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    り幻覚

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    り幻覚

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    買い物に行く話

    ふたりのための「まだかよ…」

    圭くんが、疲れきったような口調でぼそっと呟いているのが聞こえた気がする。申し訳ないと思いつつ、次の服の試着に取り掛かる。やはり彼は乗り気じゃないようだ。



    圭くんを買い物に誘ったのは数時間前。外で着れるような服が少ないから一緒に服を選んでくれないかと頼みこんだ。

    「はあ?なんで僕なんだよ、女友達と行けばいいだろ」

    案の定断られる。彼がインドアなのは知っているし、服も同性の友達の方が理解があるだろう。

    「私にあんまり仲良い友達いないの知ってるでしょ、圭くん」

    「僕はヤダね」

    お願いだから、と強引に彼の腕を引っ張ろうとすると、すぐさま手を払いのけられる。一瞬本気で嫌われたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

    「分かった、分かったから。ついてけばいいんだろ」

    …こういう所も分かりきっている。圭くんは案外押しに弱い。



    「これでいいかな」

    やっとか、と圭くんが少し安心したように呟く。彼も私もどっとくたびれたので、せっせとレジで支払いを済ませ、店を出た。

    「お前さ、なんであんなに僕と行きたがってたの?」

    「…だって、圭くんに変だって思われたくないから…ちゃんと好かれたいから」

    圭くんが呆れたような顔でため息をつく。

    「そういうのが1番困るんだよ。自分のためにオシャレしようとか、自分のために生きてみようとか思わないワケ?なんで僕のために…」

    それはそうだろう。彼がしつこくされるのは嫌という事は分かっている。
    けれど、これは彼のためでもあり、私のためでもある。

    「圭くん、これは私がしたいからしてるんだよ。それに、生活の全てを圭くんに捧げるワケじゃない。さすがにそれは無理」

    彼が少し目を丸くしてこちらを見ると、あそう、と口にする。

    「…でも圭くんのことは、それくらい、大好きだよ。本当だよ。」

    いざ正直な気持ちを言葉にしてみたけれど、かなり恥ずかしいことを言っていると思う。顔から火が出そうだ。

    「……じゃあ勝手にしろよ、もう」

    そう口にすると、圭くんはそっぽを向いてしまった。耳が赤い。彼も少しは自分と同じ気持ちなのだろうかと思うと、嬉しくなって、更に顔が熱くなる。

    「…ちゃんと着てこいよ」
    「え?」
    「だから…僕と一緒に買ったなら、ちゃんと僕と出かける時に着てこいよって。お前、買って満足する事多いだろ?無理に強要はしないけど、その方が」

    僕は、と言いかけた所で圭くんの言葉が途切れる。
    彼のこういう素直になれない所に、彼らしさがあり溢れていて、愛おしいなと感じる。
    こういう所がズルい。

    「…そういうトコだよ、圭くん」
    「はあ?」
    「なんでもない」

    平和で愛しい日常は、続いていく。
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