『声』放課後の部室棟、夕陽が窓から差し込んで、埃がキラキラと舞っている。僕は自転車のメンテナンスを終え、汗とオイルで少し汚れた手をタオルで拭いていた。いつもなら、鳴子くんたちの笑い声やロードバイクの話で賑やかなこの場所も、今は静かだ。鳴子くんたちは先に帰り、僕は一人、片付けに追われていた。
「坂道くん」
その声が、ふいに耳に届いた瞬間、僕の手がピタリと止まった。タオルを握ったまま、まるで時間が凍ったように動けなくなる。心臓がドクンと大きく跳ねた。
「…○○、さん?」
振り返ると、そこには君が立っていた。○○さん。僕にとっては特別な存在。君の声は、いつも僕を不思議な世界に引き込む。透明で、柔らかく、それでいてどこか心を掴んで離さない響き。僕にとって、君の声は僕のことを力強く、胸を熱くするのに、どこか優しくて、懐かしい。
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