『キミを待つ、いつもの場所で』いつものファミレスの窓際の席で、私はストロベリーパフェをスプーンでつついていた。甘酸っぱいイチゴと冷たいアイス、ふわっとしたホイップクリームが口の中で溶けて、ちょっと幸せな気分。待ち合わせの時間は少し過ぎているけど、まぁ、いつものことだよね、なんて思いながらパフェをもう一口。
ガチャリと店のドアが開き、聞き慣れた声が響く。
「…遅れてワリィ、○○。」
見上げると、そこには制服のジャケットを肩に引っ掛けた荒北くんが立っていた。少し汗ばんだ額を拭いながら、ドカッと向かいの席に腰を下ろす。ワイルドな雰囲気全開で、ファミレスのほんわかした空気が一瞬で彼色に染まる。
「部活のミーティングが長引いちまって、全然終わらなくてヨォ。東堂がまた細けぇことグチグチ言ってきて、メンドクセェったらありゃしねェ!」
荒北くんは髪をかき上げながら、ちょっとイラついたようにまくしたてる。でも、その目にはどこか楽しそうな光があって、私はクスッと笑ってしまう。
「ふーん、東堂くんまた熱入っちゃったんだ? 荒北くん、ちゃんと聞いてた?」
私はパフェのイチゴを口に運びながら、からかうように言った。スプーンをくわえたまま、ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべて。
「ハッ、聞いてたっつーの! まぁ、半分くらいは聞いてなかったけどナァ!」
荒北くんはニヤッと笑って、テーブルに肘をつく。その視線が、ふと私の顔で止まっていた。
「…ん? おい、○○。」
彼の声が少し低くなる。なんだか急に真剣なトーンで、私はスプーンを止めて首をかしげた。
「なに?」
「ほっぺ、…ついてんゾ♡」
荒北くんがニヤリと笑い、身を乗り出してくる。え、なに? と慌てる間もなく、彼の指が私の頬にそっと触れる。ひんやりした感触にドキッとするけど、それ以上にびっくりしたのは、荒北がその指についたホイップクリームをペロッと舐めたこと。
「…っ! ちょ、荒北くん!? な、なに!?」
顔がカッと熱くなる。私は慌てて頬を押さえたが、荒北くんはケラケラ笑いながら椅子にふんぞり返る。
「ハハッ、うめぇナァ、このクリーム! ○○のほっぺの味がするぜ?」
「もう、からかわないでよ! 恥ずかしいじゃん…!」
私は頬を膨らませて抗議するけど、内心はドキドキが止まらない。荒北くんのこういう不意打ち、ホントずるい。
「まァまァ、機嫌直せッて。ほら、オメェのパフェ、オレにも一口くれヨ。」
荒北くんはそう言って、私のスプーンを奪うように手を伸ばしてくる。ファミレスの明るい照明の下で、彼の笑顔がやけに眩しくて、私は少しだけ目を逸らしながらスプーンを渡す。
「…荒北くん、ほんとずるいよね。」
「ハッ、そりゃオレの魅力だろ? ○○も嫌いじゃねェだろ?」
そんな風に笑い合うふたり。ファミレスの窓の外では、夕暮れが街をオレンジ色に染めていく。パフェはまだ半分残ってるけど、この時間がずっと続けばいいなぁ、なんて私は心の中で思う。