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    【マジトリ】ラッシーと僕「よし、ペロちゃん、今日も一緒に頑張るぞ!」
     朝一番。今日も早くに起きて僕をも起こし、にかっと笑顔を向けてきたのは、僕の飼い主のクロイツだった。こいつは僕のことをペロちゃん、なんていう随分と可愛い名前で呼ぶ。仕方なしに今日も紫のターバンに乗っかってやれば、クロイツは満足気に笑ったのちに杖を持って家を出た。
     飼い主が軒先から出ると、カンカン照りの太陽が僕のツルツルな体を焼き始める。今日は夕方から随分と冷えそうねぇ、なんて呑気な声がどこからか聞こえてくるけれど、もちろんまだこの時間は熱くて、体温が勝手に上がる僕でもだるくなってくる。あぁ、早く日が暮れないかな。大きなターバンに体をもたげても、まったく涼しくない。前に付いてるキラキラもダメ。最初はちょっと冷たいけどすぐに熱くなるし、目が痛くなるんだ。キラキラの代わりにラッシーなんて付けてくれたら、すぐに巻きついてやるのに。
     今日も今日とて、僕らの住む港町――アラビアンコーストは平和この上ない。フリードとかいう空に似た色のマジシャンが監視しているのもあるのだろうか。
     最近の飼い主からは、いつも似たような言葉が出てくる。前まではジャファーサマだけだったのが、シャバーン、アシーム、マジーク、ナウラチャン、レイハーネチャン、そしてさっきのフリードと、どんどん増えているのだ。飼い主より小さい僕の頭は、きっともう少しでパンクする。
     なんだか涼しくなったと思ったら、カスバ・フードコートとやらに着いたらしい。ここは好きだ。いつも日陰があるし、スパイスの良い香りがする。それのせいかたまに目が痛くなるけれど、それでもここはひどく居心地が良かった。
    「なんか食べたいものある? 朝ご飯にしよう」
     考え事に耽っていると、クロイツが言った。なに、食べたいものだって?
    「ここに売ってるのは……カリーが二種類と、期間限定のタンドーリチキンなんてのもある。あと、ラッシーと――」
     ラッシー! 願ったり叶ったりだ!
     メニュー表を指している飼い主の大きな指に、僕は素早く舌を巻きつけた。
    「ラッシーがいいのか? 私なにか食べたいんだけど……」
     クロイツがこちらを見上げてくるので、大袈裟なくらいに首を振る。僕は寝る前にそこらをうろちょろしていた太ったネズミを食べたばかりでお腹も空いていないし、飼い主だって昨晩大きなカリーを食べたのだ。ナンも三枚。絶対にお腹なんて空いてない。
    「じゃあ、チキンとラッシーにしよう」
     そうして食いしん坊なクロイツが二つを注文して、目を閉じながらラッシーが来るのを心待ちにしていたとき――
    「あれ、シャバーンとアシームか⁉」
     ……出た。またその言葉。いや、ナマエと言ってやるべきか。きっとクロイツの視線の先に、エラソーでうるさい赤ヒラヒラおじさんと、金色の揺れるのを頭からぶら下げているちっちゃい男の子がいるに違いない。多分うるさいのがシャバーン。いかにもうるさそうな名前してるし、男の子に「シャバーンサマ」と呼ばれているのを何度も聞いている。二文字違いなんて大した差じゃないだろう。
     飼い主が頭を動かせば、ターバンが動く。ターバンが動けば、僕も勝手に動かされる。ちらりと目を開けてやれば、やっぱり見慣れた二つの顔。アシームであろう男の子が大きく手を振っているのが遠目からでもよく見える。
    「お待たせしました。タンドーリチキンとラッシーです」
     二人に気を取られていると、ふとそんな声が聞こえてきた。クロイツがそっちを向くのと同じタイミングで、僕もそっちを向く。きっと、僕の目も飼い主の目も輝いていた。変な模様の硬い板の上で、ちょうどアシームの服とシャバーンのマントが混ざったような色の冷たいラッシーが、僕を待っている!
    「ちょっと、ペロちゃん! お行儀悪いでしょ!」
     そうクロイツが言ったけど、そんなの知るもんか。すぐにクロイツの太めの腕を通ってターバンから下り、水滴のついたそれに全身を巻きつける。
     はぁ、ラッシーってほんと最高。冷たくって、巻きつきやすい形をしてるんだもん。これより良いものってないと思う。
     そうしてラッシーに夢中になっていると、さっきまで遠くにいたシャバーンとアシームが近くに来ていることに気付いた。正確には二人が来たんじゃなく、きっとクロイツが行ったんだ。
    「わぁ〜! ペロちゃん、久しぶり! 元気だった?」
     この二人――特にアシームは、やけに僕に触ってくる。今も僕の鱗を撫でているけど、今は気にならなかった。
     だって僕には、ラッシーがいるから!
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