星をみたひと宇宙人とはいっても生き物である以上、幼少期というものは存在する。
ついこの間、ノーヴァは他の仲間とアルバムを持ち寄って幼少期の思いで語りをした。
ああ君は小さい頃からこんな青い肌していたんだな、とか、昔はおもちゃのピアノしか弾けなかったんだよ、とか。そんな他愛ない会話だった。
そんななか、カノープスだけは皆の会話に相槌をうつのみで、自身の幼少期について語ろうとはしなかったのだ。
カノプさんはアルバムないの?と訪ねたら、忘れちゃいました、と彼は返した。
ノーヴァはそれを訝しげにみていた。
それからしばらくして、ノーヴァはカノープスと二人で犬を囲いながら話をしていた。
そのときも彼は、ノーヴァの話を楽しそうに聞いているだけだった。
そういえば、カノープスはあまり自分について語らない。いつも、聞く側に立っていた。
「あのさ、カノプさん」
「?なんですか」
ノーヴァは息接ぐ間もなく、早口で捲し立てた
「カノプさんてさ、あまり…自分のこと喋らないよね。私たちが話してるときもずっと聞いてるだけだよね。なんか、さ…ずるくないかなぁて」
ずるい、と言われてカノープスは目を丸くする。しまった、とノーヴァは思った。
「そうですね…ずるいですね、僕」
怒るそぶりもなくそう言うものだから、ノーヴァはますますばつが悪い顔をした。
「ごめんカノプさん…言いたくないことがあるかもしれないのに…でも、私はカノプさんのことが知りたいんだ」
その言葉を聞いたカノープスは、きょとん、としたのちにまたいつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「そんなに言ってくれるなら、ノーヴァさんになら見せてもいいかな」
ただびっくりするかもしれないからと、いいよと言うまでは目を閉じて、とカノープスは言う。
言われた通りに、ノーヴァは目を閉じた。
まさか逃げ出すつもりだろうか、そんなことしたら一発なぐっちゃうぞなどと、柄にもなく暴力的なことを思う。
嫌に長い沈黙が続き、本当に逃げ出したのではと、不安が勝ったそのとき。
「いいよ」
ノーヴァは目を開けた。
そこには、カノープスの姿はなかった。
いや、姿を捉えられないと言うべきか。
そのときノーヴァは、カノープスの外套に似た色の宇宙の中にいたのだ。