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    vitamin6464

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    主に進捗上げか、没作とかを、ぽい。

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    vitamin6464

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    息抜きたにおちゃんが、息抜きなのに終わらない。
    ほんのりR18部分がある。

    以前書いた、アザトカワイイ(仮)と同じ二人です。

    愛というものは、「寒……」
     ガラス戸を開けた途端、入り込んでくる冷たい外気に、思わず一度引き返し、壁にかけてあった上着を無造作に羽織った。すぐに、自分のではないことに気づいたが、敢えてそのままで、再びベランダへ向かう。
     そこには、狭いながら、もう今年の役目を終えた小さなプランターと、アウトドア用の折りたたみ椅子が、置かれている。有名ブランドのとても素晴らしい椅子らしいが、尾形はその説明を何も覚えていない。外に置かれっぱなしのそれに腰を下ろすと、ひんやりとしていて、思わず一度立ち上がった。火照った身体に丁度いい、とはとても言えない。
     羽織っていただけの上着のジッパーを上げて、裾をなるべく下ろしてから、座り直す。大きすぎる上着からは、先ほどまで、しがみついていた身体と同じ匂いがする。それにすっぽり包み込まれていると、まだ身体の奥に生々しく残る感覚に気づかされ、思わず息が漏れた。
    じわじわと熱を孕む、その疼きから逃れるように、タバコを一本取りだした。
     やっと紙巻きタバコから、加熱式のものへ変えたのだから、部屋の中で吸っても構わないだろう、と尾形は勝手に思っているが、谷垣は首を縦に振ろうとしない。恐らく、本人はどう違うのかわかっていないだろう。しかし、紙タバコとは違う、独特の匂いがするので、結局尾形は、今までと変わらず、追い出されるように、ベランダでタバコを吸っている。
     加熱して少しだけ待つ。吸うにもコツがいる、やはり物足りない、と結局紙巻きタバコへ戻した上司を知っている。尾形は、自分が何を求めて、タバコを吸っているのか、よくわからないのもあり、これは、これで良いんじゃないか、と適応していた。
     何が理由で、こうして寒いベランダで震えてまで、タバコをふかしているのか。それは、きっと、少しでも距離を保ちたいから、なのだろう。いつまでもだらだらベッドで寄り添っていると、おかしくなってしまいそうで、こちらに都合の悪い時の逃げ場にもなる。だから、尾形は、きっとタバコ自体が好きで吸っている訳ではない。
     身体に悪い、といくら言われても、今はまだ必要な物だ。もう、これが必要ではなくなり、きっぱりと捨て去る、そんな日がいつか訪れるのか、今の尾形にはわからないけれど。

     はぁ、とかじかんだ指へ息を吹きかけ、もう一本吸ってから戻ろうか、と再びポケットからタバコを取り出した時、ガラっと引き戸の開く音がした。
    「寒……」
     先ほどの尾形と同じ言葉を言いながら、顔を覗かせたTシャツ姿の谷垣へ、視線を向ける。サンダルは一人分しかないから、谷垣は室内のまま、いつまで、そこにいるんだ、と険しい顔を見せた。
     尾形は加熱しそこねたタバコをくるくると指で弄びながら、口を開く。「……何だよ、また、やりたくなったか?」 
     にやりと笑いながらも、発した声が案外掠れていることに気づいて、尾形は喉の辺りを抑えてみる。自覚はなかったが、これではこちらの分が悪い、と尾形は小さく舌打ちをする。尾形のあんまりな言葉に、谷垣は、口を開いて、何かを言おうとしたはずなのに、すぐに閉ざした。それから、夜の静けさの邪魔にならないような声で、言葉を落とした。
    「……そうじゃなくて、なかなか戻ってこないから」
    「時計がないから、わからなかった」
    「いや、寒いだろう。風邪を引く。戻った方がいい」
    「……は、」
     尾形は、真っ当で真面目なことを言う谷垣を見つめて、首を傾げるような仕草をした。唇は薄らと微笑んで、今にもにやにやと笑い出しそうな表情だ。そうじゃなくて、何かを求めている、それに気づいたのか、谷垣は、あぁ、と溜め息のような声を吐き出して、わかった、と言わんばかりに、こちらを見た。
    「こっちに、戻ってきてくれ」
    「うーん」
    「あぁ、もう……。……いい加減に、戻ってこい」
    「まぁ、そこまで言うのなら」
     渋々と腰を上げる尾形に、あんたが、言わせたんだろう! と顔を赤らめて、憤慨する谷垣の顔がおかしくて、何度も笑った。一歩二歩三歩、そしてサンダルを雑に脱ぎ捨てて、室内へ上がると、その分厚い胸元へ尾形の身体がすっぽりと収まる。まるで、そこが自分のあるべき場所のように思えるから、嫌だな、と尾形は思いながら、ぎゅうと抱きしめられるのを待っていた。背後でベランダの戸が静かに閉まり、鍵がかけられる。
    「冷た……。すごい冷え切ってる、寒くないのか?」
     望み通り、抱きしめられると、その熱に身体も心もほぐされて、溶けていくような感覚に陥る。そんな自分が嫌だ、と思う気持ちは本心だ。この存在を、手放せなくなってしまう。いや、もうとっくにそうなのかもしれないけれど。それでも、なんとかこの心地良さに抗おうと、タバコを吸うという言い訳で、寒いベランダに居座り、間と距離を置いていたのに、結局は思い知らされる。
    「誰かさんの上着があったから」
     ぶかぶかで長い袖から覗く指先を見せてみれば、その手は大きな手で包み込まれた。守らねばならないような、そんなにか弱い存在でもないのに、こんなに冷たい、と谷垣は尾形を大切に扱い、凍えた手を一生懸命暖めようとしてくれている。優しい男だ。そして、同じぐらいおかしな男だ。それを見て、くつくつと笑っている自分も、十分おかしな男なのだろうが。
     独特の匂いが上着に染み付いたことも、咎められず、早く戻ろうと、今にも抱き上げられそうになりながら、なんだかなぁ、と尾形は思う。
    「それとも、温かい物でも飲むか?」
    「いや」
    「冷えすぎて、何も感じなくなっているんじゃないか。本当にあんたの身体、冷たいぞ」
    「いや、お前が暖めてくれるんじゃないのか? 違うのか」
     それなりに重たいはずなのに、軽々と抱き上げられてしまった尾形は、少しだけ上の目線で、谷垣の顔を見た。一瞬、きょとんと目を丸くしていたのが、何を言われたのかを理解して、頬を染める、その変化を尾形はじっと見つめていた。こちらの挑発に、素直に反応して、表情をくるくる変えてくれる、可愛い男。くすぐったいような感覚を、こんな尾形の胸の奥に与えてくれる相手を、谷垣以外知らないし、知りたくもない。
    「でも、これ以上はあんたの身体の負担になるから……」
     だから、このまま寝ようと、真面目でお利口なことを、目を伏せながら告げて、谷垣は尾形を抱き上げたまま、寝室へと向かう。先ほどまで、容赦なく組み敷いて、泣かせていた男の言う台詞かよ、と思いながら、尾形は、はぁ、と小馬鹿にしたような声を漏らした。そして、その太い首筋に両腕を絡めながら、谷垣の耳元へ唇を寄せた。
    「寒い。暖めてくれないのか」
    「……急に、ずるいぞ」
    「はは、」
     俺は、ずるくて卑怯で最低なんだ、とまでは流石に言わなかったが、ベッドに横たわらせられながら、尾形は目の前の男を迎え入れるように、両手を広げた。
    「身体がつらいなんて、今更だろうが。来いよ」
    「……」
    「あ、違うな。うん、…………おいで」
     そういうのが好きなんだろう、と言わんばかりに笑う尾形とは裏腹に、谷垣はひどく真面目な、きっと誰かが見れば怖いと思われても仕方がないような、そんな顔をしていた。招かれて、やってきた男のたくましい背中へ腕を回す、と同時に大きな手のひらが、裾から入り込んできて、肌の上へ直接触れた。冷たいな、と呟かれ、その手のひらから伝わる温度の差に、尾形はおかしそうに小さく笑った。
    「あつい」
    「……あんたが冷えすぎなんだ」
     風邪を引いたら、どうするんだ、とまだぶつくさ言っている谷垣に、尾形は馬鹿にしたように笑っていたが、さらに呟かれた、陰鬱な言葉にやがてそれは消え去っていった。
    「……冷たすぎて、昔の、ことを思い出す」
     昔の、と言いかけた言葉は、与えられた刺激に、不明瞭な、吐息のように変えられた。
    「あ、」
     情事の名残りを消し去れず、敏感なままの肌は、息を吹きかけられただけで、過剰に反応する。腫れたように、立ち上がったままの乳首を、舌でなぞられ、わざと音を立てて吸われた。胸を強く吸い上げられて、まるで飢えた大きな赤子のようだ、と罵る余裕はもうない。
    「あ…ぁっ、ぅ、ん」
     じんじんと痺れるような刺激に声が出てしまう。それを抑えようとして、唇を噛みしめて、手で押さえても、背中が反り、腰が浮いた。さっきまで執拗に愛撫されていたのだから、当たり前だ。すぐに火が点き、冷めていた肌も熱が上がる。
    「あ、もう、いいから…ぁッ!」
     もう片方の乳首を指で摘ままれて、尾形は喘ぐように谷垣へ訴えた。優しいようで、優しくはない愛撫に感じるのは、やはり先ほどまでの名残のせいなのだろうか。それとも、と顔を上げた谷垣の瞳から、真意を探るように見つめ、尾形は思う。
    「たにがき」
     おいで、とまた腕を伸ばして、そのどこか沈んだ表情を浮かべる男がやってくるのを待つ。少し伸びた髪を撫でながら、汗が滲んだ額に唇を押し当てた。当たり前だが、そこには古い傷跡も何もない。
     何もないのは、当然だ。今の二人は、まるで別の人間なのだから。頭の奥から蘇りそうになる、様々な記憶を葬り去るように、べろりと舌を出して、その額を舐めた。何をするんだ、と言わんばかりに顎を掴まれ、成り行きのように唇を重ねる。少ししょっぱくて、どこか苦い。それを谷垣も感じているのだろうか。
     そう、まるで別人のはずなのに、尾形の顎には過去の事故による縫合痕があり、右の腹には生まれつき傷跡のような痣がある。そして、どういう経緯のものか、聞いたことはないが、谷垣の頬にも、傷跡のようなものが残っている。それにそっと触れ、指先でなぞると、谷垣が目を細めた。
     そのまま見つめ合い、新たな言葉も生まれないまま、静かに目を閉ざして、唇を重ねる。こんな穏やかな気持ちで、この男と、こういう関係になるとは思わなかった。だけれど、あまりにも自然で、何も不思議なことはないような気もする。



    続くよ。 
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