再会 龍捲風+陳占 さて、30年ぶりに会う男に何を言ったものか。
近づいてくる男の姿を視界に捉え、顎を撫でながら陳占は思案する。黒かった髪は灰銀色変わり、遠目から見てもシワが増えたがそこにいるのは間違いなくかつての友だ。
懐かしい姿に向かって右手を上げて呼びかける。
「よぉ、阿祖…」
久しぶりだなと言おうとしたその瞬間、
「信一は!?洛軍は!?あいつら誰もこっちに来てないだろうな!!??おい、どうなんだ!!」
胸ぐらを掴まれ、流石は龍捲風と言いたくなる鬼のような剣幕で詰め寄られた。正直このまま頭突きでもされるのかと思うほどの勢いに、数十秒前の悩みは彼方へ吹き飛んだ。おい、久しぶりに会った友人への第一声がそれか。なおもこちらを睨みつけてくる男に、
「お前の息子も俺の息子も無事だよ。他の二人もだ」
そう伝えると、胸ぐらを掴んでいた手は力なく下ろされ、一瞬安堵表情を見せた後、今度は悲痛な顔で黙り込んでしまった。あれだけ痛めつけられて、無惨な死に方をしたというのに自分のことなどどうでもいいらしい。今は愛する養い子を筆頭に、残して来た者たちが心配なのだろう。
あぁ、こういう奴だった。
才能はあるのに全くもって黒社会に向いてない。大体なんだ理髪店の店主って。あと九龍城砦安全委員会主幹と福祉委員会会長だっけ?お前はこの俺、殺人王を殺した男、龍捲風だっていうのに。自分の周りにいる人間たちをそんなに慈しんで、愛して生きてきたのか。守って来たものはもう両手に抱えきれないんじゃないかは
そうだ、こういう奴なんだ。
だからあのとき自分の妻子を逃がし、その後30年間砦を守り続け、そして今もまた息子を逃がしてくれたのだ。文字通り命をかけて。
まったく変わらないな。
懐かしさと、自分がいなかった日々を思ってのほんの一欠片の寂しさを胸に、相手に気づかれないようこっそり口の端を上げて笑む。
昔、お前は髭剃りの練習台になった俺を義理堅いと言ったが、その言葉をそっくりそのまま返してやる。
記憶よりもだいぶ薄くなった肩に手を置くと、俯いていた龍捲風が顔を上げた。まっすぐにその目を見つめながら30年間言えなかった言葉を口にした。
「昔も今もよく息子を逃がしてくれた。礼を言う、阿祖」
お前はよくやってくれた、友よ。息子たちはきっと大丈夫だ。殺し合うしかなかった俺達とは違う強さを持っているから、きっと前に進める。信じて見守ってやろう。それが今の俺たちにできる唯一のことだ。だからお前も少し休んで、俺に思い出話でもしてくれよ。