言わぬが花 ――後ろから見ると女みたいだな。その言葉を言われるたびに、虫唾が走る。ぶっ殺してやるよ、クソッタレ。なんて品の無いありきたりな文句を舌先から血が出るほど噛み殺し、覆い被さる重さを渋々あまんじて受け入れ、ただひたすらに揺さぶられるしかない。
馬鹿馬鹿しいほど値の張るマットレスの上で、荒く息を吐きながら背後を陣取る男が政府の役人だろうが取引相手の重役だろうが、王九には関係の無いことだった。顔なんて、ほんの一瞬だけ向き合ったきりだ。覚えていられるはずもない。明日の朝には忘れちまう。男たちにとっての価値は果欄の王九を組み敷いていることであって、表情なんかに意味はなかった。のっぺらぼう同士、夜明けを待たずに死ぬ、一夜の狂騒だ。
乱れた髪の隙間からのぞくうなじに、生あたたかい吐息がかかる。肌がぞわりと粟立った。気色悪ィ、という言葉も飲み下す。どれだけ気色悪かろうが、朝まで耐える。そういう契約だ。自分が結んだ。王九が欲しい――否、果欄のボスが欲しがっている情報は、夜明けと共に手渡される。空が白むまでに、いったいどれほどの時間が必要なのか。窓の外に目を向けると、勢いよく髪を引かれた。掠れた声をこぼしていた王九の喉から「っ」と空気を絞るような音が抜けていく。