夜、急に明石さんが私の部屋に来たと思ったら、「今日はちゅーの日なんですて。たまには主はんからしてくれへん?」と唐突に言われ。
「急ぎの用事かと思ったら。と、突然、何ですか……だいたい、そんな日だなんて知りませんよ……」
「めっちゃ急ぎの用ですやん。自分もさっき知りましてなあ。もう夜やし、はよせんと今日終わってしまうやんと思って、こうして来たわけですわ」
目の前の恋刀は、あっけらかんと言い放つ。しかもなんかちゅーとか可愛い言い方で。いえ、可愛く言われても恥ずかしいものは恥ずかしい。
私からしたことはほとんどないし、いつもしてくれるのは明石さんからだし、その、キスをした回数自体もそんなにないし、まだ審神者と刀剣男士の関係から、こいびとという関係性の名前がついてから日が浅いし。
なんて、そんなことをぐるぐると考えていると、片方の頬が明石さんの手で包まれ、顔が近づく。
「なあ、してくれんとこのままやで?」
耳元で囁かれた声と、空いたもう片方の手で眼鏡を外すその仕草に心臓が飛び跳ねる。これはもう逃げられない。ええいままよ、と意を決して、明石さんの唇に自分の唇を重ねた。瞬間、ふ、と微笑まれた気がしたけれど本当にどうだったかはわからない。
しばらくしてゆっくりと唇が離れ、視線が合うと、慈しむような優しい目で見られていて、さっきとはまた別の気持ちで心臓が飛び跳ねた。
「ん。よくできました。ごちそうさまです。ほんとはこのまま続きしたいですけど、それはまた今度改めて、な?」
頭をぽんぽんと優しく撫でられて、最後にもう一度唇を重ねられ、それを受け入れた。ああもう、このひとには敵わないな、そしてそんな振り回されてる自分も嫌いじゃないからたいがいだなと思いながら。