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    【マジトリ】雪合戦 アラビアンコーストでは珍しい、雪の降った翌日のことである。振られた仕事が少なかったこともあり早々に午前の分を片付けた私は、休憩がてら上着を羽織って宮廷を出た。

     今日もこの街は朝から賑やかだ。積もった雪をざっくざっくと踏みゆきながら何か面白いことでもないかと散歩をしていると、どこからか騒ぎ声が聞こえてきた。この感じからするに、さほど遠い場所というわけでもなさそうだ。喧嘩でも起きているのだろうか。もしかするとインチキマジシャンが何か問題を起こしているのかもしれない。一度そう思ってしまえばいてもたってもいられなくて、私は声のする方へと早歩きで向かった。

     近づいていくと、どうも聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

    「シャバーン様! 絶対勝ちましょうね!」

    「あぁ勿論だ、アシーム! 若造にワシらの力を見せつけてやる!」

     ……あぁ、彼らだったのか。肩に入っていた力が抜けていくのが分かる。そのまま角を曲がると、そこにはいつもの面々──アシーム、シャバーン、そしてクロちゃんの三人だ──とマジークがいた。どうやら最強マジシャンと名高い旧友が知らぬ間に来ていたらしい。春や秋にこうしてアラビアンコーストに帰ってくるのはよくあることだが、冬にいるなんて珍しいこともあるものだ。

     先ほどは声の出処の特定を急いでいたので気付かなかったが、そこはシャバーンとアシームの住む家の裏だった。

     なんだ、これならナウラやレイハーネも連れ立ってくれば良かったな。そう思いながら、少し離れたところから試合を見る。どうやらアシーム、シャバーンチームと、マジーク、クロちゃんチームに分かれているらしいそれは、存外白熱しており見ていて面白い。

    (もうそろそろ宮殿に戻るか)

     そうして踵を返そうとしたそのとき、アシームと目があった。すると彼はにこっと人懐っこい笑みを浮かべ、こちらに大きく手を振った。

    「あっ、フリード! サラーム!」

    「アシームじゃないか、サラーム。また随分と楽しそうなことをやっているね」

     私も倣って手を降ると、アシームが白い息を零しながら小走りに近づいてきてくれる。そのふっくらとした丸い頬とちょこんと尖った鼻先は少々赤くなっており、私がここに来る前からこうしてみんなで雪遊びをしていたのだろうと推測できた。

    「マジークが旅の寄り道にって来てくれたから、偶然通りかかったクロちゃんも一緒にみんなで雪合戦してるんだ! フリードも一緒に……って、お仕事中だよね。ごめんなさい!」

     そう言ってばっと勢い良く頭を下げるので、いささか申し訳ない気持ちになってくる。

    「いや、今は休憩中なんだ。だから──」

     心配しないで。そう続けようとすると、奥からクロちゃんの焦ったような声が聞こえた。

    「クロちゃんアターック! ──あっ! やばい!」

     それからすぐに視界に飛び込んできたのは、白い塊。突然のことに避けられず、それをそのまま顔に受けた。ベシャ、と落ちたひどく冷たいそれは雪だ。力の強いクロちゃんが投げたであろう雪玉の威力は想像以上に強く、遅れて鼻先がじんじんと痛んでくる。ちらりとクロちゃんに視線をやると、彼は「ごめん!」と両手を合わせて謝った。

     よし、先ほどアシームも誘ってくれたことだし、ここは正々堂々クロちゃんにお返ししてあげよう。

    「私もこちらのチームに加勢していいかい? シャバーン、アシーム」

     大人二人対私たち三人なら、あまり力の差も出ないだろうし。そう言うと、アシームは嬉しそうに笑った。

    「うん。勿論だよ! シャバーン様もそれで良いですよね?」

    「ふん、仕方ないな」

     シャバーンからの了承も得たので、私はアシームの隣に立った。

     久しぶりに本気を出すとしようかな。
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