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    morimori

    何でもありの混沌 進捗とかも載せる

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    morimori

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    書きかけ……全然終わらないから途中だけどあげる……ディルガイ要素が薄いがディルガイ……モブガイ(未遂)の描写のが多い

    ##ディルガイ

    トラウマ持ちの義弟の話 ──いやだ
     悪意を持った指が身体中をはい回る感覚に身をよじる。
     ──こわい
     力もない小さな幼い身体はいとも容易く抵抗を封じられてしまう。
     ──たすけて……
     上げられない声に気付く者はおらず。誰も来てはくれなかった。
     
     牧歌の城、モンド城。見える風である風車や穏やかな気候、陽気な人々の喧騒で賑わう平和そのものの街。そんな印象だからか、時々カモを求めて小賢しいが入り込むことがある。
    「へえ、あんたスメールからここに来たのか。それは遠かったんじゃないか」
    「確かにここまで波乱万丈でしたよ、しかしモンドは素晴らしい! 苦労をした甲斐がある。酒はうまいし……きれいなものも、たくさんあって」
    「モンドに住んでる身としては嬉しいね。満喫していってくれ」
     モンド、西風騎士団騎兵隊隊長ガイア。モンド市民を守るべく日々汗を流す(あの可愛い後輩が聞いたらちょっと顔を顰めそうである)彼がその男の噂を耳にしたのは約一週間前のことだ。その男は世界各地を回る行商人で、彼が扱う商品は実に多様だ……そう、実に。
     なんでも、特定の年頃の男性がある日を境にふらっと行方不明になる事件がここ一年ほどテイワットで密かに取り沙汰されているのだが、その報告はこれまた非常に奇妙なことに、その男の足取りと妙に一致している……らしい。大事にならないのはまだその事件の報告から日が浅いのも一因であるが、行方不明者が二十歳前後の若者な点も大いに関係しているだろう。活力と夢に溢れる年頃だ。急に消息が不明になったとしてもその安否を不安がるのは家族くらい。
     では何故その話が未だ魔の手の及んでいないモンドのガイアの耳に届く程度には膨れ上がったかというと、とあるスメール人の、学院に通う内気な青年が一人姿を消したことが発端である。彼は急に姿を消すような性格でもなく、まだ見ぬ外の世界に焦がれるような男でもなかった。彼の関心の対象は全て学院で学ぶ学問に傾倒しており、いずれは教授職に就きたいと家族には伝えていたという。そんな彼がある日、誰にも何も言わずに忽然と姿を消した。訝しがった身内と、彼と懇意にしていた教員がスメールの治安維持組織にどうにかしろと訴えたが進展はなく。
     ただその事件はそれまでの事例よりもずっと目立った。それに目を付けた情報を生業にする裏社会の者が調査を進めたところ、似たような行方不明事件がいくつも浮かび上がってきたというわけだ。そして、その点と点を結ぶのが、おそらくはこの行商人の男である。
    「モンドにはあと一週間程度滞在するつもりだったんですが、思ったよりも居心地がいいので更に旅程を伸ばそうかと考えているんですよ」
    「それはいいな」
     機嫌が良さそうにモンドを褒め称えるその男の細めた目が、一瞬だけ不穏な光を帯びる。しかしそれはすぐに厚い瞼に覆い隠された。それを目敏く認識しながら目の前でにこやかに笑みをたたえるガイアは、一瞬緊張した体をそうと悟らせずに自然体を保った。
     数日前にここ、モンド城を訪れた行商人は、どうやら、男色趣味がおありらしい。
     探るまでもなく聞けるその噂と、ガイアが手に入れたきな臭い事件の一連の噂を関連付ければ、自ずとそれがどういう話なのかが見えてくるというものだ。二十歳前後の若い男、ガイアは、ここ最近はため息を飲み込んでばかりである。おまけにこれは勘だが、騎兵隊隊長が最近ハニートラップをしているらしい、なんて噂が出始めている気配がする。わざわざ揉み消す価値を感じないから放置しているが、とっととこんなことは終わらせたいのも本音だった。
    「ガイアさんとお話するのは大変心地がいい。親愛の証にどうしてもお見せしたいものがあるんですが、興味はありませんか?」
    「へえ、光栄だな。何を見せてくれるんだ?」
    「ホテルの部屋に置いてあるので、今すぐというわけには」
    「部屋、ねえ……興味はあるが、あいにく俺は明日も朝から仕事でなあ。この場が解散したら真っ直ぐ家に帰って寝るつもりなんだ」
    「はは、お時間はそう取らせませんよ……だから、ねえ。いいでしょう?」
     下品さを隠しきれてない笑顔の前でガイアは暫し考えてみる。この男と会話する席では普段よりアルコールを抑えているので、ほとんど素面だ。神の目もあるし、実働がそこまで好きじゃないとはいえ体も鍛えている。何があっても自分なら大丈夫だろう。しかし、と震えそうになる指先に気が付かない振りをしてガイアは勿体ぶるように頷いてみせた。男は満面の笑みで喜んだ。——吐き気がする。
     
     数歩前を行く男について歩きながら、ガイアは雑談に興じていた。男はガイアのちょっとした冗談におかしそうに笑って、その足は人通りの少ない路地裏へと向いている。会話が途切れた。いやな動悸がその静寂を打ち消すようにじわじわと胸のそこから湧き上がってくるのを息を吸って抑えようとしたガイアは、男が腕を引いて狭い壁にガイアの身体を押し付けようとする動きに対応するのが遅れた。誰のものかもわからない荒い吐息が聞こえる。目を見開くガイアの様子を見て、その心臓の音を興奮とはき違えた男の眦がいやらしく下がった。
    「いやあ、本当に、モンドにはきれいなものがたくさんある……」 
    「……」
    「あなたは本当に素敵だ……特にこの明かりがなくても星のように光る瞳がいい。私のものにして、連れていきたいところですよ」 
    「はっ……」
     ろくに声も出せないガイアに何を勘違いしたか、不埒な手がガイアの隊服の開いた胸元をはい回り、布の隙間に指先がねじ込まれた。こみ上げる嫌悪感にガイアが思わず身を縮こませると、男が楽しそうに笑った。
    「こんな開放的な服を着ておきながら、反応が生娘みたいに初なのも、これはこれで意外性があっていい! ねえ、ホテルの部屋に見せたいものがあるって言ったでしょう? 今から——」
    「おい、何をしている」
     予想外の声が唐突にその場に差し込まれて、男は勿論、不快感と緊張に身を硬くしていたガイアもビクリと肩を震わせた。その声色に明らかに含まれた怒気に、賢い行商人の男はそそくさと撤退していった。この期に及んで、去り際のその眼差しは闖入者の姿すらをもなめ回すようであったが。
     それを不快そうに一瞥した三人目の男、アカツキワイナリー現当主にして、時々ワイナリー直営エンジェルズシェアのバーテンダー業を勤めている休憩中のオーナー、ディルック・ラグヴィンドは奥まった路地の壁に未だに背中を預けて立つ現騎兵隊隊長の男へと再び注意を向けた。彼の、夜であっても赤く陽のように燃える瞳には、ハッキリとした嫌悪と、失望が広がっている。
    「……こんなこところで盛らないで貰えるか、治安が悪くなる」
    「つ……」
     こんなところ、と言われてようやくガイアはその路地がエンジェルズシェアとそう遠くないことに気がついた。ディルックは、(その手に酒造業を握っているくせして)未だに苦手な酒の匂いから一息つくために外に出たところ、聞き覚えのない話し声がしたので様子を見に来たといったところだろうか。
     何も答えないガイアに、後ろめたい事でもあって話す気がないと判断したディルックはフンと鼻を鳴らし踵を返した。エンジェルズシェアに戻るのだろう。それを引き留めようと口を開いて、でもやはり声が出なくて、そのうえ、何を言うべきかも整理が付けられなかったガイアは、結局何も言えずにその背中を見送った。
     助かった、と思う。あの顔が見れて、あの声が聞けて、緊張していたガイアの身体が幾らか安堵を認めたのは、紛れもない事実だ。だけど、それを塗り替えるくらいに、
    「よりにもよって、お前にあんなところ見られちまうなんてな……」
     その路地裏に入ってからガイアがようやく発せた言葉は、酷く滑稽なくらいに震え、掠れていた。
     
     
     ガイアには、人には決して言えない秘密が一つ……いや、数え切れないくらいある。その中の一つが、まだ故国からモンドに捨てられてから一年も経たない頃のことだ。
     ガイアを拾ってくれた屋敷の人々はすごく優しくて、義理の兄となった少年も突然できた弟を心から歓迎してくれた。それはまだ幼かったガイアには凄く有り難いことだった反面、理由もまだ曖昧な後ろめたさを感じさせもした。まだ子どもだったガイアにはその恐ろしさを処理しきれず、ある日まだ夜も明けてない頃にこっそり屋敷を抜け出したことがあった。とにかく逃げたかったのだ。しかし、その幼い衝動は一つの不幸を引き起こした。ガイアが宛もなくトボトボと鬱蒼とした歩き慣れぬ森を歩いていると、遠くで人の気配がしたのである。自分で温もりから抜け出してきた癖して、心細さを感じていた彼はそちらへと駆けていった。あの優しい人たち以外なら誰でもいいから、側にいてほしかった。
     少年が木々の隙間から遠慮がちに顔を出すと、気配を察知していたらしい三人の男が少しの警戒をにじませてガイアのことを見た。……ああ、不幸なことに。その男たちは、児童の売春を斡旋する悪党どもであった。
     大柄な男三人に睨まれておどおどするガイアは、その男たちが何を考えているかも露知らずに小さな声で「こんばんは」と挨拶した。しかし、男たちから挨拶は返ってこない。幼いガイアがようやく人選を間違えたことに気が付いた時にはもう遅くて、気がついたらガイアは地面に乱暴に引き倒されていた。
    「おいおい、こんなガキ相手にどうすんだよ」
    「具合を見ておくんだよ、初物好きには売れなくなるけどなあ」
    「だからってこんなところでかあ?」
     ぐあい、だとか、はつもの、だとか理解できない言葉に思考が止まりながらも、ガイアは自分はこの男たちに苦しめられて、きっと殺されるんだと思って涙が出そうな気がした。でも、大きな手がガイアの急所の胸のあたりをまさぐって恐ろしさに身を震わせても、服を脱がされても、ガイアの目から涙は出なかった。どころか、声すらまるで出てこない。
     
     ──いやだ
     悪意を持った指が身体中をはい回る感覚に身をよじる。
     ──こわい
     力もない小さな幼い身体はいとも容易く抵抗を封じられてしまう。
     ──たすけて……
     上げられない声に気付く者はおらず。誰も来てはくれなかった。

     しかし、ガイアにはよく目的がわからない触り方で暫くガイアの身体を弄っていた男は、突然眉をしかめると「外れだなあ」と言って立ち上がってしまった。横で周囲を警戒していた残りの二人が寄ってくる。
    「ほら、まだそういう使い方のできる歳じゃなかったろ?」
    「そうみてぇだな。結構背があるかと思ったが、ひょろっこいだけだ」
    「そんで、どうすんだ? こいつ」
    「うーん……おい、ガキ。俺たちのことをお前のパパやママに言ってみろ、全員殺してやるからな。抵抗の一つも出来んくらいだ。何もできねえだろうから見逃してやる」
     俺って優しいなあなんて下品に笑いながら、裸で転がるガイアを放置して男たちは去っていった。静かになると、喉が熱を持って、ガイアは嗚咽をもらした。それでも目からは何もこぼれ落ちてこなかったが、ガイアはしばらく一人で恐怖に泣いたのだった。
     怯える子どもが一人きりで泣いていると、薄っすらと空が明るくなってきた。薄暗い視界の中で、男に脱がされた服が落ちている。ガイアはそれを拾い上げた。土埃にまみれていたが、裸でいると風が直接当たるのが寒かったのでずっとマシだった。服を着たガイアが途方にくれて、ただ呆然と太陽が顔を出しつつある空を眺めていると、遠くから徐々に近付いてくる人の足音、それからひどく悲しそうな大人の声がガイアの名前を呼ぶのが聞こえてきた。そこから先は、急に気を失ってしまったらしくあまり覚えていない。ただ、目覚めた視界にワイナリーの高い天井と、ぼろぼろと涙をこぼす赤い髪の少年が映っていて、その大きな瞳がまんまるに見開かれてから太陽みたいな温もりにぎゅうと抱きしめられた記憶だけは、どうしてか他の何よりずっと鮮明だった。
     
     
     それから十数年後。
     
     路地裏で迫られて以来。ガイアは、例のスメールからの行商人をどうするかについて決めあぐねていた。これ以上の被害を抑えるためにも、モンドで誰か哀れな青年が犠牲になるより先に奴の悪事を暴いてやる必要がある。それは明らかだったが、ガイアが悩むのはその方法だ。普段ならありえないことだった。この程度の小悪党を掌で転がすなどガイアには簡単なはずだ。誰かを巻き込んで解決させるのもいい。しかし、現実はというと、ガイアには今後について何も決められていなかった。解決策に頭を回そうとする度に、嫌な記憶が邪魔をするのだ。とはいえ時間は有限。いつまでも悩んではいられなかった。
    「それで?」
    「それで、って? なあに俺は単なる世間話をしただけだぜ? きな臭い噂のある行商人がいるらしい、ってな」
     カウンターで気に入りの酒、「午後の死」のグラスを傾けながらガイアは軽薄に笑った。——結局こうなった。最初彼は騎士団の誰か、そうでなければ例の旅人を巻き込もうかと考えていたのだが、案件が案件だ。うら若き乙女に関わらせるべきではない。と、なると後にはもう選択肢は実質二つしかなかった。一人でやるか、闇夜の英雄を動かすか。選んだのは(選べたのは)後者というわけだ。
    「その行商人というのは先日の男か」
    「ははは、俺には誰のことを指してるか分からんが、そうかもしれないな? 何だ、気になるのか? それならもう少し情報を提供してやってもいいぜ。俺の知ってる範囲で」
     ガイアの言動が、故意に目の前の男……ディルックの不快感を煽るようなものであった事は紛れもない。しかし、ディルックの返答はガイアにとって想定外で、彼を動揺させた。
    「その情報というのは、君がその身体で得てきたものか?」
     その瞬間、ガイアの中で時が止まったかのようだった。驚愕してディルックを見つめるが、二人の視線は合わない。
    「……」
    「君には珍しく静かだな」
    「……黙りにもなるさ、だってお前、それは」
     それは、あまりに、酷い言葉だった。
     ガイアの喉の奥で渦巻いていたのは「使えるもんなら使っていたさ」「お前、あの時のことそんなに気にしてんのか?」「ハニートラップの噂でも馬鹿正直に信じてんのか、お前って俺のことなんだと思ってんだよ」といった言葉たちであったが、そのいずれもが声にはならなかった。ガイアの沈黙を、ディルックは肯定と受け取ったらしい。ボソリと呟くように「最悪だ」と吐き捨てたディルックの声は、鮮明にガイアの耳に届いてしまった。
     何も言えないガイアは、静かに唇を噛み締めた。
     ディルックはというと、ガイアが……たった一人の義弟が、何も言わないことに、酷く苛立っていた。誰とも知れない危険な男相手にその身体を自ら捧げたのかと聞いて、それが否定されなかった。怒りのような、憎しみのような、悲しみのような激しい感情で胸が詰まりそうになるのを必死に抑える。
     それから。二階で飲んでいた足元の危うい常連が降りてきて、挨拶をするのに何とか返事をして、二人きりになった店内を見渡した。まもなく0時になり、店は閉じる。閉店に伴ってこの男も追い出さなくてはいけない。——店から出て、誰のもとに行くかもわからないのに? それがひどく不快に感じたディルックは、無言でカウンターを離れると戸締まりを始めた。相変わらず黙ってグラスとにらめっこをしていたガイアも、ディルックの様子に気付いたのか慌ててカウンター前の席から立とうとした。
    「いい、座っていろ」
    「いいってお前、店閉めるんだろ……」
    「まだ話が終わっていない。帰ることは許さない」
    「……そうかよ」
     有無を言わせず、ディルックがきっぱりと告げるとガイアはまた静かになって椅子に座り、グラスを傾けて僅かに垂れてきた酒を舐めた。
     
     
     
     
     
     ◇
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