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    くろん

    @NKGJER

    サン星サン沼にずぶってる20↑

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    POIPOI 42

    くろん

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    星サン前提のジェパ→ポサ。
    正体を知らないままポサンに恋してしまうジェパードの話。

    ##未ログ
    #星サン

    Blue love 巡回というのは治安維持において重要な役割を果たしているが、いかんせん地味な仕事だった。何事もなければただ歩いているだけという気楽さも手伝って、シルバーメインの中にもつい気が緩みがちになる人間が少なくない。
     そんな中にあって、ジェパードだけは毎回必ず、驚くほどの真剣さで巡回に臨んでいた。
     元より、それが仕事であるならばたとえ全くの無意味であっても手を抜くことなど思いもよらない男である。それが一見地味だが重要な業務とあれば、気を緩ませることなどありえなかった。
     それゆえ、彼はシルバーメインの中でも断トツで巡回中のトラブル遭遇率が高かった。他の人間ならトラブルにカウントしないような些細な事象まで拾い上げ、真摯に対応する律儀さの表れである。
    「きゃっ」
     今日もまた、そんなささやかなトラブルがジェパードの眼前で発生した。彼から少し離れた所を歩いていた女性の髪飾りが、急な突風にさらわれて地面に落ちたのである。
     落下地点は女性とジェパードのちょうど中間あたり。女性は特に怪我などもなく、自力で髪飾りを拾うのに何の支障もありそうではない。進行方向からは逸れているし、自分が手を貸すまでもないだろうと素通りしたとて薄情と非難されることもないような状況だった。
     しかしここで何の迷いもなく当たり前のように進路を変えてみせるのが、ジェパードのジェパードたる所以である。
    「――どうぞ」
     髪飾りを拾い上げ、汚れを払おうとしてその繊細な意匠をうっかり傷つけてはいけないと思い直し、そのまま女性へ差し出した。女性は風を避けるように伏せていた顔をあげ、「まあ、ありがとうございます」と嫋やかに微笑む。
     その瞬間。
    (!!)
     真っ白な鳥たちが一斉に飛び立った。祝いの鐘が盛大に鳴り響き、天から降り注いだ光を浴びて常冬の碑がキラキラと輝く――すべて、ジェパードの脳内での出来事である。
    (……なんて、綺麗な人なんだ……!)
     決して自慢するわけではないが、ジェパードは自分の容姿が整っている部類に入るという自覚があった。そして身内の贔屓目を除いても姉は美人であるし、妹もまた可愛らしい顔立ちをしている。要するに美形は散々見慣れているわけである。
     そのジェパードをして思わず息を呑ませるほど、彼女は魅力的だった。宵の空で染め上げたような深い青の、艶やかに流れる長い髪。どんな宝石も霞ませる澄んだ淡い緑の瞳。手はすらりと長く伸び、滑らかな頬に添えられた指の先の先まで一部の隙なく美しい。
    「わざわざ拾っていただいて……噂通り、ジェパード様は親切なお方なのですね」
     彼女は声もまた美しかった。天上の音楽、あるいは天使の歌声。いつまでも聴き続けていたい心地よさだ。そんな声が自分の名を紡いだことに、否応なくジェパードの胸は高鳴った。
    「……僕のことを、ご存知なのですか?」
    「ええ、シルバーメイン戌衛官のジェパード様といえば有名人ですもの。優秀で実直な気高い戦士だと……いやだわ、ごめんなさい私ったら。一方的に存じ上げているだけですのにお名前を呼んだりして……不躾でしたわね」
     女性はバツが悪そうに眉を下げた。そんな表情ですら、見惚れるほどに麗しい。
    「い、いえ。お気になさらず。僕の名前なとでよければ、いくらでも呼んでください!……あ、いや、その、」
     咄嗟にフォローしてから、妙なことを口走ったと慌てて弁明しようとするジェパードに、彼女はふふっ、と小さく笑った。その僅かにあどけなさを覗かせる笑顔に、ジェパードの目は釘付けになる。
    「ジェパード様は親切なだけでなく、ユーモアもおありになるのですね」
    「そのような……お恥ずかしい限りです。身内にはいつも、お前は冗談が通じないと叱られてばかりで」
    「そうなのですか? 私からすれば、ジェパード様はとても楽しい方ですのに。こうしてつい話し込んでしまうほど……いけませんわね、お仕事中だというのに長々とお引き止めしては」
    「っぼ、僕も、貴女とはもっとお話しがしたいと……」
    「まあ……」
    「また、会えるでしょうか」
    「……ええ、同じ街に住んでいるのですから」
     改めてありがとうございました、と頭を下げて、彼女は踵を返した。
    「あ、あの!」
     ジェパードは慌てて呼び止める。
    「……お名前を、教えていただけませんか」
    「……ポサン、と申します」
     簡潔にそれだけを告げ、すっと背筋の伸びた優美な後ろ姿が遠ざかってゆく。残された名前を胸中で幾度も繰り返しながら、ジェパードはいつまでもその背中を見送っていた。

    *

    「なあおい、一体どうしちまったんだよジェパードさんは」
    「詳しいことは知らないが、昨日巡回から戻ってきたときにはもうあんなんだったらしいぞ」
    「俺は、恋煩いじゃないかって聞いたんだけど」
    「ハァ!?」
    「嘘だろ!? あの堅物戌衛官サマが!?」
     ポサンと運命的な出逢いを果たしてからというもの、ジェパードの様子はすっかりおかしくなってしまった。今の彼に、ジェパードといえば仕事、仕事といえばジェパードとまで言われた厳格さは欠片も見られない。書類を手に取ってはため息をつき、ペンを一行走らせては目を閉じて物思いに耽り。
     それでも辛うじて仕事の質は保っていたから表立って苦言を呈する者はいなかったが、その代わり噂が駆け巡るのはあっという間だった。やれ詐欺に引っかかっただのうっかりギャンブルに手を出して大金をスっただの好き勝手なことを言われたが、やはり一番優勢だったのは「あの」ジェパードがついに恋に落ちた、というものだった。本人の堅物さと色恋とのギャップがウケたのだろう。こうして末端の一般兵までもが大盛り上がりする事態になっていた。
    「しかしジェパードさんってあれだよな、これまでどんな美女に言い寄られても絶対に靡かないって言われてただろ」
    「そんな人が惚れる女性ってどんだけ美人なんだよ……あー、俺も会ってみてー!」
    「なになに、ジェパードさんに張り合おうってか?」
    「ばっかお前、そんな無謀なことするかよ! 見るだけでいいんだよ、見るだけで。目の保養ってやつ」
    「そんなこと言って、うっかり一目惚れでもしたらどうすんだ」
    「おい」
    「そんなことしませんー。俺は自分の分を弁えてる男ですー」
    「おいってば」
    「何だよ、お前まで俺が無謀だって言いたいのか?」
    「そうじゃねぇって、後ろ、後ろ!」
    「あ? 後ろ? ……っジェ、ジェパード戌衛官!?」
    「――お前たち」
     振り返った一般兵は、目に飛び込んできたジェパードの姿に悲鳴を上げて硬直した。これは間違いなく雪原に積もる雪よりも冷たい声での叱責コースだ、と三人揃ってガタガタと震え始めたのだが。
    「息抜きは大事だが、あまり気を抜きすぎるなよ」
     ジェパードは一人の肩を軽くポン、と叩いて、小言にもならないような言葉だけを残して去っていき。
    「……恋愛パワーってすげぇー……」
     三人はまだ見ぬ美女のことを、勝手に女神と崇めることにしたのだった。

    ***

     はぁ、とジェパードの口から物憂げなため息がこぼれ落ちる。
     あれから一月たったが、ジェパードは未だにポサンと再会できていなかった。それで気持ちが冷めるかといえばそんな気配はまるでなく、それどころか想いは募るばかり。寝ても覚めても彼女の姿や声が頭の中で渦巻いており、こうして巡回に出ているときでも無意識に青や緑を探してしまう。
    「まぁ、貴女ったら相変わらずね」
     ――なんてことだ、とうとう幻聴まで聞こえてしまうなんて。
     反射的にそう考えてから、いや今のは間違いなく本物のポサンの声だ、と思い直した。ジェパードは路地の奥――声が聞こえた方へと足を向ける。巡回ルートからは逸れるが、有事のときにはルート外に出ることもあるのだから理由が私的なことであっても少しくらいなら許容範囲だろうと、以前のジェパードなら絶対に考えないような屁理屈を捏ねて自分を納得させた。
    (……! 本当に、ポサンさんだ……!)
     辿り着いた先には、思った通り夢にまで見た彼女の姿があった。同じ街に住んでいるのだからというあの言葉通りこうしてまた会えたと、それが遠回しな「積極的に会うつもりはない」という拒絶だとは気づかないまま、ジェパードは己の幸運を噛み締める。
     すぐにでも駆け寄ってこの喜びを伝えたいところだったが、生憎と彼女は一人ではなかった。いくら恋に浮かれきっていても彼は由緒正しき育ちのお坊ちゃん、他人の会話に割って入るなどという無作法は思いもよらないのである。
    (あの二人、友人だったのだな……)
     ポサンの話し相手とは、誰あろうジェパードもよく知る人物で――開拓者の少女、星であった。身近な知人と正体すら分からない憧れの君との間に繋がりがあるとはと、世間の狭さにジェパードは唸る。
    (それにしても……やけに親密じゃないか……?)
     身を寄せ合うようにして話す二人に、ジェパードの胸にもやもやとしたものが広がる。恋人でも何でもないジェパードが嫉妬する筋などないが、理性でどうにかできるものでもない。
     ジェパードは路地の陰に身を潜めたままチラチラと二人の様子を窺う。言うまでもなく歴とした盗み見であったが、(これはただ話が終わるのを待っているだけだ)とどう考えても苦しい屁理屈を自分に言い聞かせた。いかな由緒正しき育ちのお坊ちゃんとはいえ、彼にもそこそこ俗な一面があったのである。
    (……いや、ごく普通に友人同士が話しているだけだろう。何も気にすることなどない)
     ふ、と息をつけば冷静さが戻ってくる。友人相手に妬く必要などどこにもないと気づいて、もやもやがすっと晴れる心地がした。
     しかし、そんな風にジェパードが気を取り直した途端。
    「ん……っ」
     不意にポサンが声をあげた。実践経験のないジェパードにも明らかにそれと分かる、甘く艶めいた声だった。オフショルダーを纏ったポサンの剥き出しの肩口に、星の顔がうずめられている。
    (……!?)
    「……もう、ダメよ星ったら。こんな所で」
    「それは、こんな所じゃなかったらいいってこと?」
    「分かってるくせに……いじわる言わないで……」
     初めて聞いたときは心が洗われるほど清らかだと思ったポサンの声は、今や淫靡な色を孕んでとろりと星に絡みついているかのようだった。そんなものを聞かされれば、彼女たちの関係など考えるまでもなく分かってしまう。
    (……そうか、失恋したのか、僕は)
     彼女に想いを告げるどころか、名前以上のことを知る機会すらないまま。あまりにもあっけない幕切れに、実感も悲しみも湧いてこなかった。
     ふらり、とジェパードは凭れていた壁から身を起こした。これ以上この場にとどまっていてもどうにもならないと、もつれそうになる脚を何とか動かして歩き始める。
    「――ふふ、じゃあ、ホテル行こうか、サンポ」
    (は……?)
     その時聞こえた思いがけない名前は、ジェパードを引き留めるに充分だった。奴が現れたのか? だが何の気配も、と混乱しながら振り向けば、
    「星さん! この姿の時はその名前で呼ばないでくださいと言ったでしょう?」
     艶やかで蠱惑的な唇から忌々しい詐欺師の声を吐き出すポサンの姿があった。
    (は……)
    「あなたがポサンの格好を指定したんじゃないですか。最後までやり切ってくださいよ」
    「だってその格好でポサンじゃなくてサンポなの、なんかぐっと来るんだもん」
    「うわ、倒錯的」
    「でもそういう所も好きなんでしょ?」
    「……黙秘します」
     どれだけ目を凝らして見ても、そこにいるのは変わらずあの麗しい、一目でジェパードを虜にした女性だ。それなのに聞こえてくる声は、まぎれもなく彼の天敵とも言っていい男の声で。
    (……)
     ジェパードは完全に思考を止めて、ただ逃げ出したいと本能が訴えるままによたよたとその場を後にした。

    *

    「……なあおい、一体どうしちまったんだよジェパードさんは」
    「……なんでも、失恋したらしいぞ」
    「はっ!? 振ったってことか? あのジェパードさんを? そんな女がいるってのかよ!」 
     一般兵たちが心配半分、好奇心半分で恐る恐る窺う先には、どう見ても魂がどこかを浮遊しているとしか思えないジェパードがいた。目は虚ろで焦点が合っておらず、口は半開き。それでも尚ちゃんとイケメンなのが驚きだが、こんな状態で手だけは的確に動いて書類を捌いているという絵面の不気味さの前では、その美形ぶりも霞むというものだ。
    「いくら仕事できてるっつっても、さすがに休ませた方がいいんじゃねぇか……?」
    「いや、それが、上の人間が休めって声掛けたら、一切ノーリアクションで淡々と仕事の報告されたらしくて」
    「うわ……」
    「やたらと休ませるより仕事させといた方がいいって判断になったんだと」
    「はー……」
     さすが仕事人間、とつぶやく一般兵たちには知る由もない。
     虚空を見つめながらひたすらに手を動かすジェパードの脳内で、無残に打ち砕かれた恋への慟哭が渦巻く中、女神とはかけ離れたとんでもない相手への想いがうっかり芽生えかけていることを。
     それが完全に芽を出してしまうのかはたまた気付かれぬまま枯れてゆくのかはきっと、神ですらあずかり知らぬことである。
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    くろん

    DONE余裕ある大人の態度で星ちゃんを口説くサンポとばっちり口説き落とされる星ちゃんとその後の逆転劇と星ちゃんの独占欲の話
    かわいいあんたは私だけのもの 未だに時折何かの間違いか、そうでなければ夢か何かかと思ってしまうが、私は今、サンポといわゆる「お付き合い」というものをしている。
     サンポから好きです付き合ってくださいという申し出を、少しばかり遠回しな言い方で受けた時、私が真っ先に感じたのは困惑だった。
     私には「好き」というものが分からなかったから。
     私の知っている好きとは星穹列車の仲間や開拓の旅で出会った人たちに向くものであり、それはきっとサンポの言う好きとは違うものだろう。私は彼らと恋人のように接したいとは思わない。
     イエスノーの返事の代わりに正直にそう打ち明ければ、サンポは「ならお試しで付き合うのはいかがです?」と言った。
    「お試し?」
    「ええ。僕だって始めから都合よく両思いになれるだなんて思っていません。まずは付き合ってみて、僕を好きになれるかどうか試してほしいんです。じっくり考えていただいて構いませんよ? こう見えて気は長い方ですから――ああもちろん、お試しの間は一切手を出したりはしません、誓って」
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