待ち合わせ「待ち合わせをしてみたい。」
隣で本を読む相手から突如として告げられた言葉。本当に唐突過ぎて一瞬何を言われたのかわからなかった。同じ部屋に住んでるのだから待ち合わせも何もなくねぇか?と首を傾げる。
「この本に書いてあった。でぇとには待ち合わせが必須なのだろう?そして相手を待つ間の気持ちは何にも変え難いものだと。そしてお前は俺に人間らしくなってきたと言った。ならば今ならその気持ちが分かるんじゃないかと思ってな。」
淡々と告げる相手の気持ちが分からんでもない。確かにこいつは今まで感情が人一倍抜け落ちている感覚はあった。ましてや自分から何かをしたいなど言うこともなかった。そんな彼からの欲求だ。彼氏としては叶えてやりたいという気持ちもある。うーんと考え思いついたのは部屋を出る時間を30分程ずらして現世に行くって言うのはどうかということ。流石に感情に疎い相手でも30分も待てば何かわかるんじゃねぇか。そう提案してみると嬉々として頷かれた。ならば早速と計画を立て明日決行することにした。そしてどうせなら何かプレゼントしてぇなぁ。その方が喜ぶかもしれねぇし。そう考えながら翌日を迎えた。
「じゃあ先に行く。」
そう告げる相手に手をヒラヒラさせながら見送る。相手が家を出たあと直ぐに行動しようにも今出ていけば、ばったり会ってしまうかもしれない。早く行動に移したい気持ちを必死に抑えるかのように部屋で出る支度をする。そして約束の時間より10分ほど早めに部屋を出て現世に向かう。彼奴が珍しく見ていた青い色のピアスを買う為に。
店に行くと、現世では休日だったらしい。以前に来たよりも人が多く商品を手に取るにも一苦労するような状態だった。間に合うのかこれと不安になりつつもなんとか商品を手に取り会計へ進む。その時点で実は約束の時間になろうとしていた。焦る気持ちをなんとか落ち着かせ会計の順番を迎える。すると店員からプレゼント用ですか?と聞かれた。頷くとラッピングとやらをして貰えるらしい。どうせ渡すならとお願いする。ただ想定外だったのはラッピングは時間がかかるということ。そんな事知らなかった自分は易々とお願いしたことを後悔した。
約束の時間を過ぎてラッピング出来たものを受け取ると、急いで待ち合わせの場所に向かう。約束の場所に着くも相手は見当たらない。霊圧を探るも、やはり近くには居ないようで。人が多い中どこへ行ったと必死に探す。お互い携帯電話など持ち合わせていない。怒って虚圏へ帰ってしまったのだろうかと不安になると突然背後から衝撃が走る。何かがぶつかってきたような衝撃。何事だと戸惑っていると震えるような小さい声で
「遅い…30分という約束だろう…何かあったかと心配したぞ…」
と愛しい声が聞こえる。ゆっくり振り向くとそこには必死に探していた相手が涙を瞳に溜めながら上目遣いでこちらを見ていた。
「…わりぃ…お前に渡したいもの買ってたら遅くなった。」
そう告げると先程買ったピアスを相手に差し出す。
「これは…」
ラッピングされた袋を開け中身を見た相手は瞳に溜めた涙を零した。何か気に障ったかとあたふたしていると心配していた涙は嬉し涙に変わっていたらしい。まるで押し倒さんばかりに相手は抱き着いてくる。そんな可愛らしさにギュッと抱きしめ返すと
「お前色のピアス…ずっと欲しかった…」
そんな可愛い言葉を腕の中、消え入りそうな声で呟かれてしまったのだった。