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    bibibibi_n

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    bibibibi_n

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    ほのぼの?全年齢
    犬(+)旬て感じ
    二人は付き合ってません

    犬飼さんが犬になってしまう話大変なことになってしまった。
    犬飼は顔色を悪くする。
    元より、今日はなんてことの無い日のはずだった。しかし低級のダンジョン攻略をメインとする小規模ギルドが攻略に難航していると聞き、その場に直ぐに駆けつけられるハンターを探したところ、S級になって間もない水篠旬に白羽の矢がたった。旬がいるならば戦力は何も問題がないのだが、念のため犬飼も同行し、難なくボスを倒したまでは良かった。しかしボスは今際の際に何やら空気中に吐き出し、旬と犬飼はモロにそれを吸い込んでしまった。
    旬の方には吸い込んだ瞬間システムウィンドウが現れたが、「ランダムで状態異常」という情報以外は得られなかった。毒や呪いとはまた別種の状態らしい。
    何かあってもどうにかなると考えている旬とは裏腹に、犬飼は顔色が悪く、焦っているように見える。
    「水篠ハンター、体に異常はありますか?」
    「俺の方は今のところ何も……犬飼課長は?」
    「僕も特に自覚症状はありません。念のため、協会近くの病院へ同行願います。こういうものに強い協会員がいますから、ヒーラーと一緒に呼んで調べてもらいましょう」
    万が一にも毒や呪いの効かない身である旬は自分は特に調べる必要はないと思ったが、犬飼の方が気にかかり頷いた。何かあればポーションで回復させてやらねばならない。
    一本電話をかけたあと、犬飼は思い詰めた顔で「僕がついていながら申し訳ありません」と謝罪した。
    「犬飼課長のせいじゃないですよ。俺が油断したせいです。すみません」
    「いえ、水篠ハンターをサポートするのが僕の役割でした、か、ら……」
    不自然に言い淀む犬飼に視線を向けると、ポンッと軽い音を立てて白い煙が立った。
    「犬飼課長!?」
    旬は慌てて煙を掻き分け犬飼の姿を探す。しかし伸ばした手は空を切った。あるべき場所に犬飼の体がない。旬は最悪の想像をして血の気が引く。
    (くそっ、状態異常の文字に油断した……! こんなことになるなんて!)
    「犬飼課長!!」
    旬の大声に、各々仕事をしていた協会員たちも不安げに集まり出す。
    やがて煙が晴れた時、そこには茶色い毛玉が落ちていた。
    否。つぶらな瞳。小さな体躯。ふわふわな体毛。
    「犬飼課長……?」
    動揺する旬の足元には、小型のポメラニアンが困惑したように鎮座していたのだった。




    「それで、これが犬飼課長だと」
    「状況から見て、間違いないでしょう」
    旬の問いに、協会所属の医師が答える。
    ひとまず協会の医務室に担ぎ込まれた犬飼もといポメラニアンは、診察台の上で大人しく丸くなっている。協会に常駐している医師にもヒーラーにも診てもらったが、何も分からず。
    犬飼は外見の可愛らしさとは反対に、その表情は目に見えて暗い。
    「時間差で発動するタイプの呪いか……何か戻る条件があるのかもしれません。水篠ハンター、お心当たりは?」
    医師の問いに旬は首を横に振る。まだ旬の身に降りかかっていない以上、システムは頼りにならない。詳細を知るのは難しい。
    「困りましたね……とにかく、水篠ハンターもいつ同じ状態になるかわかりません。極力一人にはならないでいただきたいのですが」
    「それについては心配ありません」
    いつ同じことになるかわからない以上、一人にならないことは重要課題だ。もっとも、旬にその心配は無い。常に影の兵士たちがついている。
    「でしたら、何かあればご連絡ください。犬飼課長については我々で預かります。協会は二十四時間体制で怪我人に対応できるように医師とヒーラーを常駐させていますから、ご心配なく」
    旬もそれがいいと同意した。
    診察台の側で膝を折り、随分と小さくなってしまった犬飼と目線を合わせる。
    「犬飼課長、巻き込んですみません。あなたのことは、俺が責任を持って必ず元に戻します」
    旬の決意に漲る瞳を、犬飼はつぶらな瞳で見上げてくる。尻尾を伏せ、くぅんと切なげに喉を鳴らす姿はいつものストイックな犬飼の姿からは程遠い。「申し訳ありません……」という声が今にも聞こえてきそうだ。
    旬はそわそわと落ち着かない気持ちになる。
    旬は犬好きだった。幼い頃は、自分でも飼ってみたいと思っていた程に。しかし家計に余裕がなくなると、そんな大それた夢を見ることはやめた。今いる家族を養うだけでいっぱいいっぱいだったからだ。
    ──だが、今なら?
    「水篠ハンター?」
    いつまでも犬飼を見つめて動かない旬に、医師が声を掛ける。
    「いえ、なんでも……」
    旬が渋々ながら立ち上がった。だがやはり後ろ髪を引かれ、振り返ってしまう。
    何も言わない旬を逆に心配したのか、犬飼が立ち上がり診察台の縁まで歩いて来る。ぽてぽてと小さな手脚で。そして旬の顔を上目遣いに見つめると、くぅんと鳴いた。
    抱き上げる。それはもはや反射だった。
    茶色の綿毛のような柔らかい体毛は触り心地がいい。それ越しに生き物としての体温が感じられ、旬は小さく声を漏らした。すると犬飼は心配そうに前脚を旬の腕に乗せる。少し湿った柔らかい感触。肉球だ。
    「あ、あの、水篠ハンター?」
    深呼吸して、一旦犬飼を診察台に戻した旬は、片手で顔を覆って言った。
    「すみません……やっぱり、俺が連れ帰ってもいいですか?」




    ▽▽▽



    「ただいま」
    「お兄ちゃんおかえりー! って、どうしたの? その段ボール……」
    帰宅してすぐ、リビングにいた葵が近寄って来てひょいと旬の抱える段ボールを覗き込む。そして中身を見て大声を上げた。
    「ええー!?」
    「ちょっ、声がデカい……!」
    「どうしたの?」
    キッチンにいた聡子まで出てきて、旬の持つ段ボールを覗き込む。元より隠し通せることでもないので、旬も渋々段ボールを見やすいように傾けた。
    「あら、可愛い」
    段ボールの中で旬の服に包まれているポメラニアン姿の犬飼は静かに、覗き込んでくる女性たちを見上げていた。
    「お兄ちゃんこの子どこから連れて来たの!?」
    葵の大声に顔を背けながら、旬が苦しい答えを言う。
    「ゲートの近くで……」
    「避難する時に飼い主さんとはぐれちゃったのかしら。毛並みもいいし、きっと可愛がられてたのね。飼い主さんも探してるでしょう」
    「あ、あ〜……避難指示が解除されてすぐだし、飼い主が見つからなくて……協会の人が探してくれてるけど、その間に誰かが面倒見なきゃと思って」
    咄嗟に聡子に話を合わせようとするが、葵はどこか呆れたような顔だ。
    「ホントに〜? お兄ちゃん昔は犬飼いたいって言ってたじゃん! このまま飼うつもりなんじゃないの?」
    「それはないって! もういいだろ、暫く俺の部屋で世話するから!」
    そう宣言して、旬は自分の部屋に大股で移動した。ドアを閉め、一息つく。
    段ボールを床に置き、そうっと中を覗く。犬飼がやはり不安げな顔で見上げてきていた。
    だがそのつぶらな瞳を見る度に、旬は心臓がきゅっと引き絞られる心地になる。そう、旬はこの姿の犬飼を可愛がりたくて仕方がなかった。
    「家族がうるさくてすみません……ここの暮らしで不自由はさせませんから」
    そう言った旬は、帰りがけに買い込んだ大量のペットグッズをいそいそとインベントリから取り出し始めたのだった。



    自分の部屋にペットグッズを設置している最中に夕食のお呼びがかかり、迷ったが段ボールごと犬飼も抱き上げて連れていく。
    「あっ、来た!」
    葵が声を上げる。
    「なんだよ」
    「お兄ちゃんじゃないよーだ! ね、君は野菜食べれるかな?」
    葵は実の兄そっちのけで犬飼を構う。聡子がエプロンで手を拭きながら出てきた。
    「野菜の余りをね、煮てみたの。ペットフードじゃなくても、そういうものも食べられるって葵が調べてくれたから」
    それまで大きな動きのなかった犬飼が嬉しそうに段ボールから顔を出したのを見て、旬はハッとする。念のためペットフードも買ってきたが、いくら姿は犬とはいえ食べ物までそちらに合わせたら嫌な思いもあるだろう。
    「母さん……ありがとう」
    すっかり息子の顔になった旬が聡子に礼を言う。古今東西、母親には敵わないものである。
    段ボールを床に置くのもなんだかはばかられ、一先ず椅子の上に置いた。食べやすいよう小皿に盛られた野菜を犬飼の前に置くと、控えめに食べ始めたので安堵して旬も食卓につく。
    「そうだ、その子の名前はわかるの?」
    「そりゃ、犬……あ、いや」
    犬飼課長、と答えかけてやめた旬に、鋭く葵が突っ込む。
    「犬!? お兄ちゃんセンスなさすぎ!」
    「違うって……」
    「何が違うの!? お兄ちゃんは"人間"って名前付けられて嬉しい!?」
    「嬉しくないです……」
    撃沈した旬をよそに、葵は早速犬飼に「折角なら可愛い名前がいいよね〜」と語り掛けている。変に名付けられても困ると思い、旬が躊躇いがちに口を出した。
    「なら、アキラ、さんっ、とか……」
    犬飼が鋭く反応する。いかにもそれがいいです!とばかりに短い尻尾を振ってアピールするので、葵も「おー!」と歓声を上げた。
    「正解じゃない? 人の名前っぽいけど、悪くないかも?」
    「男の子なの?」
    「うん、そう……」
    「それなら、アキラくんね」
    聡子が穏やかに微笑んだ。
    こうして水篠家で一つ空いていた食卓の椅子が、食事の時の犬飼の定位置になった。



    ▽▽▽



    犬飼を元に戻す方法を調べ始めて三日目。
    そもそもダンジョンはボスを倒したらゲートが閉じてしまって、二度と同じようには開かない。あのダンジョンもとうにゲートが閉じてしまっていた。そこで、協会協力の元、あのダンジョンで出現したモンスターの方に狙いを定めて片っ端から同じランクのダンジョンを攻略してみてはいるが、今のところ収穫はない。そろそろ他のギルドにも怪しい動きを勘づかれそうだ。
    ちょくちょく会う監視課の協会員たちは日に日に顔色が悪くなっている気がする。やり手の課長の不在は相当の痛手だろう。早く戻してやった方がいい、とは思うのだが……
    「ただいま」
    「お兄ちゃんおかえり〜! 見て見て!」
    葵の声に今度はなんだとリビングに足を踏み入れると、そこにはサングラスをかけた犬飼を腕に抱える妹の姿。おまけに葵も同じような黒いサングラスをかけている。
    「おそろい!」
    旬が顔を覆った。直視できない。主にサングラスを掛けた犬飼が可愛すぎて。
    「似合うでしょ!?」
    騒いでいる葵に心の中で賞賛を送りながら、平静を装うために咳払いする。
    「そんなのどこで買ったんだ?」
    「えー? 普通に売ってるよ?」
    なんてことないように言った葵はもう切り替えて犬飼と自撮りをしている。犬飼は少し困惑気味のようだが、嫌がってはいなそうなので無理に止めるまでもない。
    すっかり水篠家で最も可愛がられる地位を確立した犬飼は、不自由はさせまいと旬の給金で色々買い与えてはいるが、葵や聡子からの愛情もたっぷりと注がれている。旬が家にいる時は旬に、不在時は聡子か葵に構われ、特に問題は無さそうだ。
    後で葵に写真を送ってもらおうと決めて、旬は荷物を置く。
    「お兄ちゃん見て、アキラの目って、キリッとしてて凛々しいんだよ」
    人間の時もそうだから、というのは抜きにしても、毎晩家族が寝静まった後に犬飼にその日の調査の結果を報告している旬は頷く。
    「ああ、知ってる」
    「何? もう飼い主気取り?」
    「そんなんじゃないって」
    子どもたちの微笑ましい掛け合いに、聡子が加わる。
    「でも旬、この子昼間でも殆ど吠えないから心配だわ。ゲートの近くにいたんでしょう? モンスターに怖い目に遭わされて、声が出ないなんてことないわよね?」
    「うーん、そんなことないと思うけど」
    「いい子なんだよ!」
    ねー、と葵は犬飼の顔を覗き込む。犬飼はくぅんと困ったように鳴いた。ちらちらと視線を寄越してくるので、旬は苦笑して葵の手から犬飼を救出してやった。



    ▽▽▽



    「……て訳で、今日もダンジョンをいくつか回ってみましたが収穫はゼロです。犬飼課長には申し訳ありませんが……」
    旬のベッド上で行儀良くお座りをする犬飼に、今日の報告を終える。収穫なし。それ以外に言えない。
    犬飼が落胆したようにちんまりと肩を落とす様は見ていて非常に心苦しい。だが喜ばせられる新情報もない。
    仕方なく、旬は「気休めにしかならないかもしれませんが」と前置きして犬飼の目を見る。
    「俺が絶対に、元に戻る方法を見つけます」
    犬飼はすっくと立ち上がると、旬の側へ寄ってきた。旬の足にぽて、と前脚を置いて喉を鳴らす。
    励まされている……
    その可愛さに心臓を撃ち抜かれた旬は、スローモーションのように横に倒れ込んだ。ベッドの上なので犬飼と同じ目線の高さになる。
    投げ出した片手に、犬飼が寄ってくる。ふわふわの体を擦り付ける動きに、旬は言葉に詰まった。
    (可愛い、可愛いけれど、早く元に戻してやらないと……!)
    「犬飼課長……ごめんなさい。俺、もっと頑張りますから」

    その夜、旬は夢を見た。
    人間の姿の犬飼が、旬を励ます。
    「僕なら大丈夫ですから、どうかご無理ならさらないでください、水篠ハンター」
    何か言い返そうとして、声が出ず、旬は何も答えることができなかった。
    ぱちり。目を開けると、見慣れないものが視界に飛び込んできた。
    茶色の毛玉が小さく膨らんだり萎んだりを繰り返しながら、旬の傍らで眠っていた。
    「あ……」
    あのまま眠ってしまったのか、と理解する。犬飼用の寝床は用意してあるのだが、ここで眠ることを選んだらしい。
    起こさないように優しく毛並みを撫でる。そして旬は、犬飼を一刻も早く元に戻そうという決意を新たにした。



    ▽▽▽



    それから早二日。変わらずダンジョン攻略に精を出すが、解決の糸口は見つからないまま。協会でもお手上げらしい。
    収穫なしの報告をするのは流石の旬でも心が痛む。
    「すみません……」
    肩を落とす旬に、気にするなとばかりに犬飼が寄り添う。
    随分と距離が近くなった。
    旬が犬飼を撫で回す。ブラッシングしたての毛は艶々だ。そろそろ家族への「飼い主を探しているが、見つからない」という言い訳も苦しくなってきた。
    旬の手の中で大人しく撫でられている犬飼を見つめ、ぽつりと零す。
    「……可愛い」
    ぽんっと音がして、煙が巻き起こる。犬飼が変身した時と同じだ。
    「犬飼課長!?」
    煙が晴れると、そこには旬に覆い被さる体勢の犬飼がいた。しっかり服はスーツのまま、呆気に取られた顔をしている。
    「戻った、んですね……」
    「ええ、どうやらそのようです」
    気まずい雰囲気でぎこちない会話を交わし、犬飼はおずおずと旬の上から退く。
    「何がきっかけかはわかりませんが、戻って良かったです。俺のせいで迷惑をかけてすみません」
    「それを言うなら僕の方です。家にまで置いていただいて、こんな……」
    犬飼が旬の部屋にちらと視線をやる。そこは既に犬飼のための部屋といっても差し支えなかった。表立ってはいないものの、旬の裏での溺愛っぷりは凄まじかった。
    「俺が好きでしたことですから……仕事に穴を開けてしまいましたよね、すみません……」
    「いえ……いい休息をいただきました」
    お互いなんとなく目を合わせられず、気まずい雰囲気のまま上っ面の会話だけが交わされる。
    「お兄ちゃんー? なんか音したけど、大丈夫?」
    葵の声。それに「大丈夫! ちょっと寝る!」と返した旬は、犬飼を連れて影の交換で協会に飛んだ。

    程なくして犬飼は仕事に復帰し、また多忙な日々を送ることになった。しかしあの時の旬の甘い声と、自分を撫でる手を時折思い出しては、山のような書類を捌く手を止める。
    旬もまた、部屋に残ったペットグッズを片付ける際、どことなく寂しそうだったという。

    後に、家族に犬飼を紹介した時。
    「犬飼さんって、アキラに似すぎじゃない?」という葵の発言から、二人が冷や汗をかくことになるのは、まだ誰も知らない。
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