愛というものは、「寒……」
ガラス戸を開けた途端、入り込んでくる冷たい外気に、思わず一度引き返し、壁にかけてあった上着を無造作に羽織った。すぐに、自分のではないことに気づいたが、敢えてそのままで、再びベランダへ向かう。
そこには、狭いながら、もう今年の役目を終えた小さなプランターと、アウトドア用の折りたたみ椅子が、置かれている。有名ブランドのとても素晴らしい椅子らしいが、尾形はその説明を何も覚えていない。外に置かれっぱなしのそれに腰を下ろすと、ひんやりとしていて、思わず一度立ち上がった。火照った身体に丁度いい、とはとても言えない。
羽織っていただけの上着のジッパーを上げて、裾をなるべく下ろしてから、座り直す。大きすぎる上着からは、先ほどまで、しがみついていた身体と同じ匂いがする。それにすっぽり包み込まれていると、まだ身体の奥に生々しく残る感覚に気づかされ、思わず息が漏れた。
4079