土井半助、竜宮城へゆくの段「おい、花房がっぱ。おまえの言うイイ所っていうのは、まだ着かないのか?」
「き、貴様! 人の名前を何だと思っている!? わたしは由緒正しき河童族の長、花房家の花房河童之介であるぞ! 花房がっぱなどではぬゎい!」
そんなら人ではなく河童だろうが。と、半助は胸中ぼんやり悪態をつきながらも、この〝河童〟を名乗る下手な変装をした花房牧之介こと花房河童之介の背に跨り、海の中を降下中。
胴を太い縄でぐるぐる巻きにされた半助は逃れられず大人しくしている。手縄の先はもちろん河童之介の手にあり、持ち主は器用にも手綱を構えたまま海底へ向け泳ぎ続けているのだ。
海中というのに河童でもない半助も息はできるし、そもそも河童が海に住んでいるなんて聞いたことがないし、もとより花房河童之介だなんて、冗談もいいところである。
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