星乃 慧吾 さよならの前に覚えておきたい。この名前が人々に喚起するイメージの鮮烈さを、夜空に一はけ描かれる炎の強さを。
吾、人心の闇を裂く一条の光なり。
そう唱えることを憚ってはならないと、幼心に約束を結んだ。約束の相手は世界だった。夜に迷う人がいるなら、それを導く者は虚空で燃える俺だった。
「所詮過ぎゆくだけの石くれが」と嗤われれば、「石くれの残す流れ星に願いを賭けろ、叶う世界を作るのが俺だ」と返す。「慧いばかりで非力な子供が」と憐れまれれば、「来たる未来を見通す眼を慧眼と云う、この眼に見える光る未来は必ず俺が連れてくる」と返す。
この星を、過ぎゆくばかりの命なら、全ては世界のために使う。
しかししとどに濡れる雨の下では、星が隠れ風さえも止む。闇夜でこそ燃えるべきこの命が大気の底では朽ちてゆく。
かつて約束を誓ったこの星は、弱い意志など呑み込んでしまう。
一滴落ちた絶望の雫が広がってゆく。隠すべき黒い靄。世界と俺は、最期に秘密を分け合った。