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    しおえ

    @coacoaxaat

    小説類

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    しおえ

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    モブ九。
    R指定未満くらい。
    ※縦書き試験運用
    ※タップで全画面表示になります

    言わぬが花 ――後ろから見ると女みたいだな。その言葉を言われるたびに、虫唾が走る。ぶっ殺してやるよ、クソッタレ。なんて品の無いありきたりな文句を舌先から血が出るほど噛み殺し、覆い被さる重さを渋々あまんじて受け入れ、ただひたすらに揺さぶられるしかない。
     馬鹿馬鹿しいほど値の張るマットレスの上で、荒く息を吐きながら背後を陣取る男が政府の役人だろうが取引相手の重役だろうが、王九には関係の無いことだった。顔なんて、ほんの一瞬だけ向き合ったきりだ。覚えていられるはずもない。明日の朝には忘れちまう。男たちにとっての価値は果欄の王九を組み敷いていることであって、表情なんかに意味はなかった。のっぺらぼう同士、夜明けを待たずに死ぬ、一夜の狂騒だ。
     乱れた髪の隙間からのぞくうなじに、生あたたかい吐息がかかる。肌がぞわりと粟立った。気色悪ィ、という言葉も飲み下す。どれだけ気色悪かろうが、朝まで耐える。そういう契約だ。自分が結んだ。王九が欲しい――否、果欄のボスが欲しがっている情報は、夜明けと共に手渡される。空が白むまでに、いったいどれほどの時間が必要なのか。窓の外に目を向けると、勢いよく髪を引かれた。掠れた声をこぼしていた王九の喉から「っ」と空気を絞るような音が抜けていく。
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    しおえ

    PROGRESS蛙仔によるルポルタージュ。
    信九、蛙→九、大←九(執着)、モブ九の要素が入る予定。
    ミステリーもどきのため、一部不快感をあおる表現、グロテスクな描写を含みます。
    ※縦書きにつき、タップで全画面表示

    ※ 世界観についてはすべてフィクションです
    ※ 実在する地名、建造物、関係機関とは一切関係ありません
    ゆきてかえらぬ1、顔のない男 2026.1.29

     【事の発端】

     ――これは一人の男の一生を追いかけた、素人によるルポルタージュである。実在の地名や本件に無関係の人名は伏字を使用し、場所についても特定を避けるためフェイクを挟むものとする。

    ▽▽

     一月末から二月の香港は、朝晩の気温がぐっと下がる季節だ。とはいえ、日中はポカポカと暖かいことも多く、大抵の人間はシャツ一枚で過ごしている。しかし空が灰色に染る今日は、午前十時を回ったのに肌寒く、俺は珍しく厚手のジャケットを羽織っていた。一九八○年代に流行ったヴィンテージ物で、年季の入った黄褐色と、くたびれた羊革の質感が気に入っている。
     この体感温度は、建物の外だろうと中だろうと、特に変わりはなかった。外がどれだけ寒かろうと建物内の空調が止まることは殆どないため、頭のてっぺんから涼しい風が吹き付けてくる。特に此処は近所の婆さんが細々と経営している小さな茶楼で、空調の調整などという気の利いたことはやってくれない。年中開きっぱなしのガラス扉からは、たまに雨が吹き込んでくる。それもまた居心地の良さに繋がっているから、誰も文句は言わないが。
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