翌日の出陣について変更があり、出陣予定の部隊に入っている明石さんの部屋(というか来派の部屋)を訪ねると、戸は開いていて小さな寝息が聞こえた。明石さんは今日は非番、愛染くんと蛍丸くんは出陣中で不在。
今まで男士の、それも明石さんの寝顔なんて当然見たことがなかったので珍しいこともあるなと書類を机に置いて寝顔をまじまじと眺めてしまった。机に突っ伏して寝ている明石さんの眼鏡は外されていて、そういえば眼鏡をしていない顔も初めて見るなあとか、眼鏡をしてないとちょっと幼めに見えるなあとか、やっぱり男士は寝顔も綺麗だなあとか、いろんなことを考えていたら不意に手をきゅっと握られる。
「……国宝の寝顔は高いで?」
いつから起きていたのか、そう言って目が見開かれた明石さんの顔は見たことのないへにゃりとした笑顔で、不覚にも可愛いと思ってしまいそしてドキドキしてしまい。
「お、おいくらですか」
照れ隠しにそう返すのが精一杯で。
「せやなぁ……主はんの今後の人生とか」
「……え?」
「なぁんてな、冗談や」
とても冗談には聞こえなかったけれどそこからを深く聞くのは何となくやめておいた方がいい気がしたので、やめた。というか私たちそういう……恋仲とかではないし。
「それで、何か用があったんちゃいます?」
いつのまにか眼鏡をかけていた明石さんに言われ。
「あ、明日出陣に変更があったのでその報告に」
「さようですか」
変更について明石さんに伝えると、私は来派の部屋をあとにする。
「はぁ……ドキドキした……」
後ろ手に戸を閉めるとそうひとりごちる。ドキドキしたのは初めて見た明石さんの寝顔や眼鏡を外した顔を見たせいなのか、冗談だと言われたあの言葉のせいなのかはわからない。
「人生くださいっていうんは冗談やないけど、まぁおいおいな」
そう笑った明石さんの独り言は、私の耳に届くことはなかった。冗談じゃなかったのはその後ゆっくりと時間と期間をかけて存分に思い知らされたのだけれど。