マヒ主「今夜、忘れるなよ」
家を出る時に言われた言葉を思い出す。
豪華なディナーを楽しみにしておけ、と言われ、胸を躍らせたことを確かに、そう、覚えていたのだ。定時間際までは。
そこから緊急で呼び出しがかかり、運の悪いことに荒事に発展して、その最中に端末が壊れ、無事に事を収めたのは既に定時から何時間も過ぎた後。
みるみるうちに血の気が引いていく。手の中にある端末は真っ暗な画面でうんともすんとも言わない。きっと今頃大量の着信を寄越しているだろう相手を思い、背筋が寒くなる。
連絡しようにも、連絡先はいつも端末に入っていたから番号など思い出せない。
兎にも角にも、最短ルートで家路を急いだ。
▽▽▽
意外にも、家は最低限しか電気がついていなかった。恐る恐る鍵を開けると、らしくなく玄関に靴が乱暴に脱ぎ捨ててある。サイズの大きい靴は全て彼のものだ。
1653