『原石に残る闇』夕陽が教室を橙色に染める中、いつものように一差が私の机に腰掛けてニヤニヤしてる。幼なじみでクラスメイトの一差は、昔からこうやって私の空間にズカズカ入ってくる。
「○○、マジでさ、お前って俺居ねぇとなんも出来ねぇのな!」
一差は私のノートを勝手に手に取って、パラパラめくりながら笑ってる。
「は!? そんなことないし! 自分でやれるもん!」
私がムキになって反論すると、一差は「ハハッ!」と声を上げて、さらに調子に乗った顔でこっちを見る。
「いやいや、今日の数学のプリント、俺が答え見せてやらなかったら絶対終わってなかったろ? 昔っから○○は俺に頼りっきりじゃん!」
確かに、ちっちゃい頃から一差には助けられてばっかりだ。迷子になった時は手を引いてくれたし、宿題忘れた時はノート貸してくれたし…。でも、こうやって一差にバカにされるのはムカつく!
「うるさいな、一差のバカ! 昔の話持ち出さないでよ!」 私がふてくされて言うと、一差は「バカってなんだよ!」と笑いながら私の頭をポンポン叩いてくる。
「やめてよ、髪崩れるじゃん!」
「ハハ、崩れても○○は可愛いからいいだろ?」
「……っ!?」
一差の軽いノリの言葉に、顔がカッと熱くなる。幼なじみだからって、こういうことサラッと言うのほんとやめて! 最近、一差のこういう言葉に心臓がバクバクしすぎるんだから…。 その時、教室のドアがガラッと開いた。
「お、○○、まだいたんだ」
聞き慣れない声。振り返ると、隣のクラスの男子生徒が立ってる。背が高くて、ちょっと大人っぽい雰囲気。体育のテニスで一緒になったことある人だっけ…? なんで私の下の名前知ってるんだろ?
「え、誰!?」
私がポカンと言うと、男子生徒はニコッと笑って近づいてくる。
「や、さっきの体育の試合で○○見ててさ。めっちゃ目立ってたから、話しかけたくて」
……え、なにこの状況!? 私が固まってると、一差の笑顔が一瞬で消えた。
「おい、ちょっと待てよ」
一差がスッと立ち上がって、男子生徒の前に立ちはだかる。いつも軽いノリの一差が、急に低くて鋭い声で話すもんだから、私までドキッとする。
「お前、誰だよ。○○に何の用だ?」
一差の目はめっちゃ真剣。いつもキラキラしてる瞳が、まるで睨むみたいに細まってる。
「え、いや、ただ話したかっただけで…」 男子生徒がたじろぐと、一差はニヤッと笑うけど、その笑顔がなんか…怖い。
「ハハ、悪いけどよ、○○は忙しいんだわ。な、○○?」
一差が振り返って私を見る。目で「何か言えよ」って圧かけてくる感じ。
「う、うん、そう! 忙しいんだ、ゴメン!」 私が慌てて言うと、男子は「そ、そっか…じゃ、またな」と気まずそうに教室を出て行った。 ドアが閉まる音が響いた瞬間、一差の空気がさらに変わった。
「○○」
低い声で名前を呼ばれて、ビクッとする。私が顔を上げると、一差がすぐそこに立ってて、急に私の肩に手を置いた。 その手、めっちゃ強い。痛いくらいにギュッと掴まれて、思わず「っ」と小さく声を漏らす。
「なぁ、○○」
一差が私の耳元で囁く。顔を上げると、すぐそこに一差の顔。ニヤッと笑ってるけど、額に冷や汗が浮いてて、口元がピクピクって引き攣ってる。
「……あの男、何だよ。なぁ、なぁって」
一差の声、めっちゃ低い。いつもみたいにバカっぽく明るい感じじゃなくて、なんか…ゾクッとするくらい真剣で、ちょっと怖い。
「い、一差? ちょっと、痛いって…どうしたの?」
私がビクビクしながら言うと、一差はさらにグッと顔を近づけてくる。夕陽に照らされたその目は、まるで私を逃がさないみたいな熱を帯びてる。
「お前、昔から俺居ねぇとダメだったろ? 幼稚園の時も、小学校の時も、いつも俺がそばにいたじゃん。なのに、なんで他の奴に笑いかけてんだよ。なぁ、○○、俺じゃダメなのかよ?」
「え!? ち、違うよ! ただ話しかけられただけで、笑ってないし!」
慌てて弁解するけど、一差の目は真剣そのもの。いつもふざけてる幼なじみのこいつが、こんな…熱い目で見てくるなんて。心臓がバクバクして、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
「…ハハ、冗談だって」
一差は突然パッと手を離して、いつもの調子で笑う。でも、さっきの冷や汗と引き攣った笑顔が頭から離れない。
「まぁ、○○のことは俺だけが知ってるんだし〜? 他の奴に気ぃ散らすなよ。昔からお前は俺の隣でいいんだから」
そう言って、一差は私の頭をポンポン叩く。いつもみたいに軽い仕草なのに、なんか…いつもと違う重みがある。
「もう、ほんとやめて! 髪! 髪!」
私が抗議すると、一差は「ハハ、悪ぃ悪ぃ!」と笑いながらカバンを肩に掛ける。
「ほら、○○、帰るぞ! 家まで、俺が送ってってやるよ!」
「え、うそ、いいの!?」
「当たり前だろ! 俺の○○を夜道に歩かせたくないからな!」
一差のその言葉に、顔がまた熱くなる。こいつ、ほんと何!? 幼なじみだからって、こんな…ドキドキさせるようなこと言うの、ずるいよ。さっきの嫉妬したみたいな目と、肩を掴まれた感触が、まだ胸の中でざわざわしてる。
「ほら、早く来いよ、○○!」
一差の明るい声に、私は慌ててカバンを掴んでその後を追った。夕陽に照らされた一差の背中は、昔から変わらずキラキラしているのに、今日だけは…何故か少しだけ黒く見えた。