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    morimori

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    morimori

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    【鍾タル】素材を取りに行く鍾+タル+旅人の話。カプ要素が毎度のごとく極薄なんですが一応鍾タルです🦀

    ##鍾タル

    砂浜にて砂浜にて(鍾タル+旅人) @ruauiue砂浜にて(鍾タル+旅人) @ruauiue 
     ザザァン——
     潮の香りに満ちた風が吹きすさび、遠慮のない陽光が降り注ぐ。足元は焼かれた砂から立ち上る熱気で僅かに熱い。渡り鳥の鳴き声が遠くから届く。
    「海だねえ」
    「海だな……」
     岩の上に腰掛けつつ暇を持て余し、独り言を言ったつもりの青年は、応えるような声が右後方から聞こえてきたので思わずそちらを見た。振り返れば、目に痛いほど眩く光を反射する砂には到底似合わぬ、黒い出で立ちをした男がしかめ面で立っていた。その男越しに視界に映った水平線上には、突き出した岩が点在しているのが見える。
    「やあ鍾離先生。先生も相棒に呼ばれてきたの?」
    「こんにちは公子殿。旅人のことか。ああ、探索に付き合ってもらいたいから現地で合流しよう、と、三日前に」
    「俺もそんな感じだよ。まさかその現地が孤雲閣だとは思わなかったけど」
     そう言いながら辺りをぐるりと見回す青年、タルタリヤに鍾離は「うん」とも「ふむ」ともつかない曖昧な短い返事を返した。
    「まあ先生はいいとして……俺がここを彷徨いているのはどうなのかな?」
    「ふっ、旅人も信頼しているということだろう」
    「それって、俺が今は下手なことやらかさないだろうって信頼? それとも何があっても問題なく防げるっていう抑制する力への信頼?」
    「ははは、俺が答えるべきことではないな」
    「この……」
     タルタリヤが目を細めて鍾離のことを睨み文句の一つでも言ってやろうかと算段を立てていると、砂を踏みしめるザッザッという足音が近付いてきた。警戒の必要がない軽そうな足音だ、子どもくらいの。そして気配は二人分。
    「ごめん、遅くなった」
    「オイラもう疲れたぁ……」
    「えっ、隣でふよふよ飛んでただけだよね?」
    「むー!! 飛ぶのだって疲れるんだ!」
     軽快なやり取りに思わず「ふ」と息を漏らすと、同時にもう一人分それが重なった。それから案の定、いつも宙に浮かんでいる小さな生き物がそれを聞き咎めて「何笑ってんだよ!」と喚いている。
    「あはは、ごめんごめん、おチビちゃん」
    「ああ旅人、遅れたことは気にせずともいい。まだ日も高いからな」
    「ここに来る前に片付けておこうと思った依頼がちょっとしたトラブルで滞っちゃって……そうは言っても時間を無駄にしちゃ申し訳ないから、早速だけど移動しよう」
     眉を八の字にした金髪の子どもは、言いながら目的の方向を示すように視線を向けた。にこりと微笑んだタルタリヤは、腰掛けていた岩の上からすっくと立ち上がるとスラックスに付いた砂粒を払った。鍾離の方も旅人に同意を示すように頷いている。
    「そうこなくっちゃ。それで? 相棒、今日はどんなことをするんだい? そういえばこの辺りには遺跡守衛が何体も放置されている所があるんだっけ? あれならおやつくらいにはなるかな……」
    「タルタリヤ、悪いけど今日は無闇に戦う予定はないよ」
    「えっ? 俺を……呼んでおいて……?」
     その顔があまりにも悲壮に見えたのか、笑いを堪えるように口元を歪めた旅人はタルタリヤから視線をそらして咳払いをした。
    「そういや伝えるのを忘れてたけど、今日は素材を拾うのを手伝ってほしい日だから。戦闘は二の次」
    「……俺を呼んでおいて? しかもその上鍾離先生までいるのに?」
    「諦めろ、公子殿。どうせ内容をよく聞きもせずに快諾したのだろう」
    「一応二人を呼んだ理由もあるんだよ。たまたま都合がついたのが二人ってのもあるけど。鍾離先生には鉱石の採取を主に手伝ってほしくて……」
     そこでちょっと間をおいた旅人は、ちらりと鍾離の顔を窺いみてからタルタリヤへと視線を戻した。
    「タルタリヤにはカニと鳥肉を獲ってほしい」
    「俺は猟師じゃないんだよ、相棒」

     気配を消すことを意識しながら、静かに深呼吸を一つ。一点を集中して見つめる。強い日差しに目が焼かれてしまわないように目を細めて光の量を調整しながら、狙うべき場所を静かに見極める。息を吐きながら、力を入れていた右手から力を抜き、放つ。間髪入れずに次の一矢をつがえて、一発目が届くより先に射る——
     岩に隠れて見えていなかった場所に潜んでいたらしい獲物が慌てたように飛び上がろうとするのを見て、それを頭で認識するより早く三回目の矢を放った。ギリギリで当たったらしく、その肉が地に落ちるのが見える。
    「はあ……」
    「ありがとう、タルタリヤ。順調だね」
     それを見守っていたらしい旅人がにこやかにタルタリヤを労った。すると複雑そうな顔をしたタルタリヤは、「鳥肉採取で褒められても嬉しくない」と嘆く。
    「鳥肉は大事なのに」
    「食料は確かに大切にするべきだけどさ……」
     四人で連れ立って海辺を歩きながら撃ち落とした鳥肉を集めていると、不意に旅人たちがあっと声を上げた。一瞬期待が胸に湧き上がってきたタルタリヤだが、同時に期待するべきじゃないと苦々しく自分を戒める。
    「カニだ! タルタリヤ、ほら手伝って」
     やはりこうだ。駆け出してカニを追う旅人とパイモンにならって走り出したタルタリヤは、ふと声をかけられなかった一人の方を見た。金珀の瞳と目が合う。その男は腕を組んで微動だにしていなかった。タルタリヤの視線には「なんだ」とでも言いたげな顔をしている。ずっと後ろを振り返りながら走るわけにも行かず、タルタリヤは前へと顔を戻した。

    「二人のおかげで助かった。水晶もカニも鳥肉もいっぱい必要だから」
     日が傾いてやや赤みを帯びた光を浴び、不思議な収容力のあるカバンに収めた戦利品の数を数えた旅人は満足気に笑って礼を伝えた。
    「これくらい構わない」
     鍾離を横目で見たタルタリヤも、流石に一つのことでずっと拗ねるような男ではなかったので、旅人に向かって微笑んだ。
    「たまにならこういう日も悪くなかったよ。暴れられたらもっと良かったんだけど……ともあれ、また誘ってくれ相棒。ところでさ」
    「なに?」
    「……ああ、いや。やっぱり何でもないんだ」
     旅人は首を傾げていたが無理に聞き出すつもりも無かったらしく、カバンを片付けると解散を告げた。
     太陽はすっかり沈みつつあり、足元も薄暗くなっている。旅人たちはまだ子どものうえ、冒険者は身体が資本だから、早く返して休ませた方がいいだろう。特に引き留める理由もなく別れの挨拶をする。今日は何を作って食べようと相談しながら離れていく小さな二人の後ろ姿を見送って、タルタリヤは隣に佇む男に声をかけた。
    「鍾離先生」
    「なんだ?」
    「聞きたいこと、いや。言いたいことがあるんだけどさ」
    「先程旅人に言いかけていたことだろうか」
    「正解。流石だ……ふふっ、先生って……」
     くすくすと笑い出すタルタリヤに、身体の向きを変えてタルタリヤの方を見た鍾離が怪訝な顔をしているのが、顔を見なくても伝わってくる。
    「あっはは、これからも同行する時は俺が先生の代わりに水産物を取ってあげるから、せいぜい感謝してくれよ」
    「……旅人の前で言わなかった気遣いを俺にも向けられないのか?」
    「先生に? まさか! 必要ないだろ」
     けらけらと笑うタルタリヤに、鍾離は呆れたようにはあとため息をついた。
     潮風が頬を撫で、波音が絶え間なく奏でられている。人工の明かりもなく、人気ひとけのない孤雲閣は実に静かだ。耳をすませばきっと、難を逃れたカニの生き残りが砂を掘る僅かな音が聞こえるに違いない。
     それを探し出して、かつて武で名を馳せた元神様たる隣の男の目の前に差し出してやったら、どんな顔をするだろう? けれど、今それをするには勿体無いな、とタルタリヤは闇に紛れた男の顔を見つめて思う。
     まだ、もう少しだけこの風を浴びていたい。
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