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    【エイみし】三嶋左近の仮面の剥ぎ方 この無機質な真白い部屋に〝収容〟という名の軟禁と監視をされはじめてから、一体どれくらいが経っただろうか。その日暮らしな前の生活よりは幾分か生きやすいが、それにしたって変わり映えのしない毎日を送るのはひどく退屈だ。楽しいことを挙げるとすれば、ほとんど義務みたいな作品制作と、それから三嶋左近とかいう男との世間話くらいである。

     夕食の回収を兼ねた進捗確認と言って今日も部屋にやってきた彼は、描きかけのキャンバスをじっと見て「ふむ。これは……貴方を保護したときに描いていたものに似た骸骨ですか」だの「やはりエイスケさんの作品は素晴らしい!」だのと言った。

     三嶋さんは、常に仮面を付けているような人だと俺は思う。こちらが何を言っても、まるで入社面接みたいに答えを用意していたがごとく流暢に言葉を返すのだ。俺がムカつくのはこういうところで、なんとかこの隙のない男の心の内を暴いてやりたいと思うようになった。

     彼が乾かし途中の作品の前へ歩いていくので、「それまだ乾かしてるから触んないでね」と釘を刺す。

    「えぇ、もちろん」

     三嶋さんは一歩下がった。

     彼はいつも熱心に俺のスプレーアートを見る。きっとそれは、俺以外の作品にも同じような目を向けているのだろう。この姿だけは、彼の素なのかもしれない。

    「画材などが足りなくなった際には、言っていただければいくらでもご用意いたしますので」

     キャンバスからこちらに目線を移して、彼は言った。どうやら今日の作品鑑賞は終わったみたいだ。テーブルの上のトレーを片手に持ち、「では」と言って、またニコリと貼り付けたような笑みを浮かべる。ポケットから薄いカードキーを取り出し、そのまま部屋を出ていこうとする彼を、俺は思わず──

    「待って」

     ──引き止めた。何をしたかったというわけではない。ただ、気がついたら三嶋さんの腕を引いていた。

    「……どうかなさいました?」

     振り返った彼の声は相変わらずのトーンだが、少々の動揺を孕んでいる。俺がこうして触れるのが珍しいからか、それとも違う理由なのか。

     俺が黙ったままでいると、三嶋さんは口を開いた。

    「あまり特定の方の部屋に長くいるのは宜しくないんですがねぇ。保護対象に我々職員が特別な感情を抱いてしまったとなったら些か問題でしょう? なんせ今は多様性ダイヴァーシティの時代ですから、性別関係なくそういう規則になっているんですよ」

    (あぁ、いつものだ)

     少し落胆する。ぺらぺらとよく回る口だ。

    「ねぇ。あんたってさ、結局は誰の作品が一番好きなわけ?」

     男は驚いたように目を丸くして、それからいつもの調子に戻る。いや、心なしか頬が赤い気がする。

    「皆さんの作品はどれも素晴らしいものばかりですから、どれが一番というのは……あぁ、しかしエイスケさんの作品は特に影響力を──」

    「そういうのじゃなくて。あんたの好みの話なんだけど」

     三嶋さんの瞳が揺れた。もしかすると、この調子でいけばこの男の仮面の裏を覗けるかもしれない。

    「……そうですねぇ。私は──」

     長く溜めて、やっと答えを聞けそうだと思った次の瞬間。

    『消灯時間になりました。保護対象の部屋にいる職員は、直ちに部屋を出て施錠し、監視室に戻ってください。繰り返します。消灯時間になりました……』

     ブザー音が鳴り、施設内がバタバタと忙しくなる。

    「この話はまた今度にしましょう」

    「ちょ、おいっ、待ってよ!」

    「それではおやすみなさい、エイスケさん」

     俺が引き止めるのも無視して、三嶋さんは部屋を出ていってしまった重いドアの閉まる音が、心なしかいつもより大きく聞こえた。くそっ、逃げられた。せっかく上手く行きそうだったのに。

    「はぁ……」

     一人になった部屋で、大きなため息をつく。

     それにしても、どうして俺はあの男を引き止め、あんな質問をしたんだろう。ベッドメイキングが済んだそれに身を投げてから、考えようとして、やめた。なんだか最悪な答えに辿り着きそうだったし、一度それを意識してしまえば面倒なことになりそうだったから。

     明日、三嶋さんが来たらどんな顔すりゃいいんだ。
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