寝坊して遅刻するとか遠足前のガキかよテメーは」
「……」
いつもの様に怒り狂うかと思ったが予想外に杉下は静かだった
顔はこちらから背けているが髪からのぞく耳が赤い
「図星かよ」
「うるせぇ」
こいつも今日を楽しみにしてくれていたんだなと思うと気分が高揚する
ぐらっと電車がカーブで揺れた
「うぉ!」
「!」
ドンっと頭上から衝撃音がする
前を見ると壁側に座っていた桜は杉下に壁ドンされている状態になっていた
「…」
「…」
お互いビックリして固まる
《〇〇駅〜次は〇〇駅〜》
アナウンスで桜はハッと立ち上がる
「ここだ降りるぞ」
「おぅ」
さっきの壁ドンでお互い変に意識してしまい
駅から出るまで2人は無言で歩いた
外に出るとずいぶん賑わっている
何かイベントでもあるのか…
桜はポケットに入れた袋から手紙の封筒を取り出す
「何だそれ」
杉下が疑問を問いかける
桜はペラりと①〇〇森林公園と書かれた手紙を取り出した
『俺達4人で桜君達のデート計画を立てたんだ』
『封筒に順番と行き先が書いてあるので順番に向かって下さい』
『着いたら手紙を開けて書いてある事をして出来たらまた次の番号の封筒を開けて書いてある事してねぇ』
『1人1枚ずつ書いたから楽しみにしててな!』
「だとよ」
「へぇ」
封を開け中を確認する
「これは…」
『華麗なドロップキックが決まったー!」
わーっと老若男女いろんな人が歓声を上げていた
屋外の広場でリングが立てられて誰でも見れるプロレスイベントが行われていた
1枚目の内容はプロレス鑑賞だった
「柘植だな」
「だろうな」
デートと言えばデートなのだろうかこれは?
いやでもデートで映画観に行くとか聞いた事あるし、それと同じか?
手紙には屋台のたこ焼きが絶品だと書いてあったので設置されたパイプ椅子で食べながら見る事にした
デートっぽいかは微妙だがまあいいか…
《決まったージャーマンスープレックスだー!これは痛いー!》
「!!」
《△選手のローリングセントーン決まったー!×選手もう限界か!いや立ちかがったー》
想像以上に激しい肉弾戦が行われる
「おぉ!!」
「!!」
気がついたら桜と杉下は前のめりで試合観戦していた。
《〇〇選手のドロップキックだ!決まったー!》
おぉぉぉ!!!
カンカンカンとベルの音が流れ試合は終わる
桜も杉下も血の気の多い男なので目の前のアクロバティックな技達に拍手を送った
《以上で本公演は終了です、本日はありがとうございました〜》
プロレスが終わってもまだ別のイベントは続くらしく
2人は人の流れに逆らって会場を出た
「凄かったな」
「おう」
「お前ならアレ出来るんじゃねーの?肩にかついでぐるぐるするやつ」
「お前には無理だな、チビだから」
「何だとテメー、やってやるぞ」
「お前だったらアレだろ、あのロープから飛んでぐるっとするやつ」
「あれもすごかったな」
最初はデートっぽくなくて大丈夫かと思ったが朝のギクシャクした雰囲気は完全になくなっていつもの調子に戻っていた
PM13:32
話している内に2枚目の封筒に書かれた場所につく
場所はデパートの中の開けた場所にあるゲームセンターだった
「プリクラ?を撮ってこいって書いてあるんだが」
杉下の方を見ると全力で顔を背けている姿が見えた
「何だよ、プリクラ?そんなやばいやつなのか」
「知らないのかお前…」
杉下が指を示す方を見る
「女子供が撮る写真みたいなもんだ」
はーと杉下はため息を吐く
「何だただの写真かよ」
「…」
「さっさと撮ろーぜ」
杉下はぶすくれた顔をしている、そんなに俺と撮るの嫌かよ…
数分後俺は杉下の真意を一瞬で理解する事になる
機械に小銭を入れると明るい女の音声案内が聞こえて色々選択させられた
「これ何を選べばいいんだ?」
「全部普通でいいだろ」
「そうだな」
不機嫌そうな杉下を横目で見る
さっきまで機嫌良かったのに
手紙の文体から桐生だと思うが、これ失敗したんじゃねーか
《撮影モードに入るよ〜モニターの上のカメラを見て〜》
「あそこのカメラでいいのか?」
「…」
「おい、無視すんな《じゃあぎゅ〜ってハグして〜、はいポーズ!》
カシャと音がなる
その言葉に桜は固まった
液晶画面には呆けた桜の顔と不機嫌そうな杉下の顔が映っていた
待て待て待て!!!
ハグって言ったか!?ハグって密着するあれだよな!こんな場所で!?
杉下が不機嫌な意図に気づき真っ赤になる桜
「っち」
舌打ちをした杉下は外にに出ようとする
「おい!」
「やってられるか!こんな事!」
しきりのカーテンに手をかける
さっきまで楽しい雰囲気だったのに!
『部活の仲間でプリクラ撮りたいって女子かよ』
『青春って感じするじゃーん!』
隣から男子中学生位の集団がプリクラ機の前で話してる声がする
流石にこの状態では外に出にくく、杉下も一旦出入り口のシートの前で止まった
『よかったよなぁ、ここ男だけでもプリクラ撮れて』
『盗撮とか痴漢もあるから普通のゲーセンじゃ男だけで撮れないもんな』
『こんな警備員も居る開けた場所でそんな事するやついたらただの馬鹿だろ』
『わざわざ隣町まで来てやったんだから感謝しろよ』
『ありがとー』
そういえばゲーセンならわざわざこんなデパートの中じゃなくても道中にたくさんあったな
なのにわざわざここを指定したのは桜達が恥をかかない様にしてくれたのだろう
恋人と言っても同性だ、外で出来ることは限られてる
元はといえば桜が恋人っぽいデートがしたいと相談した事が始まりな訳で、桐生は充分桜の事を考えてくれていた
でも当の杉下が嫌だというなら桜に止める権利はない
「杉下…」
もうやめとくかと声をかけようとした時
2回目のシャッター音が個室の中で鳴り響く
その音を聞きながら桜は少し寂しい気持ちになった
「クソが!」
杉下の悪態が飛ぶ、やっぱ嫌だよなと思った時
首元を掴まれ無理やりカメラの前に連れて行かれる
「やればいいんだろ!やれば!」
「は!?おい杉下!」
カシャ
杉下の手が体にまわされ抱きしめあってる様な状態になる
「杉下、お前」
《次はアップの撮影だよー♪近づいてギュッとしよう!》
「やんぞ!」
ぐいっと杉下の顔が近づく
「うわぁ!」
あまりの近さにビックリする
「ほら、やるんだろ」
杉下は画面の例にあるピースのポーズをを指差す
桜もそれに習って同じ様にぎこちないピースをした
はーはーと2人の息が上がる
写真を撮るだけなのに喧嘩した時より疲れる
《じゃあ最後は2人でラブラブのポーズ!
はぁ!?》
ラブラブ!?ラブラブって何だよ!!
画面に映し出される例は女性2人だが余りにも距離が近い
これを!俺たちでするのか!?
「〜〜〜ほら!やんぞ」
杉下を見ると完璧に喧嘩の時の形相である、並の不良なら一目散に逃げていくだろう
「いや、でもどうすりゃいいんだよ!?」
「俺が知るか!!いいからやんぞおら!!」
杉下ももう自分でもよくわからない感じになっているのだろう
「ぷっ」
「何笑ってんだてめぇ!」
杉下が笑う桜の胸ぐらを掴み揺さぶる
「いや、だってお前その顔写真撮る顔じゃねぇだろ」
「あぁ”!!!誰のためにこんな…」
カシャ
あっ…
《もう一回撮り直しが出来》ガチャ!
音声の途中でNOのボタンを押す
俺も杉下も限界だった、1秒でも早くここから出たい
《お疲れ様〜次は裏に回ってラクガキタイムだよ〜》
「まだあんのかよ!!」
小さなラクガキスペースに入り桜は頭を悩ませる
「ラクガキって何を書くんだよ…」
「知らねぇよ、お前なんてアホで充分だろ」
「あぁ!?じゃあてめぇはバカな!バカ!」
そんな事を言ってる間にラクガキの時間は終わってプリクラの写真が出てきた
次の場所に向かう為2人はゲーセンを後にする
「これどうする?切って分けるか?」
出てきたプリクラを桜が杉下に見せる
「俺はいい、お前が持ってろ」
こちらに目を向けず杉下はそう告げた
やっぱり嫌だったか、そうだよなこいつは最初から嫌そうだったし
杉下は桜の方を見て深いため息をついた
「はー」
「何だよ」
「俺はさっきデータ送ったから紙はいらねぇ」
「!いつそんなんしたんだよ」
「お前ラクガキが終わったらさっさと出て行ってただろう、その時だよ」
「お前もすぐ出てきてただろ」
「QRコードだから一瞬だった」
ほらっとスマホの画面を見せられるとそこにはさっき撮った画像があった
こいつも俺との写真が欲しいって思ってくれたって事か…
「あとで…それ俺にも送れ」
「あとでな…」
むず痒い空気が流れる
「そういえばお前やけにプリクラに詳しいな」
「前に椿野さんに連れられてきたんだよ、あの時は梅宮さん達もいて俺は端っこにいるだけで良かった」
「ふーん」
桜は先ほど撮ったプリクラを見ながらある事に気付く
「別に言われたポーズわざわざしなくても良かったんじゃねーか?」
「…」
そう言われた杉下はピタッと固まりそのまま膝から崩れ落ちる
「おい、杉下!?」
「ちょっと…黙ってろ」
そう言った杉下は気付きたくなかったものに気付いてしまった!というような顔をしていた
「お前も大概アホだよな」
「うるせぇ」
PM15;40
着いたのは喫茶店だった
席ごとにしきりで区切られていて落ち着く店内だった
「これは蘇枋か」
「げっ!」
「お前蘇枋苦手だよな、胡散臭い所もあるけどいいやつだぞ」
「ふん」
昼間は屋台のたこ焼きだけだったのでいい位に腹が空いている
喫茶店って事は食い物系の指示か?
席に着いた桜は手紙を広げると絶句した
「何だ…」
明らかに様子のおかしい桜を杉下は不審に思い声をかける
桜は無言で手紙を杉下に渡す
杉下もその手紙を読むと桜と同じ様に無言になった
「いいやつってさっきの言葉取り消したくなってきた」
「…」
杉下と桜は頭を抱えて下を向いた
「こちらは2人のラブラブドリンクになります!ごゆっくりどうぞ〜🎵」
可愛らしいウェイトレスの制服を着た店員が置いて行ったのは大きなコップにいちごミルク、フルーツやクリームがトッピングされている甘そうな普通のドリンクだった
…ハート型で二股に分かれたストローが一本ついていなければ
手紙にはラブラブドリンクを注文して2人で飲んだ写真を見せてねと書いてあった
「あんのやろぉぉぉ!」
「はー、空のコップの写真送ればいいだろ」
「飲んだ写真を送れって書いてるぞ」
「"飲んでる‘’写真とは書いてないだろうが」
「おぉ」
やけに頭がキレるなと思ったが先ほどのプリクラがよほどきてるみたいだ
一刻も早くこの“ラブラブドリンク”をどうにかしたいのだろう
「じゃあ俺が先に飲むな」
「んっ」
杉下は他の物を注文する為喫茶店のメニューを見る
ずずっと桜はストローを吸う
「うま!下に苺がすげぇ入ってる!あとなんかムニムニしたやつ」
「何だそれ…」
「お前も飲んでみろよ」
反対側のストローから杉下も飲む
「まぁ……悪くないな」
「だろ!」
もう一口飲もうと桜はストローに口をつける
だがまだ杉下が飲んでる途中だったので図らずしもラブラブドリンクの意図通りの構図になってしまう
「うっ、うわぁ!」
杉下との距離の近さにビックリして勢いよく席を立つ
しきりがあってわからなかったが結構賑わってる様でいきなり大声を出した桜に視線が集まる
「叫ぶな、店ん中だぞ」
まずいと思いすぐ席に座り直した
何もなかったかと判断した喫茶店の利用客はまた各々の会話に戻っていった
「はしゃぐな、ガキかよ」
「ガキじゃねぇ、同い年だろうが!」
さっきは近くてビックリしたが…
あれってカップルが飲む物だよな、っと事はあの距離が恋人同士なら普通って事なのか…
杉下の方を見ると下を向いて再びメニューを見ていた
まつ毛が顔に影を落としている
恋人同士は抱きしめあったりキスしたりするんだよな…
“俺“と“杉下“も
「何だその顔」
「は?」
「真っ赤だぞお前」
桜は誰が見てもわかる程真っ赤になっていた
「おっ俺ちょっとトイレ行ってくる!」
「おい!」
「何でもいいから俺の分も注文しといてくれ」
小走りでトイレに駆け込んだ桜はすぐに洗面台で顔を洗った
馬鹿か俺は…デートだってまともに出来ないのに、その先なんか…
「…顔が熱い」
落ち着いてから戻ると杉下はまだメニューを見ていた
「まだ注文してないのかよ」
「体調悪いのか?」
「別に…さっきの事思い出してただけ」
「何だただのむっつりか」
「誰がむっつりだゴルァ」
「お待たせいたしましたオムライスのお客様」
「こっちで」
注文してた物が届いた様で杉下が桜の方に指を向ける
何だこいつ注文してたんじゃねーか、暇つぶしにメニュー見てただけか?
「注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい、あと団子の盛り合わせセット1つ追加で」
「かしこまりました」
こいつでも店員に丁寧に喋ったりできるんだな
そういえば先輩や商店街の人には無愛想だけどそこまで不躾な態度じゃないな
……ん?
何でこいつ自分の注文後でしたんだ、一緒にしたら良かっただろ
余りにも自然な流れで見落としそうになったがこいつもしかして俺に気を遣ったのか?
お前今決めましたみたいな顔してたがさっきからずっと同じページ見てただろ
俺が体調崩したんじゃないかと思って?
俺が食べられなかったら自分がオムライス食べて俺に別の物用意するつもりだったって事か?
わざわざ自分の好物じゃなくて俺の好物を頼んで?
俺が何でもいいから頼んどけって言ったからか…
いやいや、俺の思い過ごしか
ちらっと杉下の方を見ると目が合ってすぐそらされる
あーもうちらちらこっち見てくんな!大丈夫だから!
本当にこいつはもう
「好き」
ぽろっと口から言葉がこぼれてしまいすぐ取り繕う
「おっオムライスがな!オムライス!」
やばい、流石の杉下でもこれは…
恐る恐る杉下の方を見ると頬を赤く染めてこちらを見ていた
「黙って食えよ、マジのガキか」
「はぁ!?」
会話の中身はいつもの憎まれ口だがお互い声が上擦って明らかにおかしい事になっていた
そうこいしている間に杉下が注文した物も届いてもくもくと食べ進める
美味いはずなのに味が全然頭に入ってこなかった…
PM17;30
喫茶店を出て最後の封筒を見ると場所は風鈴の方だった
電車から降りて慣れ親しんだ町に戻ってくる
「あーやっぱこっちのが落ち着くわ」
杉下も同じ様で伸びをして体をほぐしていた
「外も楽しいけどたまにでいいな」
「んっ」
多少は緊張していたのだろう、素直に返事が返ってくる
この前までここも自分にとっては外の場所だったはずなのにおかしな話だ
「最後は楡井だな」
封に書いてある住所を確認しようとする
「しつこいってば離して!」
「いいじゃんちょっと話そうよ〜」
女の叫び声が聞こえ声の方を見ると女1人に複数の男達が迫っていた
「あんまり嫌々言うと痛い目に合わせちゃぶへっ!」
男がふっ飛ぶ
桜の強烈な蹴りが男に直撃する
「痛い目に合わせるだって?はっ!」
「何しやがる!」
男達が一斉に桜に突撃するが杉下に頭を掴まれそのまま地面に叩きつけられる
「寝言は寝てから言えクソが…」
「はっ!俺1人でも余裕だから、突っ立っててよかったんだぜ」
「ほざけ」
杉下は髪をかきあげて桜を睨む
「何だてめぇ!」
「風鈴高校1年級長桜遥だ!」
「風鈴って制服着てねぇじゃねぇか!」
「うるせぇ!休みの日にまで湧いてんじゃねーよ!」
そのまま杉下とナンパ野郎供を薙ぎ払う
「クソ!逃げるぞ!」
男達は大半を倒した所で逃げて行った
「ふん!」
「ありがとうございました」
「きっ気にすんな、暗くならない内に帰れよ」
「はい」
女性を帰してから気付いたが空がもう真っ暗になっていた
町に戻ってきた時はまだ明るかったのに
せっかくあいつが考えてくれたのに無駄になっちまったな
手紙に何が書いてあるかわからないがもう店は大体閉まってしまっているし、今から行ける所なんてどこにも…
暗い顔をする桜はばっと杉下に手紙をひったくられる
「なっ何しやがる!」
「うるせぇ」
杉下は遠慮もなく手紙を開けて読む、身長差のある桜には手紙の内容は見えない
「流石にもう遅いしどこも開いてないだろ、楡井のは別の日に…」
「行くぞ」
「は?」
杉下は桜の手を引いて前に進み出した
「おい!」
杉下は何も答えずずかずかと前に進む
着いたのは高台にある神社だった
「ここに何の用だよ」
「いいから黙ってついて来い」
「はぁ…」
何なんだこいつは
杉下は神社を通り過ぎると裏側の奥に行く
こんな所に何があるのか…
「おい」
「だからなん…だ」
目の前には街の明かりでキラキラ光る俺達の町と満点の星空が広がっていた
すげぇ上も下もキラキラ光ってる
「本当は夕陽を見せたかったみてぇだが、それはあいつらと見ろ」
杉下から手紙を渡される
『お疲れ様です、桜さん杉下さん
お2人共色んな所に行ってお疲れでしょうから最後は夕日に染まる町を見ながらゆっくりして下さい』
「楡井…」
手紙から景色に目線をうつす
「綺麗だな」
夜景なんて今まで興味もなかったがこれがあの優しい町の人達が生活している光なのだと思うと途端に愛着が湧いてくるからげんきんな物だ
「こんな風に町が見える場所があるの知らなかった」
「俺も知らなかったが、この高台の神社は知ってたから…もしかしたらと思ってな」
「そっか…1人だと諦めて帰ってた…その、あっありがとな」
桜は杉下に礼を言うが杉下は一気に難しい顔をした
「何だよ…」
「おっ俺は…」
「うん?」
暗がりの中でもわかる位杉下は真っ赤になっていた
「商店街でも屋上でも…どこでも…」
「お前がいれば…それでいい」
「…杉下」
「あああああああああああああ!」
ガンガンガンと杉下が柵の手すりに頭を打ちつける
「うわあああああ!やめろ馬鹿!」
杉下の頭を叩いて自傷行為を止めるが杉下は手すりに頭をつけたまま動かなくなった
桜は関係性が変わったら自分達も変わらなければいけないと思っていた
“恋愛関係"なんて桜にはつい最近まで未知の領域だったのだ
それを飛び越えて“恋人関係“なんて余計わかるわけない、だからせめて“恋人っぽい”事をしなければならないと
そうじゃないと恋人になれないとそう思っていた…
でも杉下はいつもの様に町をぶらつくだけでも、桜が共にいるならそれでいいと…恥ずかしさに耐えながら伝えてくれたのだ
桜は杉下の指に自分の指を絡めてぎゅっと握った
俗に言う“恋人繋ぎ”と言うやつだ
恋人だからするんじゃない、俺が今杉下としたいからするのだ、その気持ちが少しでも伝わればいいなと思った
「俺もお前がいたらどこでもいいよ…」
ぽつりと桜が呟いた言葉に杉下は顔を上げる
桜はまっすぐに杉下を見つめながら伝えた
「明日も明後日もずっとこの景色が見える様に守っていこうな」
全然恋人っぽくないけど最大限の俺達らしい言葉
照明が反射して杉下の目がキラキラ光って見えた
まるで夢の中の様に感じられたがぎゅっと握られた手がこれは現実だと実感させる
「当たり前だろーが!この町は梅宮さんが守った町だぞ!」
「言うと思った」
「梅宮さんが卒業しても俺“達“で守っていくんだよ」
桜は息を呑んで杉下を見つめた
「…そうだな」
ぎゅっとお互い手を握り返すと自然に杉下の顔が近づいてきた
「あっ」
キスするんだろうなと思い桜は自然とまぶたを閉じる
変わろうとしなくてもよかったのだ
だって俺は目の前に居る“杉下京太郎”に惚れているのだから
“杉下の恋人“でいたい…明日も明後日も…ずっと…
こつんとおでことおでこがぶつかる
キスされると思っていた桜は拍子抜けした様にポカンとした
「おっお前!」
「んっ」
杉下が林の方に目線を向ける
「は?何だよ…」
そこにはこちらを覗く楡井と蘇枋、桐生と柘植がいた
「すみません、桜さん!」
「覗くつもりはなかったんだよ〜」
「桜君達が柄の悪いやつ等と喧嘩しとるって聞いてな」
「こっちの事は気にしないで続けて大丈夫だよ、桜くん」
「つっ」
『つ?』
「続けられる訳ないだろ馬鹿やろー!」
AM21;00
そのままみんなで神社から降りた
「デートは楽しかった?」
桐生が無邪気に聞いてくる
「まぁ、楽しかった」
「よかったぁ、スマホの写真もいいんだけどああいう所で撮ったのもいい思い出になるかなっと思って」
「んっありがとな」
「プロレスどうやった桜くん?あんまりデートっぽくなかったよなごめんなぁ、桐生くんに言われてから気付いて」
「いや楽しかったしよかったぞ、あれで緊張もほぐれたし…ありがとな」
「そんならよかったわぁ」
「楡井もありがとな、せっかく考えてくれたのにちゃんと出来なくて悪かった」
「仕方ありませんよ!どんな形でも桜さんが喜んでくれたなら俺は嬉しいです!」
「蘇枋は明日の特訓覚悟しとけよ、本気で殴りにいくからな」
「あはは、俺だけ扱い違いすぎなーい?」
「どの口が言ってんだ…まぁでもしきりがあって話しやすい場所ではあった…選んでくれてありがとな」
「どういたしまして、次からは俺にもちゃんと相談して欲しいな」
「やっぱ根に持ってんな…次はそうするよ、副級長」
「うん!」
桜は蘇枋の胸元に拳をトンっと当てた
「ほらお前も」
5人の後ろで歩いていた杉下に声をかける
「何でお前に指図されなきゃなんねーんだよ」
「お前も世話になっただろ」
「……別にお前に言われたからじゃないからな」
「はいはい」
杉下が4人の方を見ながらボソボソと喋る
「…その……ありがとう」
『どういたしましてー』
4人が一斉にそう言うとニコニコして杉下の方を見た
暗いはずなのに何故か明るく感じる夜だった
その後すぐ分かれ道になり杉下とは先に別れることなった
おやすみ〜とみな口ぐちに別れを言う
帰り際ちらっと杉下と目が合ったがすぐ壁で姿が見えなくなった
杉下と分かれてみんなと談笑しながら歩みを進めた所で桜はピタっと足を止めた
「桜さん?」
「悪い、ちょっと杉下に伝え忘れた事あるわ」
「待っておきましょうか?」
「一瞬で終わるから先行っててくれ」
桜は走って来た道を戻って行く
「すおちゃん、さくらちゃんの用事本当に一瞬で終わると思う?」
「終わるでしょー、桜くんと杉下君だよ」
「それもそうか」
照明が点々とする夜の住宅街
自動販売機よりも大きい後ろ姿が見えた
「杉下!」
「あ?」
はぁはぁと息を切らして桜が駆け寄る
「何の用だ」
グイッ!!
「!!」
杉下は桜に胸元を掴まれ引き寄せられる
ちゅっ
唇同士が触れて一瞬で離れた
「おっお前…」
「よし!」
タコの様に赤くなっていく杉下に比例して桜は晴れやかな顔をしていた
「明日の放課後時間あるか?」
「うっ梅宮さんの畑の手伝いがある」
「いつもそれだなお前」
「何か文句あんのか」
「ねーよ別に」
「じゃあその後は?」
「家に帰るだけだ」
「じゃあ畑の後商店街でコロッケ食おうぜ」
「はぁ!?」
「楡井達まってるから行くわ!」
そのままじゃあなと言い桜は来た道に戻ろうとする
「どういう事だ、テメェ!」
突然の事に杉下がそう叫ぶと桜は振り向いて笑った
「デートだよ、ばーか」