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    のめろう

    @nome153

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    のめろう

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    「仁王くん、私何度も言いましたよね。制服を着崩すのは校則違反です」
    もうあと幾分かで四時間目始まりのチャイムが鳴るというときに想像もしていなかった声が頭上から降ってきて仁王は少し驚く。
    「なんでお前さんここにおんの。もう授業始まるじゃろ」
    登校日数ギリギリを常に攻めている仁王とは違い柳生はウチの学校きっての優等生だ。そんな柳生が授業をサボるなんて到底考えられない。
    「なんでって……次は体育でしょう?」
    「お、おん体育やね?」
    確かに次の授業は体育である。しかし仁王には次の時間が体育なことと、柳生がこんな時間にここにいることがうまく結びつかず首をかしげる。
    目の前で首をかしげている仁王をみて柳生はわざとらしくため息をついた。
    「わかっててここにいるんですか」
    やれやれまったく仁王くんは
    そう言いながら柳生は同じように仁王が寝転がっていた木陰に腰を下ろす。仁王のものと違い、いつでもパリッとしている制服がなにも敷かれていない地面に触れる。
    「よごれる」
    「え?……ああ、かまいませんよ土埃くらい。はたけば落ちます」
    無意識に出ていた言葉を拾われて少し恥ずかしくなったのと同時に勝手に潔癖だと思っていたので返答に仁王は面食らう。
    「今日は体育でられないのですか?あなたいつも体育はでるでしょう」
    柳生の言うとおり普段から授業をサボりがちな仁王にとって一番出席率が高いのは体育だろう。しかしそれもほかの授業に比べたら比較的というだけであってサボるものはサボる。
    「今日の仁王くんは店じまいじゃ。また明日きんさい」
    けだるげに右手を上げひらひらと振る。今日は動くにしてはいささかだるすぎる。昨日見たレイトショーが思いのほか面白く、興奮冷めやらぬまま二時ごろまで起きていたのがいけなかったか。本当は学校ごと休むつもりであったが、つい最近真田を怒らせたばかりなので新たな火種を持ち込むのは勘弁したい。
    「今日の体育はテニスですよ」
    まぁ、それはそうだろう。
    A組とB組での合同体育なのだから行う種目は当たり前に一緒で先週に引き続きテニスであることは仁王にもわかっている。
    テニスは好きだが部活以外で進んでやるほどではない。というか立海テニス部以外のテニスを知らない仁王にとって未経験者とするテニスは塩梅がわからず、やりずらいというのが本音だった。
    「今日からダブルス練だそうです」
    「あーそういえばそんなことも言ってたの……」
    まずはラケットに慣れるために練習の時間を一時間。次の時間からはダブルスを組むから誰と組むか決めておけと体育教師のよっちんが言っていたのを思い出す。
    マンモス校である立海において体育はたいてい二人一組でおこなわれ、タッグバトル形式が採用されている。これには合同体育で他クラスの生徒とも仲良くなることを期待しているんだろうなと思う反面どうせいつも同じ奴としか組まないのだから関係なよな、とも思ってる。
    「授業をサボったと真田君にばれたら大目玉をくらうのでは?」
    「うまくごまかしといてくんしゃい。俺は今眠いんじゃ」
    やけに食い下がるな、こいつ。
    いつも仁王がサボろうとしているのを見かけても形だけ声をかけさっさと行ってしまうのになぜ今日に限ってしつこいのだろう。
    体育のテニスと部活のテニス。大切なのはどう考えても後者だ。そのためにも余計な体力は使いたくない。これくらい言わなくても柳生には伝わっているはずなのに。
    「ほんじゃ、やぎゅーさんはがんばりんしゃい」
    柳生の座っている側を背にするように寝返りをうち重たい瞼を閉じる。きっと真田には柳生がうまくいってくれるだろう。言ってくれなくても言い訳はいくらでもある。われらが鬼の副部長様はまっすぐなところが美点だが、だまされやすいところが欠点だ。
    「仁王くんは……私に違う人間とダブルスを組め、と?」
    閉じていた瞼を開け柳生の方を見る。
    「あなたが私をダブルスに誘ったんでしょう」
    逆光で柳生の表情を読み取ることはできない。ただ、こういう時この男は涼しい顔をして言ってのけるのだろうという確信はあった。
    「おまえさん、ずいぶんかわいいこと言うのう……」
    あ、顔背けた。
    柳生のパッシングショットはそれだけで戦況を覆せるほどの威力とインパクトを持つ。ゆえにこの男はシングルスでも十二分にやっていける気兼ねがあるのだ。
    その男を自分の私欲のためにダブルスに引き込んだ。仁王は言葉にはせずとも心のどこかでいつもそう思っていた。その男が、そんな男が自分とのダブルスを求めている。ダブルスパートナーとして自分を求めている。
    眠気などとうに消えていた。
    「柳生さんがご所望ならしかたないの」
    上体を起こし髪についた芝を払う。口角が上がっているのは気づいていたが無理に表情を取り繕う気はなかった。
    「遅いんですよ」
    「すまんすまん。やぎゅーさんがそんなに俺のことをすいてるとは思わんくてな」
    からかうように言うと背中にこぶしが飛んでくる。こいつのこぶしは男らしく骨太なので芯があり地味に痛い。文句の一つでも言ってやろうかと口を開いたところで授業開始のチャイムがなる。
    「遅刻じゃの……」
    「……遅刻したのは君のせいですからね」
    無意味に眼鏡の位置を直しながら柳生が言う。これは気恥ずかしい時の癖。
    「おーおー。まかせんしゃいどんな罪でもなんでもかぶってやるぜよ」
    早く立ちたまえ。着替えますよ。
    そう言い、先に立ち上がってこちらに手を差し伸べている柳生の手を取る。恥ずかしがってるのに紳士的な態度を崩さないこいつのそういうところがいっとう好きだ。
    「なんせ俺はおまんのダブルスパートナーじゃからな!」
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